鳴神所 続き
増井が今回の一連の流れを淡々と説明した。
所長は椅子に座ったまま、増井を見ていた。
「ふふふははは」
「今回の件について、順番に話そう」
「……はい」
増井は姿勢を正す。
「まず、黒崎がお前に話した内容だ」
「龍魄を護衛して運ぶ任務です」
「そうだ」
所長は淡々と続ける。
「黒崎は、護衛をつけて龍魄を運ばせるように依頼を出した」
「はい」
「だが、少し考えてみろ」
所長が机の上で指を組む。
「龍魄を強奪することが目的だったとして――」
一拍。
「わざわざ護衛をつけて運ばせる必要があると思うか?」
「あれは、護衛依頼を頼んだやつに罪をなすりつけるための護衛だと聞いていますが」
「だったら弱小組の玄武組とかじゃなくもっと龍術を使える組を狙うだろ」
増井は黙った。
確かにそうだ。
こんな弱い護衛をつけさせ、龍魄を強奪させたなんてシナリオは不自然で返って怪しまれる。
「そして、もう一つ」
所長が続ける。
「黒崎は最初の孝太郎との対決で、あえて殺さずに引いた」
増井の眉が動く。
「表向きは、お前に呼ばれて撤退したことになっている」
「……はい」
「親の指示はこの世界では絶対だ。親がYESといえばそれが正解だとこの世界ではなっている」
所長の声が低くなる。
増井は何も言えなかった。
あの時、黒崎が孝太郎を仕留めずに引いた理由。
それは俺が呼び戻したからだ。
少なくとも、そういう話になっていた。
「だが――」
所長が黒崎を見る。
黒崎は黙ったまま立っている。
「それも含めて、今回の一件には最初から別の意図があったら」
「別の意図……?」
増井が聞き返す。
所長はすぐには答えなかった。
そして、静かに増井を見る。
「最後に一つだけ聞こう」
「……?」
「なぜ――」
所長の視線が、黒崎へ向く。
「龍化した黒崎が、なぜこうしてお前の前に立っている?」
「……」
増井は答えられない。
自分が龍化させた。
自分が見届けた。
そして、龍牙連合に倒された。
そのはずだった。
所長はしばらく沈黙したあと、ゆっくりと口を開く。
「それが今回の事件の答えだ」
増井の目が見開かれる。
「今回の龍魄強奪事件は――」
所長が言う。
「私が指示したものなんだ」
――そこで、増井は言葉を失った。




