102話「国境」
翌朝。
王都。
王が。
執務室へ入る。
机の上。
昨日と。
ほとんど変わらない。
書類。
王。
「…………」
ジョーカー。
「本日も」
「平和そうですね」
「ああ」
王が。
椅子に座る。
一枚。
手に取る。
「…………」
「長い一日に」
「なりそうだ」
◇
バンッ!!
扉が。
開く。
「陛下!!」
王が。
顔を上げる。
「なんだ?」
「南部より!」
「緊急の報告です!」
王。
「…………」
ジョーカー。
「おや」
王。
「何があった?」
「国境に」
「大量の人間が」
「集まっております!」
王の表情が。
変わる。
「兵か?」
「いえ」
「武装は」
「ほとんど」
「確認されておりません」
「では」
「何者だ?」
兵士。
「…………」
「民です」
◇
南部。
王国国境。
城壁の向こう。
人。
人。
人。
老人。
女。
男。
子供。
荷物は。
背負えるだけ。
裸足の者。
怪我をした者。
泣く子供を。
抱く母親。
門の前には。
王国兵。
「下がれ!」
「門から」
「離れろ!」
向こうから。
声。
「入れてくれ!」
「お願いだ!」
「子供だけでも!」
兵士。
「命令があるまで!」
「門は開けられない!」
一人の男が。
膝をつく。
「頼む……」
「帰ったら」
「殺される……」
◇
王都。
会議室。
王。
ジョーカー。
ハート。
ダイヤ。
スペード。
王。
「詳しく」
「説明しろ」
スペード。
「南の隣国で」
「争いが」
「激化しております」
「争い?」
「はい」
「以前から」
「国内で」
「宗教や」
「政治を巡る対立が」
「続いておりましたが」
「各地で」
「武力衝突に」
「発展したようです」
「現在」
「確認できているだけで」
「王国の国境付近に」
「二千を超える者が」
「集まっております」
王。
「二千……」
「今後」
「さらに増える可能性も」
「ございます」
ハート。
「食料は?」
スペード。
「ほとんど」
「持っていない者も」
「多いようです」
「怪我人は?」
「おります」
ハート。
「門を」
「開けるべきです」
ダイヤ。
「反対です」
王が。
二人を見る。
ハート。
「国境の前には」
「怪我人も」
「子供も」
「いるのでしょう?」
「はい」
「ならば」
「まず」
「救うべきです」
ダイヤ。
「救った後は?」
「…………」
「二千人分の」
「食料」
「住居」
「医療」
「衣服」
「それを」
「誰が」
「用意するのです?」
ハート。
「だからといって」
「目の前の者を」
「見捨てる理由には」
「なりません」
ダイヤ。
「王国にも」
「困っている者は」
「おります」
「戦争で」
「家を失った者」
「家族を失った者」
「働けない者」
「まだ直っていない」
「道も」
「橋もある」
◇
「同じ国費を」
「使うのであれば」
「私は」
「まず」
「王国の民のために」
「使うべきだと」
「考えます」
ハート。
「生まれた場所が」
「国境の向こうだった」
「ただそれだけで」
「救わないのですか?」
ダイヤ。
「私は」
「誰を」
「救いたいかではなく」
「国が」
「誰に責任を負うのかを」
「話しています」
沈黙。
王が。
スペードを見る。
「スペードは?」
「陛下が」
「受け入れると」
「決められるのであれば」
「軍は」
「その命令に」
「従います」
「ただ」
「受け入れた後まで」
「お考えください」
「人が」
「急激に増えれば」
「住居」
「仕事」
「食料」
「様々なものが」
「必要になります」
「南部の民から」
「不満も」
「出るでしょう」
「言葉や」
「習慣が違えば」
「揉め事も」
「起こり得ます」
王。
「治安か」
「はい」
「悪化すると」
「決めつけるつもりは」
「ございません」
「ですが」
「悪化するのではないかと」
「不安に思う民は」
「必ずおります」
ハート。
「不安を理由に」
「人を見捨てることは」
「できません」
スペード。
「見捨てろとは」
「申しておりません」
ダイヤ。
「私も」
「申しておりません」
王。
「…………」
「では」
「どうしろと?」
三人が。
王を見る。
ジョーカー。
「陛下」
「よかったですね」
王。
「何がだ」
「昨日」
「暇だと」
「仰っていたでは」
「ありませんか」
王。
「…………」
「撤回する」
「随分と」
「早かったですね」
王が。
立ち上がる。
「まず」
「南部へ行く」
ダイヤ。
「陛下」
「まだ」
「受け入れるかどうかは」
「…………」
「分かっておる」
「だから」
「見に行く」
「ここで」
「二千という」
「数字だけを見ていても」
「何も」
「分からん」
ハート。
「私も」
「参ります」
王。
「ああ」
スペード。
「護衛を」
「手配いたします」
王。
「頼む」
ダイヤ。
「私は?」
王。
「来い」
「…………」
「なぜです?」
「金の話を」
「する者が」
「必要だろう」
ダイヤ。
「行かなければ」
「使わずに」
「済むのですが」
ジョーカー。
「大変」
「合理的ですね」
◇
南部。
夕暮れ。
閉ざされた。
国境の門。
その向こう。
無数の人々が。
夜を迎える。
一人の少女が。
母親に。
尋ねる。
「ねえ」
「入れて」
「もらえる?」
母親は。
門を見る。
「…………」
答えられない。
高い壁の。
こちら側には。
灯り。
向こう側には。
人々。
その間に。
一本の。
国境があった。




