104話「選ぶ命」
翌朝。
南部国境。
兵士。
「三千四百を」
「超えました」
王。
「…………」
昨日より。
さらに人が増えている。
国境の外では。
神殿から運ばれたパンと水が配られていた。
ダイヤ。
「陛下」
「昨日は」
「全員に食料を渡しました」
「今日もできます」
「明日も」
「恐らくできます」
王。
「その先は?」
「保証できません」
ハート。
「だからこそ」
「早く受け入れるべきです」
ダイヤ。
「全員をですか?」
ハート。
「…………」
ダイヤ。
「今後」
「一万人になっても?」
「二万人になっても?」
ハートは答えない。
王。
「全員が無理なら」
「まず」
「危険な者からだ」
「子供」
「怪我人」
「病人」
「命を狙われている者」
「そういった者を」
「優先して入れる」
ダイヤ。
「現実的かと」
ハート。
「…………」
「分かりました」
王。
「やってみよう」
◇
国境の門。
兵士たちによる聞き取りが始まった。
最初に来たのは。
小さな子供を連れた夫婦。
兵士。
「お子さんと」
「母親は」
「中へ」
母親。
「夫は?」
「健康な成人男性は」
「後になります」
「…………」
母親が。
子供の手を握る。
「なら」
「私たちも」
「ここにいます」
兵士。
「ですが」
「子供だけでも」
「安全な場所へ――」
「家族です」
兵士は。
何も言えなくなった。
少し離れた場所で。
王が見ている。
「…………」
ダイヤ。
「家族は」
「一緒に扱いましょう」
王がダイヤを見る。
「いいのか?」
「引き離してまで」
「守る制度では」
「意味がありません」
王。
「ああ」
「そうしよう」
次。
健康な若い男。
兵士。
「怪我は?」
「ない」
「病気は?」
「ない」
「家族は?」
「いない」
「宗教を理由に」
「追われていますか?」
「いや」
兵士。
「では」
「しばらく」
「外で待ってください」
男。
「…………」
「俺の村は」
「戦場だ」
兵士。
「…………」
「帰ったら」
「死ぬかもしれない」
「でも」
「怪我してないから」
「俺は後なのか?」
兵士は。
答えられない。
次。
一人の男。
「私は」
「信仰を理由に」
「追われました」
兵士。
「分かりました」
「確認します」
すると。
後ろに並んでいた老人が笑う。
「俺は」
「神なんぞ」
「信じちゃいない」
「家を焼かれて」
「息子が死んだだけだ」
男を見る。
「こいつより」
「俺は」
「安全なのか?」
王。
「…………」
◇
昼。
聞き取りは。
ほとんど進んでいなかった。
兵士。
「陛下」
「確認に」
「時間がかかりすぎます」
「それと……」
王。
「なんだ?」
「入国の条件が」
「人々の間に」
「広まっています」
少し先。
男が必死に訴えている。
「俺もだ!」
「俺も」
「宗教を理由に」
「追われた!」
兵士。
「先ほどは」
「違うと」
「言っていたではないか」
男。
「…………」
「思い出したんだ!」
兵士。
「…………」
ジョーカー。
「試験というものは」
「合格条件が分かれば」
「皆様」
「正しい答えを」
「覚えるものです」
王。
「人の命を」
「試験にするな」
ジョーカー。
「ですが」
「現在」
「合格者を」
「選んでおります」
王。
「…………」
ハートが。
長い列を見る。
「陛下」
「これは」
「救う者を」
「選んでいるのでしょうか」
「それとも」
「救わない者を」
「選んでいるのでしょうか」
ダイヤ。
「結果だけなら」
「同じです」
ハート。
「私には」
「同じには」
「思えません」
ダイヤ。
「私にもです」
ハートが。
ダイヤを見る。
「ですが」
「数には」
「限界があります」
◇
夕方。
会議室。
机の上には。
新しく作った条件が並んでいる。
子供。
怪我人。
病人。
迫害。
家族。
王。
「条件を」
「増やせば」
「公平になると」
「思った」
ダイヤ。
「私もです」
王。
「だが」
「増やすほど」
「その間にいる者が」
「増えていく」
ハート。
「人は」
「条件通りには」
「生きていませんから」
王。
「…………」
ジョーカー。
「国境の中へ」
「入れる者を」
「決めるために」
「人と人との間にも」
「随分と」
「国境を作りましたね」
王は。
机の紙を見る。
そして。
一枚ずつ。
裏返していく。
ダイヤ。
「陛下?」
王。
「やめよう」
「選別をですか?」
「違う」
「選ぶものを」
「変える」
三人が王を見る。
王。
「余たちが」
「決めるべきなのは」
「誰が」
「救われる価値があるかではない」
「今」
「誰の命が」
「危ないのかだ」
ハート。
「…………」
王。
「国境の外に」
「一時的に」
「人を保護できる場所を作る」
「そこでは」
「出身も」
「宗教も」
「問わん」
「水」
「食料」
「最低限の寝床」
「医療を用意する」
ダイヤ。
「費用が」
「かかります」
王。
「分かっておる」
「計算しろ」
ダイヤ。
「…………」
「はい」
王。
「王国内へ」
「先に入れるのは」
「今すぐ治療が必要な者」
「保護者のいない子供」
「その他」
「ここに置けば」
「命に関わる者」
「家族は」
「可能な限り」
「引き離さない」
ハート。
「それ以外の者は?」
「そこで」
「待ってもらう」
ハート。
「いつまで?」
王。
「それを」
「これから決める」
ダイヤ。
「陛下」
「王国が」
「受け入れられる人数を」
「先に調べるべきです」
王。
「南部だけではなく?」
「はい」
「王都」
「北部」
「西部」
「東部」
「空いている住居」
「食料」
「仕事」
「医療」
「学校」
「それぞれ」
「実際に何人なら」
「受け入れられるのか」
「積み上げます」
王。
「救いたい人数ではなく」
「救える人数か」
ダイヤ。
「はい」
「養えない人数まで」
「受け入れることを」
「私は」
「救うとは思いません」
王。
「…………」
「ああ」
「やれ」
◇
夜。
国境の外。
兵士。
神官。
南部の住民たちが。
大きな布を張っている。
簡素な寝床。
水。
鍋。
治療をする場所。
その横では。
ハート自身も。
パンを運んでいる。
ダイヤは。
灯りの下。
帳簿を開いている。
王。
「何をしている?」
「費用の計算です」
「もうか?」
「陛下が」
「計算しろと」
「仰ったので」
王。
「…………」
ジョーカー。
「命にも」
「値段が?」
ダイヤ。
「違います」
ペンを走らせる。
「命を守るのに」
「いくら必要かを」
「数えているのです」
ジョーカー。
「…………」
「なるほど」
王が。
国境の向こうを見る。
今日も。
新しい人々が。
到着している。
王。
「これで」
「全員を救えるか?」
ダイヤ。
「いいえ」
即答だった。
王。
「…………」
「そうか」
ハート。
「陛下」
王。
「分かっておる」
「余には」
「全員を救う力はない」
少し黙る。
「だが」
「それは」
「救える者まで」
「見捨てる理由には」
「ならん」
ハート。
「はい」
ジョーカー。
「随分と」
「王様らしく」
「諦めるように」
「なられましたね」
王。
「褒めているのか?」
「もちろん」
「全部救えるなどと」
「思っている者より」
「少しは」
「信用できます」
王。
「…………」
遠く。
国境へ続く道には。
まだ。
人影があった。
王国は。
門を開けなかった。
だが。
目も。
閉じなかった。




