DAY2
第三十四話
翌朝。
東雲組の稽古場に、蓮と孝太郎が並んで立っていた。
二人の前には積田がいる。
「今日から本格的に修行を始める」
「で、俺たちは何をするんだ?」
蓮が尋ねる。
積田は二人を見ながら答えた。
「お前らは昨日の組み手で、それぞれ課題が違うことが分かった。だから修行内容も別々にする」
「別々か」
孝太郎が呟く。
「ああ。まずは蓮からだ」
積田が蓮を見る。
「お前は昨日、性質が『吸』だと分かった」
「うん」
「その性質を使った術を覚えてもらう」
蓮の表情が少し明るくなる。
「新しい術?」
「ああ。名前は――」
積田が一度言葉を切る。
「龍演舞」
「……龍演舞?」
「足で龍陣を描きながら、腕で周囲の魄を少しずつ吸収する術だ。龍陣が完成したら100メートル四方を吹っ飛ばせる威力を持つエネルギー型爆弾になる」
「へぇ……」
蓮が興味深そうに聞く。
「じゃあ、それを覚えればいいんだな」
「簡単に言うな」
積田は横に置いてあった大きな袋を持ち上げた。
ドサッ。
床が揺れる。
「まずはこれを着ろ」
「……何これ?」
「修行着だ」
積田が袋から取り出したのは、見るからに分厚い服だった。
蓮が持ち上げようとする。
「重っ!」
両手で抱えたまま、腕が下がる。
「なんだよこれ……」
「重りを仕込んである」
「いや、重りってレベルじゃねぇだろ!」
積田は平然としている。
「龍演舞は足の動きと腕の動きを同時に正確に行う必要がある。まずは身体に動きを覚えさせる」
「だからって、こんな重い服……」
「着ろ」
「マジかよ……」
蓮は渋々、修行着に袖を通す。
ずしっ。
肩が落ちる。
「…………」
一歩踏み出す。
ズシッ。
もう一歩。
ズシッ。
「重すぎる!」
「まだ歩いただけだぞ」
「歩くだけでこんな疲れる服でダンスしろって?」
積田は頷いた。
「そういうことだ」
蓮は絶望したように服を見る。
「……俺、何の修行に来たんだっけ?」
隣で見ていた孝太郎が吹き出す。
「龍術の修行だろ」
「分かってるよ!」
積田は気にせず、稽古場の中央を指差した。
「始めるぞ」
「なんかこれ臭いし」
「普段はウチでも修行で使うからな」
「おえ、」
「足の動きを覚えろ。最初は龍陣を描く必要はねぇ」
積田が実際の足運びを見せる。
一歩。
半回転。
さらに一歩。
そして身体を捻りながら腕を動かす。
蓮はそれを真似する。
だが――
「うわっ!」
重さに引っ張られ、盛大によろける。
「遅ぇ」
「これで普通に動ける方がおかしいだろ!」
「だから鍛えるんだ」
積田は淡々と言った。
「その服を着たまま、正確に動けるようになれ」
蓮は重い修行着を見下ろす。
そして小さく息を吐いた。
「……やるしかないか」
もう一度、構える。
一歩。
身体を回す。
腕を動かす。
今度は倒れなかった。
その様子を、孝太郎は黙って見ていた。
すると積田が振り返る。
「次は孝太郎だ」
「俺は?」
積田の視線の先に、今度は別のものが置かれていた。
黒いケース。
積田が蓋を開ける。
中に入っていたのは、一丁の拳銃だった。
孝太郎の目が止まる。
「……銃?」
「お前の修行は、それだ」
積田はケースから拳銃を取り出した。
「龍術師と戦えるだけの威力を持つ」
孝太郎は拳銃を見つめる。
積田は銃を差し出した。
「ちゃんと使えるようになれ」
蓮が横から口を挟む。
「俺がダンスしてる間に、そっちは銃かよ」
「お前もやってみるか?」
「いや、俺はいい」
即答だった。
孝太郎が苦笑する。
「じゃあ俺もやるよ」
積田は二人を見る。
「今日から、それぞれ自分の武器を鍛える」
こうして二人の修行が始まった。




