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王の愚者  作者: クロワ
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104/110

104話「選ぶ命」

翌朝。


南部国境。


兵士。


「三千四百を」


「超えました」


王。


「…………」


昨日より。


さらに人が増えている。


国境の外では。


神殿から運ばれたパンと水が配られていた。


ダイヤ。


「陛下」


「昨日は」


「全員に食料を渡しました」


「今日もできます」


「明日も」


「恐らくできます」


王。


「その先は?」


「保証できません」


ハート。


「だからこそ」


「早く受け入れるべきです」


ダイヤ。


「全員をですか?」


ハート。


「…………」


ダイヤ。


「今後」


「一万人になっても?」


「二万人になっても?」


ハートは答えない。


王。


「全員が無理なら」


「まず」


「危険な者からだ」


「子供」


「怪我人」


「病人」


「命を狙われている者」


「そういった者を」


「優先して入れる」


ダイヤ。


「現実的かと」


ハート。


「…………」


「分かりました」


王。


「やってみよう」


◇


国境の門。


兵士たちによる聞き取りが始まった。


最初に来たのは。


小さな子供を連れた夫婦。


兵士。


「お子さんと」


「母親は」


「中へ」


母親。


「夫は?」


「健康な成人男性は」


「後になります」


「…………」


母親が。


子供の手を握る。


「なら」


「私たちも」


「ここにいます」


兵士。


「ですが」


「子供だけでも」


「安全な場所へ――」


「家族です」


兵士は。


何も言えなくなった。


少し離れた場所で。


王が見ている。


「…………」


ダイヤ。


「家族は」


「一緒に扱いましょう」


王がダイヤを見る。


「いいのか?」


「引き離してまで」


「守る制度では」


「意味がありません」


王。


「ああ」


「そうしよう」


次。


健康な若い男。


兵士。


「怪我は?」


「ない」


「病気は?」


「ない」


「家族は?」


「いない」


「宗教を理由に」


「追われていますか?」


「いや」


兵士。


「では」


「しばらく」


「外で待ってください」


男。


「…………」


「俺の村は」


「戦場だ」


兵士。


「…………」


「帰ったら」


「死ぬかもしれない」


「でも」


「怪我してないから」


「俺は後なのか?」


兵士は。


答えられない。


次。


一人の男。


「私は」


「信仰を理由に」


「追われました」


兵士。


「分かりました」


「確認します」


すると。


後ろに並んでいた老人が笑う。


「俺は」


「神なんぞ」


「信じちゃいない」


「家を焼かれて」


「息子が死んだだけだ」


男を見る。


「こいつより」


「俺は」


「安全なのか?」


王。


「…………」


◇


昼。


聞き取りは。


ほとんど進んでいなかった。


兵士。


「陛下」


「確認に」


「時間がかかりすぎます」


「それと……」


王。


「なんだ?」


「入国の条件が」


「人々の間に」


「広まっています」


少し先。


男が必死に訴えている。


「俺もだ!」


「俺も」


「宗教を理由に」


「追われた!」


兵士。


「先ほどは」


「違うと」


「言っていたではないか」


男。


「…………」


「思い出したんだ!」


兵士。


「…………」


ジョーカー。


「試験というものは」


「合格条件が分かれば」


「皆様」


「正しい答えを」


「覚えるものです」


王。


「人の命を」


「試験にするな」


ジョーカー。


「ですが」


「現在」


「合格者を」


「選んでおります」


王。


「…………」


ハートが。


長い列を見る。


「陛下」


「これは」


「救う者を」


「選んでいるのでしょうか」


「それとも」


「救わない者を」


「選んでいるのでしょうか」


ダイヤ。


「結果だけなら」


「同じです」


ハート。


「私には」


「同じには」


「思えません」


ダイヤ。


「私にもです」


ハートが。


ダイヤを見る。


「ですが」


「数には」


「限界があります」


◇


夕方。


会議室。


机の上には。


新しく作った条件が並んでいる。


子供。


怪我人。


病人。


迫害。


家族。


王。


「条件を」


「増やせば」


「公平になると」


「思った」


ダイヤ。


「私もです」


王。


「だが」


「増やすほど」


「その間にいる者が」


「増えていく」


ハート。


「人は」


「条件通りには」


「生きていませんから」


王。


「…………」


ジョーカー。


「国境の中へ」


「入れる者を」


「決めるために」


「人と人との間にも」


「随分と」


「国境を作りましたね」


王は。


机の紙を見る。


そして。


一枚ずつ。


裏返していく。


ダイヤ。


「陛下?」


王。


「やめよう」


「選別をですか?」


「違う」


「選ぶものを」


「変える」


三人が王を見る。


王。


「余たちが」


「決めるべきなのは」


「誰が」


「救われる価値があるかではない」


「今」


「誰の命が」


「危ないのかだ」


ハート。


「…………」


王。


「国境の外に」


「一時的に」


「人を保護できる場所を作る」


「そこでは」


「出身も」


「宗教も」


「問わん」


「水」


「食料」


「最低限の寝床」


「医療を用意する」


ダイヤ。


「費用が」


「かかります」


王。


「分かっておる」


「計算しろ」


ダイヤ。


「…………」


「はい」


王。


「王国内へ」


「先に入れるのは」


「今すぐ治療が必要な者」


「保護者のいない子供」


「その他」


「ここに置けば」


「命に関わる者」


「家族は」


「可能な限り」


「引き離さない」


ハート。


「それ以外の者は?」


「そこで」


「待ってもらう」


ハート。


「いつまで?」


王。


「それを」


「これから決める」


ダイヤ。


「陛下」


「王国が」


「受け入れられる人数を」


「先に調べるべきです」


王。


「南部だけではなく?」


「はい」


「王都」


「北部」


「西部」


「東部」


「空いている住居」


「食料」


「仕事」


「医療」


「学校」


「それぞれ」


「実際に何人なら」


「受け入れられるのか」


「積み上げます」


王。


「救いたい人数ではなく」


「救える人数か」


ダイヤ。


「はい」


「養えない人数まで」


「受け入れることを」


「私は」


「救うとは思いません」


王。


「…………」


「ああ」


「やれ」


◇


夜。


国境の外。


兵士。


神官。


南部の住民たちが。


大きな布を張っている。


簡素な寝床。


水。


鍋。


治療をする場所。


その横では。


ハート自身も。


パンを運んでいる。


ダイヤは。


灯りの下。


帳簿を開いている。


王。


「何をしている?」


「費用の計算です」


「もうか?」


「陛下が」


「計算しろと」


「仰ったので」


王。


「…………」


ジョーカー。


「命にも」


「値段が?」


ダイヤ。


「違います」


ペンを走らせる。


「命を守るのに」


「いくら必要かを」


「数えているのです」


ジョーカー。


「…………」


「なるほど」


王が。


国境の向こうを見る。


今日も。


新しい人々が。


到着している。


王。


「これで」


「全員を救えるか?」


ダイヤ。


「いいえ」


即答だった。


王。


「…………」


「そうか」


ハート。


「陛下」


王。


「分かっておる」


「余には」


「全員を救う力はない」


少し黙る。


「だが」


「それは」


「救える者まで」


「見捨てる理由には」


「ならん」


ハート。


「はい」


ジョーカー。


「随分と」


「王様らしく」


「諦めるように」


「なられましたね」


王。


「褒めているのか?」


「もちろん」


「全部救えるなどと」


「思っている者より」


「少しは」


「信用できます」


王。


「…………」


遠く。


国境へ続く道には。


まだ。


人影があった。


王国は。


門を開けなかった。


だが。


目も。


閉じなかった。

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