代償
第二十八話
黒崎龍が、跡形もなく消えた。
静寂が戻る。
蓮は荒い息を吐きながら、消滅した場所を見つめていた。
「……終わった」
孝太郎も肩で息をしながら頷く。
「やったな……」
その直後だった。
「……っ」
丸野の身体が揺れた。
「丸野さん?」
一歩踏み出したところで、丸野は膝をつく。
そのまま地面に手をついた。
「丸野さん!」
蓮が駆け寄る。
「……問題ない」
そう言う声にも、いつもの余裕がない。
呼吸が荒い。
肩が大きく上下している。
孝太郎が丸野の腕を見る。
「……なんだ、これ」
皮膚の一部が硬く変色していた。
よく見ると、その表面には――鱗のようなものが浮かんでいる。
「龍化……?」
蓮の顔が強張る。
丸野は自分の腕を見下ろした。
「……喰天の代償だ」
「代償?」
「ああ」
丸野は息を整えようとするが、うまくいかない。
「喰天は、相手の魄を吸い込むことが出来る」
「だが……食った魄が多すぎれば、その分だけ俺の身体にも負荷がかかる」
丸野は変色した腕を握る。
「限界を超えて吸えば……術師自身が龍化する」
「じゃあ、今のこれは……」
「始まってる」
その言葉に、蓮と孝太郎の表情が変わった。
丸野はゆっくり顔を上げる。
「時間がない」
「くそ、どうすれば…」
孝太郎が聞く。
丸野は少し考え、答えた。
「俺と同じ『吸』の印を持つ龍術師に見てもらうしかない」
「同じ『吸』……」
「ああ。俺の中に残った魄を吸い出せれば、止められる可能性がある」
丸野は一度、息を吐く。
「葵組にいる」
「誰だ?」
「Somaliだ」
丸野は続ける。
「葵組の若頭だ。あいつも『吸』の印を持ってる」
孝太郎が立ち上がる。
「じゃあ、すぐ行こう」
「待て」
丸野が止める。
「俺を葵組まで連れていけ。その後は俺を置いて、本部に戻れ」
蓮が眉を寄せる。
「そんな事、容態が心配です」
丸野は苦しそうに息を吐いた。
「Somaliに事情を話して、俺を預けろ」
「お前らは自分の任務に集中しろ。」
丸野の目はまだ鋭かった。
「今回の任務は終わった。龍魄も回収した」
孝太郎が黙る。
「だから、お前らまでここに残る必要はない」
丸野は立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らない。
蓮が肩を支えた。
「……分かりました」
蓮が言う。
「まず葵組ですね」
「あぁ頼む」
孝太郎も丸野の反対側に回る。
「分かりました」
三人はそのまま歩き出した。
黒崎龍との戦いは終わった。




