選ばれし者
第三話
龍盟連合本部。
巨大な門を前に、蓮は思わず足を止めた。
「……でけぇ。」
龍神組の事務所とは比べものにならない。
白い石造りの建物が幾重にも並び、その中央には空へ伸びる巨大な塔。
塔の頂には、一頭の龍を模した黄金の紋章が輝いていた。
「あれが……連合本部。」
蓮は拳を握る。
(いつか、あそこに立つ。)
「立ち止まるな。」
後ろから声が飛ぶ。
振り返ると、試験官らしき男が受験者たちを中へ誘導していた。
⸻
広場には、百人以上の受験者が集まっている。
服装も様々だった。
地方組。
一般組。
そして――。
「見ろ……。」
「本流組だ。」
ざわめきが広がる。
受験者たちの視線の先には、統一された黒い羽織を纏う十数名の少年少女。
胸には、それぞれ異なる組紋が刻まれている。
「白龍組……。」
「雷神組もいる。」
「今年は本流組からも受験者が来てるのか。」
蓮は目を輝かせた。
「すげぇ……!」
その姿は、まさに蓮が憧れる龍術師そのものだった。
「何がすげぇんだ?」
突然、隣から声がした。
蓮が振り向く。
そこには黒髪の少年が立っていた。
腰には一本の木刀。
それだけ。
龍術師らしい装備は何一つない。
「いや、本流組って初めて見たからさ。」
「そうか。」
少年は興味なさそうに答える。
「お前は?」
「龍神組。」
その瞬間。
周囲が少しざわついた。
「龍神組?」
「まだあったのか。」
「去年、一昨年も最下位だった組だろ。」
笑い声が漏れる。
蓮は慣れている。
「そうだ。」
堂々と胸を張る。
「今は弱い。」
「でも俺が変える。」
「龍神組を本流組にして、会長になる。」
静まり返る会場。
数秒後。
どっと笑いが起きた。
「聞いたか?」
「最下位の組が本流入りだってよ。」
「夢見すぎだ。」
蓮は笑われても気にしない。
「笑っとけ。」
「来年には俺たちが追い抜く。」
「面白い。」
黒髪の少年が初めて笑った。
「その目。」
「本気なんだな。」
「当たり前だ。」
「俺は嘘は言わねぇ。」
少年は蓮を見つめる。
そして静かに言った。
「俺は、本流組――雷神組。」
「……!」
周囲の空気が変わる。
「雷神組だと?」
「あいつが……。」
「今年の主席候補。」
少年は名乗る。
「俺の名前は──。」
その瞬間。
ゴォォォォン!!
鐘の音が会場を震わせた。
全員が正面を見る。
壇上へ一人の老人が現れる。
白髪に黒い羽織。
胸には、龍盟連合の紋章。
「諸君。」
「龍の盃選抜試験へようこそ。」
場内から私語が消える。
老人は受験者たちを見渡した。
「ここにいる百二十八名のうち、龍の盃を受ける資格を得られるのは三十二名。」
「残り九十六名は、この場で帰ってもらう。」
重い空気が流れる。
「第一試験は簡単だ。」
老人は杖を地面へ突く。
ドンッ!!
広場の奥にある巨大な門が開き始めた。
その先には、深い森。
「この森には、討伐対象の龍が一体放たれている。」
受験者たちが息を呑む。
「諸君らに課す課題は一つ。」
老人は静かに告げた。
「倒すことではない。」
「見つけ出せ。」
「……え?」
蓮が思わず声を漏らす。
「龍術師に最も必要なのは力ではない。」
「龍を見抜く眼だ。」
「試験開始。」
老人の一言と同時に、百二十八人の受験者が一斉に森へ駆け出した。
しかし。
ただ一人。
雷神組の少年だけは動かなかった。
蓮はその姿を見て首を傾げる。
「行かないのか?」
少年は森を見つめたまま、小さく呟く。
「……いる。」
「もう見つけた。」
その言葉に、蓮の背筋が震えた。
第三話 終




