反撃!! 続きpart2
黒崎が地面を蹴った。
影となった床を滑るように移動し、蓮の死角へと回り込む。
「――そこだ」
黒い刃が横薙ぎに振り抜かれる。
蓮は身を屈めてかわした。
その瞬間、背後から別の影が伸びてくる。
「っ!」
蓮は龍包囲を強め、腕で受け流した。
影が弾け、周囲へ散っていく。
「まだ終わりませんよ」
黒崎の声が響く。
その姿は、影の中に溶け込んでいた。
どこから現れるか分からない。
一瞬でも気を抜けば、懐へ入り込まれる。
だが――
「孝太郎!」
蓮が叫ぶ。
「分かってる!」
孝太郎は走った。
黒崎を追うのではない。
黒崎が利用できる影を潰すためだった。
床に転がっていた木箱を蹴り飛ばし、影の上へ叩きつける。
続けて瓦礫を投げ込む。
「そんなもので何が――」
黒崎が影から姿を現した瞬間。
蓮の拳が飛んできた。
「そこ!」
黒崎は咄嗟に腕で防ぐ。
しかし、蓮は止まらない。
龍包囲によって強化された拳が、黒崎の腕を弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
黒崎の身体が後ろへ流れる。
そこへ孝太郎が踏み込んだ。
「今だ!」
拳が黒崎の腹へ入る。
黒崎は数メートル吹き飛び、地面を転がった。
だが、すぐに立ち上がる。
「……しぶといですね」
息が乱れていた。
先ほどまで余裕を見せていた顔にも、疲労が滲んでいる。
蓮はそれを見逃さなかった。
「効いてる」
「ええ」
孝太郎も頷く。
二人は同時に構えた。
万影転化には制限があるはずだ。
だからこそ、無理に倒しに行く必要はない。
黒崎に攻撃させ続ける。
影を使わせ続ける。
そして、その時間を稼ぐ。
それが二人の選んだ戦い方だった。
「……なるほど」
黒崎が立ち上がる。
「時間を稼ぐつもりですか」
蓮は答えなかった。
代わりに龍包囲を強める。
「だったら――」
黒崎の姿が消えた。
次の瞬間、蓮の横から影が飛び出す。
蓮は拳を振り抜いた。
影が砕ける。
そこへ孝太郎が入り、黒崎の逃げ道を塞ぐ。
「逃がすか!」
孝太郎の拳が黒崎の肩を捉えた。
黒崎の身体が傾く。
蓮が追撃する。
拳が頬を打ち抜いた。
「がっ……!」
黒崎が地面を転がった。
その頃――
「……っ!」
丸野の身体が後ろへ飛ばされた。
地面を滑り、足を止める。
目の前には増井が立っていた。
「へばってんじゃねぇよ」
「誰がへばってるって」
丸野は袖で口元を拭った。
「随分と力を使うな」
増井は答えない。
ただ、丸野へ向かって歩き出す。
一歩。
また一歩。
その足取りには、迷いがなかった。
丸野は構える。
増井の拳が飛んできた。
「――吸方印・返魄」
丸野の前で魄が揺らぐ。
増井の拳を受け流し、その力を利用して身体を横へ逃がした。
そのまま増井の腕を掴む。
「もらった」
丸野が魄を流し込む。
だが――
「甘い」
増井が腕を振り払った。
丸野の身体が大きく弾かれる。
「……!」
増井の強さは、明らかに普通ではなかった。
それでも丸野は立ち上がる。
「なるほどな」
増井が拳を握る。
その瞬間。
遠くから、大きな衝撃音が響いた。
ドォンッ!
増井の目が、一瞬だけそちらへ向いた。
そこには、倒れた黒崎の姿が見えた。
増井はすぐに視線を戻す。
表情は変わらない。
だが――
ほんの僅かに、拳を握る力が強くなった。
「……行くぞ」
増井が踏み込む。
丸野も迎え撃つ。
二人の拳がぶつかった。
一方――
黒崎は地面に手をついていた。
「……はぁ……はぁ……」
影が、少しずつ薄れていく。
蓮はそれを見た。
「孝太郎」
「ああ」
二人とも分かっていた。
もう長くない。
ここで決める。
「行くぞ!」
蓮が走った。
黒崎も最後の力を振り絞り、影の中へ身を沈める。
だが――
孝太郎が先回りした。
「そこだ!」
拳が影から出てきた黒崎を捉える。
黒崎の身体が浮く。
そこへ蓮が飛び込んだ。
「これで――!」
龍包囲によって強化された拳が、黒崎の胸を打ち抜く。
黒崎は大きく吹き飛び、瓦礫の上へ叩きつけられた。
「……ぐっ……」
立ち上がろうとする。
だが、身体が動かない。
周囲を覆っていた影も、次々と消えていく。
万影転化が終わった。
蓮はゆっくりと拳を下ろした。
「……終わったな」
孝太郎も黒崎を見る。
「……ああ」
黒崎は地面に倒れたまま、動かなかった。
その瞬間――
「…………」
増井の動きが止まった。
丸野の拳を受け止めたまま、視線だけを黒崎へ向ける。
ほんの一瞬。
だが、今まで一度も見せなかったその僅かな動揺を、丸野は見逃さなかった。
増井はゆっくりと拳を下ろす。
そして――
黒崎の倒れた先ではなく。
その向こうにある船へと、視線を向けた。
その目に初めて、
焦りが浮かんでいた。




