105話「こちら側」
南部。
一時保護区域。
昨日まで何もなかった土地に。
いくつもの天幕が並んでいる。
水を運ぶ兵士。
鍋をかき混ぜる神官。
怪我人を診る医師。
王。
「随分と」
「形になったな」
ダイヤ。
「はい」
「食料も」
「当面は問題ありません」
王。
「当面?」
「三日です」
「…………」
ジョーカー。
「大変」
「長期的ですね」
ダイヤ。
「黙っていてください」
王。
「三日後は?」
「南部の町から」
「追加で買い集めれば」
「もう少し」
「ですが」
ダイヤが帳簿を閉じる。
「その南部から」
「陛下に」
「話があるそうです」
◇
南部の町。
広場には。
多くの住民が集まっていた。
王。
「遠慮はいらん」
「思っていることを」
「話してくれ」
最初に手を挙げたのは。
一人の女性。
「私は」
「あの人たちを」
「助けることには」
「賛成です」
「昨日も」
「毛布を持っていきました」
ハート。
「ありがとうございます」
「でも……」
女性。
「いつまで」
「いるんですか?」
王。
「…………」
「まだ」
「分からん」
女性。
「そうですか……」
次。
宿屋の主人。
「空いてる部屋なら」
「何部屋か」
「使ってもらってもいい」
「ただ」
「ずっと無料は」
「無理です」
王。
「ああ」
「当然だ」
農家の男。
「働くなら」
「うちでも」
「何人か雇えるぞ」
すると。
別の男が声を上げる。
「仕事まで」
「用意するのか?」
「俺の息子だって」
「仕事を探してるんだ」
農家。
「じゃあ」
「お前の息子」
「うち来るか?」
「農業は」
「嫌だって」
「言ってる」
「じゃあ知らねえよ」
「そういう話じゃない!」
王。
「…………」
ジョーカー。
「仕事がないことと」
「したい仕事がないことも」
「同じ言葉で」
「呼ばれるのですね」
王。
「ややこしくするな」
「私は」
「整理しております」
◇
学校。
教師。
「今でも」
「かなりの人数です」
「難民の子供たちまで」
「受け入れるとなると」
「教室も」
「教師も」
「足りません」
ハート。
「子供に」
「罪はありません」
教師。
「分かっています」
「だから」
「困っているんです」
ハート。
「…………」
診療所。
医師。
「十人なら」
「診られます」
王。
「二十人なら?」
「何人かを」
「廊下に寝かせます」
「五十人なら?」
医師。
「…………」
「診られません」
王。
「…………」
外へ出る。
ハートは。
少し黙っている。
王。
「どうした?」
ハート。
「助けたいと」
「思うだけでは」
「足りないのですね」
ダイヤ。
「はい」
「食料も」
「家も」
「医師も」
「教師も」
「突然」
「増えませんので」
ハート。
「あなたは」
「本当に」
「現実的ですね」
ダイヤ。
「褒め言葉として」
「受け取ります」
ジョーカー。
「恐らく」
「違うと思います」
その時。
一人の老人が。
王を呼び止める。
「陛下」
王。
「なんだ?」
老人。
「あの人たちを」
「助けるなとは」
「言いません」
「でも」
老人が。
国境の方を見る。
「昨日から」
「俺たちの町は」
「何もかも」
「変わってます」
「王都は?」
王。
「…………」
「北部は?」
「西部は?」
「東部は?」
老人。
「王国で」
「助けるんですよね?」
「だったら」
「なんで」
「南部だけで」
「助けてるんです?」
王。
「…………」
老人。
「国境が」
「ここにあるのは」
「俺たちが」
「決めたわけじゃない」
王は。
少し黙る。
「ああ」
「その通りだ」
◇
夜。
会議室。
机いっぱいに。
王国の地図が広げられている。
王。
「南部だけに」
「背負わせるのは」
「やめる」
ダイヤ。
「各地に」
「受け入れ可能な人数を」
「確認します」
王都。
北部。
西部。
東部。
ダイヤが。
地図を指していく。
「空いている住居」
