道中
第十七話
出発の準備が整うまで、それほど時間はかからなかった。
商館の前には、一台の車が用意されている。
黒崎が後部座席へ乗り込み、孝太郎もその隣に座った。
運転手が車を発進させる。
しばらくは、街中を走っていた。
孝太郎は窓の外を眺めながら、周囲の様子を確認している。
今回の依頼は、今まで受けてきた仕事とは少し違う。
龍化獣の討伐のように、最初から敵が分かっているわけではない。
守る相手がいる以上、何か起きれば自分が対応しなければならない。
「荒木さん」
隣から黒崎が声をかけた。
「はい」
「玄武組の方だと伺いました」
「そうです」
「随分と若いんですね」
「よく言われます」
「それでも、この依頼を一人で受けるということは、それなりに腕に自信がおありで?」
孝太郎は少し考えてから答えた。
「自信があるというより……必要だから受けただけです」
「必要?」
「仕事が必要なんです」
黒崎は孝太郎を見る。
「何か、入り用でも?」
「……まあ」
それ以上は答えなかった。
祀のことを話すつもりはない。
黒崎も、それ以上は聞かなかった。
車は街を抜け、次第に建物が少なくなっていく。
孝太郎は前方を見る。
「目的地まで、あとどれくらいですか?」
「一時間ほどです」
運転手が答えた。
「分かりました」
孝太郎は座席に背を預けた。
その時だった。
隣から、微かな音が聞こえた。
孝太郎が振り向く。
黒崎が手を握っていた。
その周囲に、わずかに龍術の気配がある。
「……?」
孝太郎は目を細めた。
「どうかしましたか?」
黒崎が何事もなかったように尋ねる。
「いや……」
気のせいか。
そう思った直後、黒崎が手を開いた。
龍術の気配も消える。
「……龍術、使えるんですか?」
孝太郎が尋ねた。
黒崎は少し驚いたように目を見開いた。
「分かりましたか」
「少しだけ」
「昔、少し習っていたもので」
「そうですか」
孝太郎は黒崎から視線を外した。
依頼人が龍術を使える。
それ自体は、別に珍しいことではない。
龍魄を扱う仕事をしている人間なら、多少なりとも龍術を使える者はいる。
だから、それ以上気にすることはなかった。
ただ――
黒崎は、孝太郎の横顔をじっと見ていた。
「荒木さん」
「はい?」
「あなたは……龍魄について、どれくらいご存じですか?」
「龍術を使うためのコアみたいなものですか?」
孝太郎が振り返る。
黒崎は窓の外へ視線を向けた。
「ふふ。それだと40%ぐらいですね」
「…..」
孝太郎は黙ってしまった
「また時が来たらお話ししますよ」
車はそのまま走り続ける。
ただ孝太郎は、隣に座る黒崎を守る。
それが今回、自分に与えられた仕事だった。




