龍演舞
第三十五話
蓮の前に積田が立つ。
「お前はまず、龍演舞の基礎からだ」
「はい!」
「いきなり魄を集めようとするな。まずは動きを身体に覚えさせる」
積田が地面を指差した。
「龍演舞は足運びが重要だ。お前が踏む場所そのものが龍陣になる」
「足で描くってことか」
「そうだ。腕の動きも同じだ。周囲から魄を吸うには、動きに無駄があれば流れが乱れる」
積田が一度だけ動いてみせる。
一歩。
身体を捻り、腕を払う。
さらに一歩踏み込み、相手の懐へ入るように身体を滑らせる。
見た目だけなら、舞に近い。
だが、蓮には分かった。
これは踊りではない。
相手の攻撃をかわし、間合いを詰め、反撃するための動きだ。
「……組み手みたいだな」
「その認識でいい」
積田は頷いた。
「龍演舞は、隙が多い。実戦の中で動き続けながら龍陣を完成させる」
「なるほど」
「まずは何も考えず、この動きを繰り返せ」
蓮は構えた。
一歩。
身体を捻る。
腕を払う。
また一歩。
最初はぎこちなかった。
足の位置が少しずつずれる。
腕の高さも安定しない。
それでも蓮は何度も繰り返した。
「違う。右足が半歩遅い」
「こうか?」
「今度は腕が早い」
「……難しいな」
「当たり前だ」
積田は淡々と答える。
「威力の大きい技ほど、雑には扱えない」
蓮は黙って動きを続けた。
何度も。
何度も。
少しずつ足運びが揃っていく。
身体の捻りも無駄がなくなっていく。
やがて、蓮の足元に淡い光が走った。
地面に細い線が浮かび上がる。
「……龍陣」
蓮が呟く。
積田は何も言わない。
ただ、その動きを見ていた。
蓮はさらに一歩踏み込む。
その瞬間だった。
「――!」
積田の拳が飛んでくる。
蓮は反射的に身体を逸らした。
「ちょっ……!」
攻撃を避ける。
だが、足が乱れた。
龍陣の線が一箇所途切れる。
「まだだ」
積田が追撃する。
蓮は腕で受け流し、横へ回り込む。
一歩。
二歩。
先ほど覚えた動きを繋げようとする。
だが――
「くっ!」
積田の足払いを避けた瞬間、蓮の足が本来の位置からずれた。
地面に浮かんでいた龍陣が、大きく歪む。
そして。
パリンッ。
何かが砕けるような音とともに、龍陣が消えた。
蓮は動きを止めた。
「……消えた」
「そういうことだ」
積田は構えを解く。
「実戦なら、相手はお前が龍陣を完成させるまで待ってくれない」
「分かってる」
蓮は自分の足元を見る。
「もう一回やる」
「待て」
積田が止めた。
「今すぐは無理だ」
「なんで?」
「お前はさっき、周囲から魄を吸っていただろ」
蓮が周囲を見る。
「……ああ」
「龍演舞は少しずつ魄を集めていく。失敗するたびに、その魄も無駄になる」
「じゃあ、何回もやり直せないってことか」
「そういうことだ」
積田は淡々と告げる。
「だから一回一回、失敗しないつもりでやれ」
蓮は少しだけ黙った。
さっきまで浮かんでいた龍陣は、もう跡形もない。
「……次は崩さない」
「その意気だ」
積田は再び構える。
「ただし、次はもっと実戦に近づける」
「これ相当難しいな」
「嫌なら帰っていいぞ」
「俺は今まで龍包囲も使えなかったんだ。新しい技を習得出来るならなんでもやってやる」
蓮は構え直した。
「やるよ」
再び、足が動き出す。
一歩。
身体を捻る。
腕を払う。
その動きはまだ不完全だった。
それでも一つずつ。
蓮は自分の身体に、龍演舞の形を刻み込んでいった。