「食料」
「仕事」
「医療」
「学校」
「それぞれを確認し」
「実際に」
「受け入れられる人数を」
「積み上げます」
ハート。
「救いたい人数ではなく?」
ダイヤ。
「救える人数です」
「受け入れた後に」
「食べさせられないのでは」
「意味がありません」
王。
「ああ」
「やろう」
数日後。
各地から。
回答が届く。
ダイヤ。
「王都」
「五百」
「東部」
「三百」
「西部」
「二百」
「北部」
「百五十」
「南部を含めても」
「二千人ほどが」
「現実的な限界かと」
王。
「国境は?」
ダイヤ。
「現在」
「五千を」
「超えております」
王。
「…………」
ハート。
「半分にも」
「届きませんね」
ダイヤ。
「はい」
ジョーカー。
「受け入れる場所を」
「探している間にも」
「受け入れてほしい人は」
「増えておりますので」
王は。
地図を見る。
しばらくして。
王国の外へ。
視線を移す。
王。
「ダイヤ」
「はい」
「近くの国は」
「何カ国ある?」
ダイヤ。
「…………」
「陛下?」
王。
「余たちは」
「王国の中だけで」
「何とかしようとしていた」
「だが」
「逃げてきた者を」
「王国だけで」
「抱えなければならない」
「理由もない」
ハート。
「近隣諸国にも」
「協力を?」
「ああ」
王が。
地図の周辺国を指す。
「食料」
「医薬品」
「金」
「受け入れられるなら」
「人も」
「それぞれ」
「できることで」
「協力してもらう」
ダイヤ。
「断る国も」
「あるでしょう」
王。
「だろうな」
「だが」
「聞かなければ」
「全ての国が」
「断ったのと」
「同じだ」
ダイヤ。
「…………」
「使者を」
「送りましょう」
王。
「ああ」
ハート。
「これなら」
「もう少し」
「多くの人を」
「救えるかもしれません」
王。
「そうだな」
ジョーカー。
「皆様」
「快く」
「引き受けてくださると」
「よいですね」
王。
「…………」
「その言い方」
「絶対に」
「うまくいかんだろ」
「私は」
「期待しているだけですが」
数日後。
返事が届いた。
ダイヤ。
「まず」
「西の隣国」
「食料と医薬品を」
「提供するとのことです」
ハート。
「受け入れは?」
「しません」
王。
「…………」
「次」
「北西の国」
「五百人まで」
「受け入れると」
王。
「おお」
「ただし」
「それ以上は」
「受け入れないと」
「十分だ」
「次」
ダイヤが。
最後の手紙を見る。
「南西の国」
「…………」
王。
「どうした?」
ダイヤ。
「一切」
「協力しないとのことです」
ハート。
「理由は?」
ダイヤが。
手紙を読む。
「我が国の」
「問題ではない」
「以上です」
王。
「…………」
ジョーカー。
「大変」
「分かりやすい」
「外交文書ですね」
王。
「だが」
「一つの国は」
「五百人を」
「受け入れてくれる」
「食料を出す国もある」
「昨日よりは」
「前に進んだ」
ダイヤ。
「はい」
「問題が」
「一つ減りました」
王。
「珍しいな」
「そして」
「新しい問題が」
「一つ増えました」
王。
「…………」
「なんだ?」
ダイヤ。
「五百人の」
「移住についてです」
王。
「受け入れてくれるのだろう?」
「はい」
「ですが」
ダイヤが。
国境から届いた報告書を。
王の前へ置く。
「難民側が」
「行きたくないと」
「言っております」
王。
「…………」
ハート。
「なぜ?」
「王国に」
「残りたいそうです」
王。
「…………」
ジョーカー。
「受け入れる側にも」
「都合があり」
「受け入れられる側にも」
「都合がある」
王。
「…………」
ジョーカー。
「なかなか」
「両想いには」
「なりませんね」
王は。
報告書を見る。
助ける場所を。
増やした。
それでも。
人は。
荷物ではない。
行き先まで。
勝手に決めることは。
できなかった。




