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無盃の将  作者: G
1

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課題

第三十八話


翌日。


東雲組の道場。


蓮と丸野は、向かい合って立っていた。


「今日から俺が見る」


丸野がそう言うと、蓮は構えた。


「積田から聞いてる。龍演舞という技は簡単ではない」


「ああ。でも、正直……どういう動きなのか、まだ頭の中でしか分かってない」


蓮が答える。


丸野は少し考えた。


「まぁそうだよな。あいつは龍演舞を使えない実物を見ないとイメージが湧かないよな」


そして、蓮を見る。


「なら、一度見せよう」


「俺が龍演舞をやる」


丸野が道場の中央へ歩いていく。


蓮も後を追った。


「ただ見るだけじゃ意味がない」


丸野が振り返る。


「お前は俺の邪魔をしろ」


「……邪魔?」


「龍演舞を完成させるまで、好きに攻撃してこい」


蓮の目が変わった。


「本気でいいのか?」


「もちろんだ」


丸野は静かに構える。


「来い」


蓮は龍包囲を発動した。


身体を巡る魄が強まり、床を蹴る。


一気に距離を詰めた。


「いくぞ!」


拳を振り抜く。


しかし――


丸野は半歩だけ身体をずらした。


拳が空を切る。


そのまま丸野は足を滑らせるように動いた。


足元に淡い光が走る。


一本の線。


「……!」


蓮が目を見開く。


丸野は止まらない。


次の一歩。


さらに一歩。


身体を捻りながら腕を動かし、再び足を運ぶ。


光の線が繋がっていく。


龍陣。


「これが……」


蓮が呟く。


だが、見るだけでは終わらない。


蓮は再び踏み込んだ。


今度は拳ではなく、蹴り。


丸野は身体を沈めてかわす。


その動きすら、龍陣を描く一歩へと繋がっていた。


蓮は続けて攻撃する。


右。


左。


正面。


丸野はすべてを紙一重でかわしていく。


「くっ……!」


蓮は攻撃の速度を上げた。


だが、当たらない。


丸野は相手の動きを見ていた。


拳が来る。


身体を逸らす。


蹴りが来る。


足を引く。


そのたびに、一歩。


一歩。


また一歩。


龍陣が少しずつ完成していく。


「なんで……」


蓮は攻撃しながら気づいた。


丸野は、ただ避けているわけではない。


拳をかわした瞬間。


丸野の手が蓮の腕をかすめた。


その瞬間、蓮の身体を巡っていた魄がほんの少しだけ引き抜かれる。


「……今、俺の魄を?」


丸野は答えない。


次の攻撃をかわす。


また触れる。


また少しだけ魄を吸収する。


大きく奪うわけではない。


ほんのわずか。


それでも確実に蓮の魄を取り込みながら、丸野は龍陣を描いていく。


「攻撃を利用してるのか……」


蓮の動きが止まりかける。


「止まるな」


丸野が言った。


「最後まで来い」


「……はい!」


蓮は再び飛び込む。


拳。


蹴り。


連続攻撃。


それでも丸野には届かない。


丸野の動きには無駄がなかった。


避ける。


踏み込む。


身体を回す。


魄を吸う。


そして、次の一歩へ。


やがて――


最後の線が繋がった。


龍陣が完成する。


丸野の足元に浮かぶ巨大な龍の紋様。


道場の空気が変わった。


蓮は、拳を止めた。


「……すげえ」


思わず声が漏れる。


これまで積田から教わっていた動きとは、まるで違った。


龍陣がでかい!


丸野が静かに構えを解く。


「これが龍演舞だ」


蓮は完成した龍陣を見つめた。


「……こんなことができるのか」


初めて見る本物。


蓮は素直に感動していた。


「分かったか?」


「……すごいです」


蓮は拳を握る。


「これでイメージが湧いてきた」


「なら、次はお前がやってみろ」


丸野が笑う。


「俺がお前の邪魔をする」


「……はい」


蓮は龍演舞の構えを取った。


今度は、蓮自身が龍陣を描く番だった。


⸻


その頃。


道場の反対側では、孝太郎と積田が向かい合っていた。


積田は拳銃を構えている。


「今日は俺も龍術を使わない」


「え?」


「拳銃だけで戦う」


積田は引き金を引いた。


――パンッ!


孝太郎が横へ避ける。


積田はすぐに距離を詰めた。


孝太郎も拳銃を構える。


「撃つだけじゃない」


積田はそう言いながら、拳銃を持ったまま身体を捌く。


距離を取る。


相手の動きを見る。


撃つ。


離れる。


弾がなくなれば装填する。


そのすべてが戦いの一部だった。


「龍術師相手なら、相手の動きは普通の人間より速い」


積田が言う。


「だからこそ、撃つ瞬間を選べ」


孝太郎は何度も組み手を繰り返した。


撃つ。


避ける。


距離を取る。


装填する。


また撃つ。


最初はただ引き金を引いていた。


だが、次第に変わっていった。


相手が踏み込む瞬間。


身体を捻る方向。


攻撃が終わる一瞬。


その隙を見て、撃つ。


「……なるほどな」


孝太郎が呟く。


拳銃は、ただの武器じゃない。


自分の動きと組み合わせて初めて意味を持つ。


積田は銃を下ろした。


「この流れで動ければ、龍術が使えなくても対等に戦えるだろう」


「本当に?」


「ああ」


積田は短く答えた。


「少なくとも、何もできないまま相手に近づくことはなくなった」


孝太郎は拳銃を見る。


「……十分だ」


⸻


それから、月日が流れた。


朝から晩まで、二人は修行を続けた。


蓮は何度も龍陣を崩した。


何度も失敗した。


それでも、丸野の動きを思い出しながら繰り返した。


最初は形だけ。


次第に動きが繋がる。


完璧とはいかない。


それでも――


龍陣が、最後まで形を残すようになった。


一方、孝太郎も積田との実戦を繰り返した。


撃つ。


避ける。


距離を取る。


装填する。


そして、また撃つ。


拳銃を握る手にも、少しずつ迷いがなくなっていった。


ある日の夕方。


二人は道場の中央に立っていた。


「2人とも様になってきたな」


積田が言う。


蓮と孝太郎は顔を見合わせた。


「最後に一つ」


丸野が言った。


「二人で戦ってみろ」

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