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無盃の将  作者: G
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第三試合 続き

田中は荒い息を吐きながら、東を睨んでいた。


幻術はまだ解けていない。


目の前にいる東が本物なのか、それすら分からない。


右も左も。


前も後ろも。


自分が感じているものすべてが、信用できない。


「……だったら」


田中はゆっくりと右腕を上げた。


魄が腕へ集まっていく。


皮膚が硬質な光を帯び、腕の形が変わる。


肘から先が、一本の刃物のように鋭く変化した。


「硬方印・硬刃!」


東の目がわずかに細くなる。


「何を!」


田中は答えない。


そのまま腕を横薙ぎに振り抜いた。


――ザンッ!


空気が裂ける。


目には見えない斬撃が、前方へ飛んでいく。


東が横へ跳ぶ。


だが、それだけでは終わらない。


田中はさらに腕を振った。


右。


左。


上。


下。


斜め。


あらゆる方向へ、無数の斬撃が飛び交う。


「っ!」


東は幻術を維持したまま、身体を低くする。


目の前を斬撃が通り過ぎた。


そのまま地面へ突き刺さり、土を巻き上げる。


「もしかしてバレてる……?」


東には田中が自分を見ていないように見える。


それでも斬撃は、逃げ道を塞ぐように飛んでくる。


「なら、こっちから出向くまで」


東は龍包囲を強めた。


身体能力を引き上げ、一気に距離を取る。


だが――


避けきれない。


「っ!」


肩を斬撃が掠めた。


赤い線が走る。


さらに頬。


腕。


脚。


「くっ……!」


血が飛び散る。


それでも東は止まらない。


幻術を維持しながら、田中の感覚をさらに狂わせる。


田中の目には、東が右にいる。


だが実際には左。


前にいると思えば、後ろ。


距離すら正しく認識できない。


それでも田中は腕を振り続ける。


「こんなに撃って……全部外れたらどうするの!」


東が叫ぶ。


田中は笑った。


「見えてないんだ。これが合理的なやり方だ」


「……!」


「どこにいるか分からねぇなら、数打つしかねぇからな」


再び無数の斬撃が飛ぶ。


東は必死に避ける。


だが、完全には避けられない。


脇腹を斬られる。


「っ……!」


東が地面を転がる。


その瞬間、田中の鼻が動いた。


「……血」


田中が呟く。


視界は信用できない。


音も信用できない。


だが――


匂いは違う。


田中はゆっくりと息を吸った。


血の匂い。


その方向へ身体を向ける。


東の表情が変わった。


「まさか……」


田中が腕を構える。


「見えなくても、匂いまでは消せねぇだろ」


腕の刃が、さらに大きくなる。


田中が振り抜いた。


――ズンッ!


巨大な斬撃が飛ぶ。


東は反応した。


しかし、幻術によって自分の感覚が狂っている。


避けた方向が、逆だった。


「しまっ――」


斬撃が東の身体を捉えた。


「ぐっ……!」


東が吹き飛ばされる。


地面を転がり、ようやく止まった。


それでも立ち上がる。


「まだ……!」


東は再び幻術を強めた。


田中の身体が大きく揺れる。


右。


左。


前。


後ろ。


すべての感覚が狂う。


東は田中を追い込もうとしていた。


しかし――


「それは意味ないぜ」


田中が立ち上がった。


身体には無数の傷。


血も流れている。


それでも、その腕だけはさらに硬く、鋭くなっていた。


「俺の硬刃はな」


田中が腕を構える。


「攻撃を受けるほど、強くなる」


東の目が見開かれる。


「……!」


田中の腕に魄が集まる。


刃がさらに巨大化する。


「お前が俺を追い込めば追い込むほど――」


田中が踏み込んだ。


「俺の攻撃は強くなる!」


無数の斬撃が、再び周囲へ放たれる。


東は必死に避ける。


しかし、さっきまでとは明らかに違う。


斬撃の数も。


速度も。


威力も。


すべてが増している。


「こんなの……!」


東が幻術で田中の感覚を狂わせる。


田中は何度も攻撃を受ける。


そのたびに、硬刃がさらに強くなる。


東の幻術は、田中を追い詰めるどころか――


田中を強化していた。


「くっ……!」


東が距離を取る。


だが、田中は血の匂いを追う。


もう、幻影を見てはいない。


ただ、そこにいる本物だけを狙っている。


「そこだ!」


田中が腕を振り抜いた。


斬撃が東へ迫る。


東は咄嗟に龍包囲で防御する。


しかし――


「ぐあっ!」


受けきれず、東の身体が吹き飛んだ。


地面へ叩きつけられる。


幻術が途切れた。


会場に、静寂が戻る。


東は立ち上がろうとした。


だが、力が入らない。


積田が東を見る。


そして田中を見る。


「そこまで!」


「東楓 戦闘不能!」


会場に声が響いた。


「勝者――不動会所属、田中宏輝!」


歓声が上がる。


田中は大きく息を吐き、硬化した腕を元に戻した。


蓮はその戦いを見ながら、呟いた。


「あいつ幻術は強いけど、体術がまるでなってないな」


孝太郎が頷く。


「ああ。最後まで幻術は効いてたしな」


「感覚を変えて、幻を見せるのは相当強いけど、それを活かす体術がないと宝の持ち腐れでしかない」


孝太郎は田中を見る。


「まぁ、田中の能力が東を上回ったからってのもあるけどな」


東の幻術を受けながら、それでも前へ進み続けた田中。


第三試合は、不動会が勝利を収めた。

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