九条 続き
第六話
蓮だけが、その意味を理解できなかった。
「生きていた……?」
宗玄の言葉が頭から離れない。
だが、その思考を切り裂くように黒龍が咆哮を上げた。
「グオォォォォォッ!!」
轟音とともに大地が揺れる。
木々は軋み、葉が一斉に舞い上がった。
宗玄は一歩前へ出る。
「教官。」
「……はい!」
「研修生を連れて下がれ。」
「しかし、若頭!」
「これは試験じゃない。」
その一言で、教官はすべてを悟った。
「全員撤退!! 負傷者を優先しろ!」
研修生たちは慌てて走り出す。
だが蓮だけは足が動かなかった。
目の前の戦いから目を離せない。
宗玄は刀をゆっくりと抜く。
鞘から滑るように現れた刃が、朝日に反射した。
それを見た黒龍は低く笑う。
「相変わらずだな……人間。」
次の瞬間。
黒龍の巨体が消えた。
「速っ……!」
教官ですら反応できない。
だが宗玄は半歩だけ身体をずらす。
黒龍の爪が鼻先を掠め、そのまま空を裂いた。
ズガァァァン!!
背後の巨木がまとめて倒れる。
宗玄は体勢を崩さない。
黒龍の腕へ刀を振るう。
火花が散った。
硬い鱗が刃を受け止める。
黒龍は尾を振り抜く。
宗玄は地を蹴り、その尾を踏み台にして宙へ舞う。
そして落下の勢いを乗せ、一閃。
鋭い斬撃が黒龍の肩口を切り裂いた。
黒い血が地面へ飛び散る。
「……浅いか。」
宗玄は静かに距離を取る。
その様子を見ていた蓮は息を呑んだ。
(あれだけ斬っても倒せないのか……。)
黒龍は傷口を見下ろし、ゆっくりと首を鳴らす。
傷は目に見える速さで塞がっていく。
「化け物……。」
誰かが震える声を漏らした。
その時だった。
黒龍は宗玄ではなく、蓮へと視線を向ける。
黄金の瞳が細くなる。
蓮の胸が、ドクンと脈打った。
(まただ……。)
胸の奥で、何かが目を覚まそうとしている。
黒龍は一歩、蓮の方へ踏み出した。
宗玄の表情が変わる。
「……蓮から離れろ。」
黒龍は宗玄の声など聞こえていないかのように、蓮だけを見つめていた。
その眼差しは獲物を見るものではない。
まるで──何かを確かめるような目だった。
森を包む空気が、一層重くなる。
次の瞬間、黒龍は宗玄を無視して蓮へ向かって駆け出した。
「蓮ッ!!」
宗玄が地面を蹴る。
黒龍と宗玄。
二つの影が、蓮の目前で激突しようとしていた――。




