準決勝 第二試合
第五十四話
準決勝第二試合を前に、蓮は医務室を出た。
身体にはまだ、前の試合で受けた傷が残っている。手当ては受けたものの、完全に回復したわけではなかった。
「おい、蓮。次の試合だぞ」
廊下で待っていた孝太郎が声をかける。
「ああ、すぐ行く」
蓮は短く答え、試合場へ向かって歩き出した。
その背中を、少し離れた場所から見つめる男がいた。
並木健介。
そう名乗っている男の正体は、黒崎だった。
黒崎は蓮ではなく、その場に残った孝太郎へと視線を移す。
正面から声をかければ警戒される可能性がある。
黒崎は医務室の方へ目を向けた。
医療関係者として接触できれば、不自然ではない。大会中なら、選手の体調を確認する機会もあるはずだ。
黒崎はそう考え、動き出す機会をうかがった。
◇
「準決勝第二試合、選手入場!」
場内アナウンスが響き、観客席から歓声が上がった。
龍牙連合、神代蓮。
不動会、田中宏輝。
二人が試合場の中央で向かい合う。
「お前、前回の試合での傷がまだ回復してなさそうだな」
田中が蓮の身体を見ながら言った。
「大丈夫お前との戦いはこれで十分だ」
蓮は挑発した。
「黒田相手にあそこまでやられて、」おいてよく言えるな」
蓮が構える。
田中も腕を下げ、静かに息を吐いた。
「両者、構え!」
主審の積田が声を張り上げる。
二人が同時に腰を落とした。
「始め!」
合図と同時に、田中が踏み込んだ。
硬方印・硬刃。
腕が刃のように硬化し、蓮へと振り下ろされる。
蓮は身をひねってかわし、すぐさま懐へ入ろうとした。
しかし、田中は反対の腕を振る。
蓮はとっさに距離を取った。
斬撃が頬をかすめる。
「簡単には近づけさせねえよ」
田中が再び踏み込む。
左右から斬撃が迫った。
蓮は後退しながら、その動きを見極める。
田中の攻撃は速い。だが、腕を振るうたびに、わずかな隙が生まれていた。
蓮は一度目の攻撃をかわし、二度目を腕で受け流す。
そして三度目。
田中が斬撃を放つ直前、蓮は一気に踏み込んだ。
「なっ……!」
田中の腕が振り切られるより早く、蓮の拳が腹部に突き刺さった。
田中が後ずさる。
それでも倒れず、すぐに体勢を立て直した。
「今のを狙ってたのか」
「お前の攻撃は、単純だからな」
蓮は構えを崩さない。
田中の表情が険しくなった。
東楓との試合では、広範囲に斬撃を放つことで幻術の中でも相手を追い詰めた。
今回も同じように攻撃を広げれば、蓮を捉えられるはずだった。
だが、蓮は斬撃の軌道だけでなく、田中の踏み込みや肩の動きまで見ていた。
次の攻撃がどこから来るのか。
いつ腕が振られるのか。
そのわずかな兆候を読み、先に身体を動かしている。
田中が斬撃を放つ。
蓮は紙一重でかわし、踏み込んだ。
拳が顔面を捉える。
続けて、鳩尾への一撃。
田中の身体が大きく揺れた。
「ぐっ……!」
田中が反撃しようと腕を振るう。
しかし、蓮はすでにその間合いから外れていた。
斬撃が空を切る。
そこへ蓮が再び飛び込む。
今度は足払いで体勢を崩し、倒れかけた田中の胸元へ拳を叩き込んだ。
田中が試合場に膝をつく。
観客席がどよめいた。
田中は息を荒くしながら、立ち上がろうとする。
まだ戦える。
だが、今のままでは蓮を捉えられない。
龍演舞を使わせるどころか、自分の攻撃を見切られ、体術戦でも後手に回っていた。
田中は悔しげに拳を握った。
「……交代を申し出る」
その言葉に、積田が目を向ける。
「候補選手への交代か?」
「はい」
田中は立ち上がり、蓮を見据えた。
(ここで俺が負ければ、不動会は後がない)
悔しさはあった。
それでも、田中は自分の勝ち負けだけで判断するつもりはなかった。
積田が確認を終え、交代を認める。
「不動会、候補選手の出場を認める!」
会場の入口から、一人の男が歩み出た。
御影透。
不動会の候補選手だった。
御影は試合場へ上がると、蓮をまっすぐに見た。
「ここからは俺が相手になろう」
蓮は構えを解かず、御影と向き合った。
準決勝第二試合。
新たな戦いが始まろうとしていた。




