黒崎
第二十六話
増井は倒れた黒崎のもとへ駆け寄った。
「黒崎!」
蓮と孝太郎が身構える。
丸野も増井の動きを警戒しながら、その後を追った。
増井は黒崎の肩を掴み、身体を起こす。
「黒崎、大丈夫か?」
黒崎から返事はない。
増井は顔を覗き込む。
「……もう計画は終わっちまったが、お前だけでも――」
そこで、増井はふっと笑った。
「なんちゃって」
「……は?」
蓮が眉をひそめる。
増井は黒崎の身体を地面へ戻すと、立ち上がった。
「お前ら、そんな顔すんなよ」
「……どういうことだ」
丸野が問いかける。
「いやな。別に黒崎を助けようなんて思っちゃいねぇんだよ」
増井は黒崎を見下ろす。
「今回の計画を立てたのは、こいつだからな」
「黒崎が……?」
孝太郎が呟く。
「そうだ」
増井はあっさりと頷いた。
「俺はこいつの計画に乗っただけだ」
蓮が黒崎を見る。
「龍魄を奪ったり、玄武組を引っ掻き回したりしたのも」
「まぁ、黒崎を庇うわけじゃねぇが別にお前らに恨みがあってやったわけじゃねぇみたいだし大目に見てやってくれや」
「そっち方がタチ悪いじゃねぇか」
増井は肩をすくめる。
「だが、こいつがやられた今となっちゃ、ここでお前らとドンパチやるメリットはねぇ」
そう言って、増井は周囲を見渡した。
丸野、蓮、孝太郎。
三人ともまだ戦える。
一方、黒崎は完全に倒れている。
「俺までここで潰れたら、割に合わねぇだろ?」
増井は笑った。
「じゃあな」
そして踵を返す。
「生きてたら、またどこかで」
「待て!」
蓮が声を上げる。
だが、増井は止まらない。
そのまま船へ向かって歩いていく。
「……何をするつもりだ」
丸野が呟いた。
増井は答えなかった。
船へ乗り込み、すぐに戻ってくる。
その手には――
大量の龍魄が入った容器があった。
「……!」
丸野の表情が変わる。
「まさか……」
増井は黒崎の前にしゃがみ込む。
「悪いな、黒崎」
意識のない黒崎の口を無理やり開く。
「せっかく立てた計画だ。最後まで使わせてもらうぜ」
龍魄を一気に流し込む。
「やめろ!」
孝太郎が駆け出す。
しかし――
「遅ぇよ」
増井はさらに龍魄を飲ませる。
一つ。
二つ。
三つ。
大量の龍魄が、黒崎の身体へ流れ込んでいく。
「……っ!」
黒崎の身体が大きく痙攣した。
「黒崎!」
蓮が足を止める。
黒崎の身体から、凄まじい魄が噴き出した。
周囲の影が一斉に揺れる。
「なんだ……これ……」
孝太郎が後ずさる。
増井は立ち上がった。
「じゃあな」
その顔に、先ほどまでの焦りはなかった。
「お前らが生きてたら、またどこかで会おうぜ」
次の瞬間。
黒崎の身体が大きく跳ね上がった。
「――――ッ!!」
人間のものとは思えない咆哮が、倉庫一帯に響き渡る。
蓮が拳を握る。
丸野も構え直す。
孝太郎は目の前の黒崎を見つめた。
その身体は、ゆっくりと――
龍へと変わり始めていた。




