幹部会
第六十二話
龍牙連合幹部会
時を同じくして、龍牙連合本部。
本部の奥に設けられた会議室には、龍牙連合を支える直系組の組長たちが集まっていた。
中央には大きな長机が置かれ、その周囲に十人の男たちが席を並べている。
室内には重苦しい空気が漂っていた。
上座に座るのは、龍牙連合三代目会長、蒼真。
蒼真は集まった面々を見渡すと、ゆっくりと口を開いた。
「本日はお忙しい中、直系組の皆さんにお集まりいただき、ありがとうございます」
誰も口を挟まない。
「今回お集まりいただいたのは、他でもありません。我々龍牙連合に関わる、二つの重大な問題について協議するためです」
蒼真は一度言葉を切り、出席者たちに目を向けた。
会長の蒼真。
その隣に座るのは、龍牙連合本家若頭、九条宗玄。
龍牙連合の中枢を担い、会長を補佐する立場にある男だ。
続いて、東雲組組長、丸野圭吾。
葵組組長、南場寛。
奈良部組組長、奈良部 昭夫。
原道組組長、原道 大輔。
紫苑組組長、紫苑 仁。
大方組組長、大方 益徳。
世良組組長、世良 真流。
そして、野間組組長、野間 健介。
龍牙連合の会長と本家若頭、そして八つの直系組を率いる組長たち。
総勢十名による幹部会が、今まさに始まろうとしていた。
蒼真は机の上に置かれた資料に目を落とした。
「まず一つ目ですが、先日発生した龍魄の盗難事件についてです」
その言葉に、丸野がわずかに眉を動かした。
「皆さんもすでにご存じかと思いますが、我々が管理していた龍魄が鳴神所によって奪われました」
蒼真は続けた。
「その後、奪還のために動いていただいた方々の働きもあり、事態は一定の収束を見せました。しかし、問題はそれで終わりではありません」
蒼真は顔を上げた。
「龍牙連合の管理する龍魄を、他組織が力ずくで奪った。この行為を、我々がどのように受け止めるかです」
室内は静まり返っていた。
「ここで皆さんに協議していただきたいのは、鳴神所に対して返しを行うべきかどうか。そして、返しを行うのであれば、どこまでやるべきなのかという点です」
蒼真は指を二本立てた。
「相手方の責任者に落とし前をつけさせるのか。組織そのものに対して行動を起こすのか。それとも、これ以上の衝突を避けるべきなのか」
そこで九条が口を開いた。
「今回の件は、単なる龍魄の損失だけでは済みません。我々の管理体制と、龍牙連合そのものの威信に関わる問題です」
蒼真は頷いた。
「その通りです。ただし、感情だけで動けば、必要以上に争いを大きくする可能性もあります。だからこそ、皆さんの意見を伺いたいのです」
丸野は腕を組んだまま、黙って話を聞いていた。
蒼真は資料を一枚めくった。
「そして、もう一つ」
その声に、出席者たちの視線が再び集まった。
「先週、我々が国から管理を任されていた黒龍が、何者かによって殺害されました」
会議室の空気が変わった。
数人の組長が顔を上げる。
「……黒龍が?」
誰かが小さく呟いた。
蒼真は頷いた。
「はい。すでに死亡が確認されています。ですが、現時点で殺害した人物は特定できていません」
九条が補足する。
「黒龍は、国から正式に管理を委託されていた龍化獣です。無断で殺害された以上、我々にも管理責任が問われます」
蒼真は出席者たちを見渡した。
「黒龍は決して容易に討伐できる存在ではありません。それを何者かが殺害した。相手の目的も、正体も、今のところ分かっていませんが相当な手だれと見て、間違いでしょう」
少しの沈黙を挟み、蒼真は続けた。
「ですが、我々が管理を任されていた黒龍を、何の断りもなく殺されたのです」
その声が、わずかに低くなる。
「これは、我々龍牙連合の面子を潰されたも同然です」
誰も異を唱えなかった。
「もちろん、犯人を見つけたからといって、すぐに報復するという話ではありません。まずは何者が、何の目的で黒龍を殺したのか。それを明らかにする必要があります」
蒼真は資料を閉じた。
「そのため、黒龍を殺害した人物の捜索についても、皆さんにご協力いただきたいと考えています」
会議室に再び静寂が訪れた。
蒼真は両手を机の上に置き、改めて口を開いた。
「以上が、本日の議題です」
そして、一人ひとりの顔を見渡す。
「一つ目は、鳴神所による龍魄盗難事件への返しを行うか否か。そして、行う場合はどこまで行うか」
「二つ目は、黒龍を殺害した人物の捜索についてです」
蒼真は九条に目を向けたあと、再び組長たちへ視線を戻した。
「それでは、まず龍魄盗難事件について、皆さんのご意見を伺いたいと思います」
そう告げると、蒼真は静かに席へ深く腰を下ろした。
幹部会の議論が、始まった。




