龍化 続き
黒崎龍
黒崎龍の巨体が、倉庫の壁を突き破った。
轟音とともに瓦礫が飛び散り、蓮は咄嗟に腕を交差させる。
「ぐっ……!」
龍包囲で全身を固め、正面から衝撃を受け止める。
それでも身体は地面を滑った。
「蓮!」
孝太郎が叫ぶ。
黒崎龍は止まらない。
巨大な爪を振り下ろし、続けざまに尾を薙ぎ払う。
「くそっ!」
孝太郎は横へ飛び退いた。
地面が抉れる。
さっきまで立っていた場所が、巨大な爪によって砕け散った。
「戦い方はわかっててもきつい」
孝太郎が息を整える。
その身体から溢れ出す影が地面を覆っている。
「蓮!」
「分かってる!」
黒崎龍が再び動く。
蓮が前へ出た。
「俺が止める!」
龍包囲を全身に巡らせ、黒崎龍の正面へ突っ込む。
巨大な顎が開く。
噛み砕かれる寸前、蓮は両腕でその攻撃を受け止めた。
「うおおおおっ!」
地面が沈む。
「今だ、孝太郎!」
「任せろ!」
孝太郎は黒崎龍の横へ回り込む。
攻撃する。
だが、硬い。
まともに傷を与えられない。
「こいつ……!」
その瞬間、黒崎龍の影が孝太郎の足元へ伸びた。
「っ!」
飛び退く。
影の中から黒い刃が突き出した。
「危ねぇ……!」
孝太郎が息を吐く。
その間にも、蓮は押され続けていた。
「蓮!」
「まだいける!」
だが、声に余裕はない。
丸野は少し離れた場所から二人の動きを見ていた。
そして、黒崎龍を見る。
「やるしかねぇな」
孝太郎が振り返る。
「これじゃ埒が明かないですね」
「あぁ」
丸野は黒崎龍の身体から漏れ出す魄を見つめた。
「こいつは許容量を超えて取り込みすぎた勝つにはこれしかねぇ」
丸野が手を握る。
黒崎龍が咆哮した。
周囲の影が一斉に膨れ上がる。
丸野は静かに言った。
「もうこれしかねぇよな」
孝太郎が目を見開く。
「何かやるですか?」
丸野は一歩踏み出した。
「魄技ってのは、知ってるか?」
蓮が笑いながら言った。
「知ってますよ。俺には使えないけど術師の性質に合わせて使える技の事ですよね」
「そしてさっき黒崎が使った万影転化と今から使う技は魄技を極めたものだけが使える魄技 終境だが、俺のは相手に触れる必要がある」
黒崎龍がこちらへ向きを変える。
丸野が手を構えた。
「だからしばらく相手を押さえてて欲しい」
「丸野さん!」
蓮が叫ぶ。
黒崎龍が蓮を振り払った。
蓮の身体が吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
黒崎龍が丸野へ迫る。
丸野は動かない。
「孝太郎!」
「分かってる!」
孝太郎が黒崎龍の進路へ飛び込む。
爪をかわし、身体の横へ潜り込む。
「蓮!」
「おう!」
蓮も立ち上がる。
二人が同時に動いた。
蓮が正面から黒崎龍を受け止める。
「ここから先には――」
龍包囲が全身を駆け巡る。
「行かせねぇ!」
黒崎龍の巨体が押し込んでくる。
蓮の足が地面へ沈む。
その横から孝太郎が飛び込んだ。
「こっちだ!」
黒崎龍の意識が孝太郎へ向く。
孝太郎はギリギリまで引きつけ、横へ転がった。
その瞬間。
蓮が黒崎龍の首元へ飛びついた。
「今だ、丸野さん!」
丸野が走る。
黒崎龍が暴れる。
蓮が必死に押さえる。
孝太郎も身体を張って動きを止める。
そして――
丸野の手が、黒崎龍の身体に触れた。
「……条件が整った」
空気が変わる。
丸野の指が動いた。
龍印。
「これで終わりだ」
低い声が響く。
「魄技・終境――喰天」
瞬間。
黒崎龍の身体から、魄が引き抜かれた。
「グォォォォォォッ!!」
黒崎龍が咆哮する。
だが、丸野の手は離れない。
吸われた魄が、黒崎龍の身体から次々と消えていく。
影が消える。
巨大な爪が消える。
鱗が、翼が、尾が――
まるで存在そのものを喰われていくように、少しずつ消滅していく。
黒崎龍は必死に暴れようとする。
しかし、その力すら丸野に吸われていく。
「グ……ァ……」
巨体が崩れ始めた。
蓮が最後まで押さえ続ける。
孝太郎も離れない。
そして最後の魄が消えた。
黒崎龍の身体が、跡形もなく消えた。
残ったのは、地面に倒れた黒崎だけだった。
丸野はゆっくり手を離す。
静寂が戻る。
孝太郎は荒い息を吐きながら、消えた場所を見る。
「……全部、消えた」
丸野は黒崎を一瞥する。
「魄を食い尽くしたからな」
蓮が息を整えながら聞く。
「それが……終境?」
「ああ」
丸野は龍印を解いた。
「魄技を極めた術師だけが使える領域だ」
孝太郎は黙って丸野を見る。
丸野はそれ以上何も言わず、黒崎へ視線を戻した。




