帰還
第十八話
玄武組へ戻る頃には、すっかり日が落ちていた。
孝太郎が事務所の扉を開ける。
「おかえり、孝太郎」
澪が声をかけた。
「……ただいま」
孝太郎は短く答える。
すると、奥から祀が顔を出した。
「おう。帰ったか」
「親父」
いつもの姿だった。
いつもの声。
いつもの顔。
それなのに――
「……どうした?」
祀が孝太郎を見る。
「いや……」
孝太郎は言葉を止めた。
黒崎の顔が頭に浮かぶ。
――龍触症。
なぜ、あの男が親父の病名を知っていたのか。
「依頼はどうだった?」
「……最悪だよ」
孝太郎は椅子に腰を下ろした。
「龍魄を奪われた」
「龍魄を?」
澪が驚く。
「ああ。依頼そのものが罠だった」
祀は腕を組み、考え込む。
「そうか……」
しばらく黙った後、祀が口を開いた。
「それで、相手の名前は?」
「黒崎って男だ」
「黒崎……」
祀が呟く。
そして――
「……あれ?」
祀の眉が僅かに寄った。
「どうした、親父?」
「いや……」
祀は自分の額に手を当てる。
「黒崎……黒崎……」
何度か口にする。
「どっかで聞いたことがある気がするんだが……」
「親父?」
「……思い出せねぇ」
孝太郎の表情が固まった。
「そんなに有名な奴じゃなかったのか?」
澪が尋ねる。
「いや、違う」
祀は首を横に振った。
「名前が出てこねぇんだ」
その言葉に、孝太郎の胸がざわつく。
だが、それだけではなかった。
祀はしばらく黙ったあと、ふと孝太郎を見る。
「なあ、孝太郎」
「ん?」
「……なんでこんな夜遅くまで出歩いてた」
空気が止まった。
「…………」
孝太郎は何も言えなかった。
冗談だと思いたかった。
親父が自分の病気のことを忘れている。
「……親父」
そこまで言って、孝太郎は言葉を止めた。
祀が自分で思い出すのを待った。
しかし――
「……龍触症?」
祀は首を傾げる。
「そうだ。俺は……」
そこで祀の言葉が途切れた。
そして困ったように笑う。
「……そうだったな俺のために悪いなぁ」
孝太郎の拳が、膝の上で強く握られた。
あの感じはわかる。あれは思い出していない返事だ。
本人が思い出せなくなっている。
孝太郎は俯いた。
「……親父」
「ん?」
「なんでもねぇ」
祀は不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
「このぶんだと自分のことを忘れていき、俺らのことも」
これは、ただの物忘れじゃない。
そして――
親父の時間は、確実に失われ始めている。
早くお金を稼ぐ方法を見つけなければ




