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無盃の将  作者: G
1

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龍化

第二十七話


黒崎の身体が大きく跳ね上がった。


次の瞬間――


「――――グオオオオオオッ!!」


倉庫全体を揺らすような咆哮が響いた。


先ほどまで人の形をしていた面影は、もうどこにもない。


巨大な身体。


鋭く伸びた爪。


太い尾。


そして、その全身を覆うように黒い影が渦巻いている。


蓮は思わず息を呑んだ。


「……マジかよ」


龍がこちらを向く。


次の瞬間、巨体が地面を蹴った。


「来るぞ!」


蓮が龍包囲を強める。


龍の爪が振り下ろされた。


「ぐっ……!」


受け止めた瞬間、蓮の身体が地面を滑っていく。


「蓮!」


孝太郎が叫ぶ。


「大丈夫!」


蓮は何とか踏みとどまった。


だが、腕には強烈な痺れが残っている。


「一発でこれかよ……」


龍が再び身体を低くする。


「避けろ!」


丸野の声と同時に、巨大な尾が横薙ぎに振り抜かれた。


三人がそれぞれ飛び退く。


轟音とともに床が砕ける。


「……まともにやったら勝てねぇぞ」


孝太郎が龍を睨む。


丸野も頷いた。


「そうだな」


蓮が息を整える。


丸野は龍をじっと観察した。


「……あいつの影だ」


「影?」


「人型の時と同じならあいつは影の中を動く。もし同じならあいつの出てくる場所を予測できる」


龍の周囲で影が蠢く。


その身体が、ゆっくりと沈んでいく。


「来る!」


龍の姿が影の中へ消えた。


「どこだ!」


蓮が周囲を見回す。


次の瞬間。


背後の影から、巨大な爪が飛び出した。


「っ!」


蓮が龍包囲で受け止める。


「ぐあっ!」


そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「蓮!」


孝太郎が駆け出す。


「待て!」


丸野が止めた。


「今だ」


「龍が影から出てきた瞬間、ほんの一瞬だけ動きが止まった」


孝太郎が振り返る。


龍はすでにこちらを向いている。


「今動きが一瞬止まったな」


「はい」


丸野は構え直した。


「影を使わせる。そして、出てきたところを叩く」


蓮が壁から身体を起こす。


「なるほどな」


「ただし、蓮は龍包囲を使ってすぐに守れじゃないと、一撃でやられるぞ」


「上等だ」


蓮が前に出る。


龍が唸った。


「俺が引きつける」


「頼む」


丸野が後ろへ下がる。


孝太郎も反対側へ回った。


龍が蓮へ向かって突っ込んでくる。


「来い!」


蓮が龍包囲を強める。


龍の爪が迫る。


蓮は直前で身体を捻った。


爪が地面を抉る。


そのまま龍の身体が影へ沈んだ。


「今だ!」


蓮が叫ぶ。


孝太郎が走る。


影から龍の頭部が現れた。


「そこだ!」


孝太郎が拳を叩き込む。


「――ッ!」


龍の頭が横へ弾かれる。


そこへ丸野が踏み込んだ。


「吸方印・喰流」


龍の身体から溢れていた魄が、丸野の方へ引き寄せられる。


「グオオオオッ!」


龍が咆哮する。


だが、ほんのわずかに動きが鈍った。


「効いてる!」


蓮が叫ぶ。


丸野は表情を変えない。


「まだだ。あれだけの魄だ。一度じゃ削り切れない」


龍が身体を起こす。


そして――


口を大きく開いた。


「まずい!」


三人が散開する。


黒い影が一気に吐き出された。


床を、壁を、天井を覆っていく。


「影が広がってる!」


蓮が叫ぶ。


丸野が周囲を見る。


「……さっきより範囲が広い」


孝太郎が息を呑む。


「これじゃ、どこから来るか分からねぇ」


「いや、そんな事はない。あいつの体じゃあ移動範囲は限られる」


丸野が龍を見る。


「影から出てくる瞬間を狙う」


「でも、あの量じゃ……」


「一度に全部相手にする必要はない」


丸野が言った。


「龍自身を動かせばいい」


蓮が笑う。


「分かった」


三人は再び構えた。


龍が影の中へ消える。


「来るぞ!」


蓮が龍包囲を全身に巡らせる。


影が動いた。


右。


左。


背後。


そして――


「そこ!」


蓮が踏み込んだ。


龍が影から飛び出す。


蓮が正面から受け止めた。


「ぐっ……!」


巨体に押され、足が地面へ沈む。


「孝太郎!」


「分かってる!」


孝太郎が龍の横へ回る。


狙うのは身体ではない。


龍の着地点。


「ここだ!」


拳を地面へ叩き込む。


龍の巨体がわずかに傾いた。


その瞬間――


丸野が動く。


「吸方印・喰流!」


龍から魄が引き抜かれる。


「――――ッ!」


龍が大きく身体を揺らした。


蓮が押し返される。


だが、今度は倒れない。


「少しずつだけど……削れてる」


孝太郎が言う。


丸野は頷いた。


「ああ」


三人は龍を見る。


まだ圧倒的な強さは残っている。


それでも――


最初とは違う。


少しずつ。


確実に。


龍の動きが鈍くなっている。


「なあ」


孝太郎が龍を見上げる。


「……あれ、なんて呼ぶ?」


蓮が一瞬黙った。


「黒崎……でいいんじゃねぇか?」


「でも、もう黒崎の姿じゃないだろ」


丸野も龍を見上げる。


「……黒崎龍」


「黒崎龍?」


「ああ」


丸野は構えを解かない。


「今はそれでいい」


蓮が頷く。


「よし。じゃあ――」


龍包囲を強める。


「黒崎龍をぶっ倒すぞ」


「……ああ」


孝太郎も拳を握った。


丸野が静かに続ける。


「正面は蓮」


「任せろ」


「俺が魄を削る」


「了解」


「孝太郎は、黒崎龍が影へ入る瞬間を見ろ」


孝太郎が頷く。


「分かった」


三人が散開する。


黒崎龍が低く唸った。


そして再び、その巨体を影へ沈めていく。


今度は――


三人とも、その動きを見逃さなかった。

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