迫り来る黒
第五十二話
会場へ
病院を出た黒崎は、停めてあった車へと向かった。
Tが後ろから続く。
「龍討祭に行くのですか?」
「はい。なんの手がかりも得られてませんから」
黒崎は車に乗り込み、シートベルトを締めた。
エンジンがかかり、車が走り出す。
窓の外を流れる景色を眺めながら、黒崎は先ほどの祀との会話を思い返していた。
巻き物を渡すつもりはない。
あの態度を見る限り、条件を変えたところで結果は同じだろう。
ならば、別の人間から情報を得るしかない。
「荒木孝太郎が巻き物について何か知っているかもしれないし、もしかしたら千堂に渡されてるかもしれないですね」
Tが尋ねた。
「はい。正直私の顔はわれてるので、あまり接触したくはなかったのですが。」
「前回は殺し損ねたと聞きましたが本当ですか?」
「はい。前回の時にそれとなく聞いておくべきでした。私も具体的な情報を聞いていなかったので」
黒崎は淡々と答えた。
今回は黒崎は絶対にヘマできない。
孝太郎が何を知っているのか、それを確かめるのが先だ。祀との関係を利用すれば、何か手掛かりを得られるかもしれない。
それに、龍討祭の会場には多くの人間が集まっている。
接触は簡単だろうが黒崎として接触するのはかなりのリスクがある。
「……しかし、千堂も頑固でしたね。」
黒崎が小さくつぶやく。
「本当に、あの巻き物を渡す気はないらしい」
「まぁ、あれをあの交渉で貰えないのはうちの所長も想定内だと思います。」
「ただ、想定内だとしても今回の任務は失敗できないのです。あまり事が大ごとになると、うちと龍牙連合が戦争になりますからね」
一つでも手掛かりをつかめれば、状況は変わる。
黒崎は腕を組み、目を閉じた。
しばらくして、車が速度を落とした。
「着きました」
運転席から声がかかる。
黒崎が目を開けると、窓の向こうに大きな会場が見えた。
龍討祭。
会場の周囲には多くの観客が集まり、入口へと流れていく。遠くからでも、場内の熱気が伝わってくるようだった。
黒崎は車を降り、会場を見上げた。
ここに孝太郎がいる。
今のところ、巻き物について何か知っているという確証はない。
それでも、確かめる価値はある。
「ここからは変装していきます。後Tさんは戻っててください。もう荒木孝太郎に私たちの情報は入っていると思いますので」
黒崎は並木健介に名前と顔を変え情報収集にあたった。
黒崎は人の流れへと歩き出した。
千堂との交渉は決裂し、巻き物の情報を何も得られなかった。
次は荒木孝太郎からせめるしかない。
黒崎改め並木は龍討祭の会場へ足を踏み入れた。




