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無盃の将  作者: G
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交渉決裂

第五十一話


その頃病室では


「……その条件では渡せない」


祀は、ベッドの上で静かに告げた。


病室には、黒崎とTがいる。


黒崎は表情を変えず、祀の顔を見つめていた。


「こちらとしては、あなたに不利益のない条件を提示したつもりですが」


「条件どうこうの問題ではない。あれをお前らに渡すつもりは、はなからないという事だ。」


「……そうですか」


黒崎は小さく息を吐いた。


ここまでなら、まだ交渉の余地はあると思っていた。


祀が求めるものを探り、それに見合う条件を提示する。必要なら、さらに譲歩するつもりだった。


だが、祀の態度は変わらない。


金でも、便宜でも、何を差し出そうと首を縦に振る気はないらしい。


「考え直すつもりはありませんか?」


「ないよ」


即答だった。


黒崎の口元から、かすかな笑みが消えた。


「……残念です」


立ち上がり、病室の出口へ向かう。


これ以上ここにいても、何も得られない。


扉に手をかけたところで、祀が声をかけた。


「黒崎」


黒崎は振り返る。


「どこであの巻き物の話を聞いたのか知らないが、あれを使っていいのはお前らじゃない」


「そうですか。それは残念です」


黒崎はそう答え、病室を出た。


廊下に出ると、Tさんが隣に並ぶ。


「どうする?」


「……まずいですね」


短く答えたものの、黒崎の頭の中では焦りが膨らみ始めていた。


祀から巻き物を穏便に受け取る。


そのために、わざわざここまで足を運んだ。


だが、交渉は決裂。力ずくで奪おうにも、病院で騒ぎを起こすのは得策ではない。祀の身柄を押さえたところで、口を割る保証もなかった。


そもそも、巻き物が今も祀の手元にあるとは限らない。


「……くそっ」


思わず漏れた声に、Tさんが視線を向けた。


黒崎は答えず、先ほどまでの会話を頭の中で繰り返す。


祀は巻き物を渡さなかった。


ならば、別の手掛かりを探すしかない。


そのとき、不意に思い出したことがあった。


――孝太郎は、今、龍討祭に出ている。


さっき、電話で耳にした話だ。


あのときは気にも留めなかった。だが、今になって考えれば、確かめる価値はある。


孝太郎は祀と長い時間を共にしてきた人間だ。


巻き物について何か聞かされている可能性はある。祀が誰にも話していないとしても、何かしら手掛かりを握っているかもしれない。


「……そうか」


黒崎の足が止まった。


Tさんが振り返る。


「何かいい案が?」


「ええ。まだ手はあります」


黒崎の表情に、先ほどまでの焦りとは違う色が浮かんだ。


祀が駄目なら、孝太郎を調べればいい。


まずは、龍討祭にいる孝太郎に接触する。巻き物について知っていることがないか探り、必要なら祀との関係から情報を引き出す。


それでも何も分からなければ――。


黒崎は、わずかに目を細めた。


「孝太郎を押さえれば、祀も無視はできないでしょう」


交渉が駄目なら、別の手段を使う。


孝太郎を人質に取り、祀に巻き物を渡すよう迫る。


もちろん、最初からそこまで事を荒立てるつもりはない。だが、手段を選んでいる余裕もなくなりつつあった。


「龍討祭の会場へ向かいます」


黒崎は歩き出した。


今度は、祀ではなく孝太郎を狙う。


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