孝太郎の戦い方
第三十六話
蓮の修行が一段落すると、積田は視線を孝太郎へ向けた。
「次はお前だ」
「俺は何するんだ?」
積田が持ってきた黒いケースを開く。
「まずは撃ってみろ」
孝太郎は拳銃を手に取る。
構えを確認し、少し離れた場所に置かれた的へ銃口を向けた。
――パンッ。
乾いた音が響く。
弾は的の中心に命中した。
「……もう一回」
――パンッ。
また中心。
孝太郎は銃を下ろした。
「これで修行になるのか?」
「どういう意味だ?」
「いや、普通に当たるんだけど」
積田は少しだけ口元を緩めた。
「そうだな。お前は撃つこと自体は問題ないらしい」
「じゃあ、何を鍛えるんだ?」
積田は拳銃を指差した。
「その銃は、龍包囲・守なら撃ち抜ける程度の威力がある」
「龍包囲・守を?」
「ああ。ただし、問題がある」
積田は銃を手に取り、弾倉を外した。
「弾は二発しか入らない」
「二発?」
「そうだ」
孝太郎は眉をひそめる。
「少なすぎないか?」
「だから実戦では、二発撃った後にどうするかが重要になる」
積田は弾を二発だけ込め直す。
「戦いながら弾を込める。距離を取る。相手の動きを読む。その間に攻撃されれば終わりだ」
「……なるほど」
「それに」
積田は少し間を置いた。
「黒崎龍みたいな規模の相手には使えない」
孝太郎の表情が変わる。
「いっさいダメージを与えられないのか?」
「そういうことだ。あれを相手に撃っても意味がない。これは龍化獣を倒すための武器というより、自衛用に近い」
「なるほど、龍術を使えない俺には最適って訳だ」
積田は孝太郎を見る。
「龍包囲・守を使っている相手にも通る。つまり、お前が龍術を使えなくても、相手と戦える武器になる」
積田は少し離れた場所まで歩いていく。
「撃ってみろ」
「……積田さんを?」
「ああ」
「当たったら不味くないか?」
「当然だ。だが、人相手に撃てば修行になるだろう」
積田が構える。
「実戦だと思え」
孝太郎も拳銃を構えた。
狙いを定める。
「いくぞ」
――パンッ!
積田の身体が横へ流れる。
弾丸が肩の横を抜けた。
「……!」
孝太郎がすぐに二発目を撃つ。
――パンッ!
積田は今度は一歩踏み込み、弾丸をかわした。
そのまま距離を詰める。
「速っ……!」
孝太郎が後ろへ下がる。
だが、積田は止まらない。
拳が迫る。
孝太郎は身体を捻ってかわした。
「撃つだけなら簡単だ」
積田の拳が空を切る。
「相手はカカシじゃない。動かれたらお前はどうやって対処するかを考えろ」
孝太郎は銃を確認する。
――残弾ゼロ。
「……!」
弾を込めなければならない。
だが、目の前には積田がいる。
「ここからが、お前の修行だ」
積田が踏み込んだ。
孝太郎は弾を込める暇を作るため、必死に距離を取った。
積田の拳が迫る。
孝太郎は身体を捻ってかわした。
「くっ……!」
そのまま後ろへ飛ぶ。
拳銃を見る。
残弾はない。
「弾を込める暇なんて――」
言い終わる前に、積田が踏み込んできた。
孝太郎は横へ転がる。
地面に手をつき、その勢いで立ち上がった。
「逃げてばかりじゃ終わらないぞ」
「分かってる!」
孝太郎は腰の弾を取り出す。
一発。
銃に込める。
その瞬間、積田の足音が近づいた。
「どうした?修行になんないんじゃなかったか?」
「クソッ」
孝太郎は身体を低くしながら弾を込めた。
だが、顔を上げた瞬間――
積田の拳が目の前にあった。
「――!」
孝太郎は咄嗟に腕で受ける。
衝撃で身体が後ろへ吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
転がりながら銃を握り直す。
一発。
残っている。
孝太郎は立ち上がると、すぐに銃口を向けた。
積田も構える。
「撃て」
孝太郎は引き金に指をかけた。
だが、撃たない。
積田が一歩踏み込む。
まだ撃たない。
さらに一歩。
「どうした?」
孝太郎は積田の足を見る。
次に踏み込んだ瞬間、身体がわずかに右へ流れる。
その瞬間――
パンッ!
積田が身体を傾ける。
弾丸が横を抜けた。
「……!」
「今のは外したんじゃない」
積田が止まる。
「俺が避ける方向を見てたのか」
孝太郎は息を整えながら答えた。
「さっきから同じ方向に避けてたからな」
「よく見ていたな」
「一発しかなかったからな」
孝太郎は銃を下ろす。
「適当に撃ったら終わりだろ」
積田は頷いた。
「まぁ、他の相手はこう単純には動いてくれないが使い方は上手くなっている」
積田が歩いてくる。
「この銃は二発しか撃てない。それを弱点だと思うか?」
「……思ってた」
「なら考え方を変えろ」
積田は孝太郎の拳銃を見る。
「二発しかないなら、一発一発に意味を持たせればいい」
「意味?」
「撃つことだけが武器じゃない」
積田が孝太郎を見る。
「相手に『いつ撃つか分からない』と思わせる。それだけでも動きを制限できる」
孝太郎は黙って聞いている。
「そして、撃つと決めたら外さない。そのために相手を見る」
積田は銃を指差した。
「お前は龍術が使えない」
その言葉に、孝太郎は何も返さなかった。
「だからこそ、相手より多く攻撃する必要はない」
積田は踵を返す。
「一発を撃つために、十回でも二十回でも相手の動きを見ろ」
「……」
「銃はあくまで戦い方の幅を広げるための道具でしかない。保身用にもなるし、相手に勝つためのトリガーにもなる」
孝太郎は拳銃を握り直した。
二発しか入らない銃。
それでも、使い方次第では龍術師とも戦える。
「もう一回やる」
積田が振り返る。
「まだやるのか?」
「今度は二発とも無駄にしない」
積田は小さく笑った。
「なら、来い」
孝太郎は弾を込める。
そして再び、積田へ銃口を向けた。




