玄武組の目標
第十四話
病院を出ても、誰も口を開かなかった。
祀は先を歩き、孝太郎はその少し後ろを歩いている。
いつもなら、帰り道に飯の話でもする。
だが今日は違った。
孝太郎の頭の中には、医師から告げられた金額が何度も浮かんでいた。
――莫大な治療費。
それだけじゃない。
治療は一度で終わらない。
進行を遅らせるだけ。
それでも――。
「……孝太郎」
前を歩いていた祀が立ち止まった。
「はい」
「お前、さっき言ったよな」
祀が振り返る。
「俺が金を稼ぐって」
「はい」
「どうするつもりだ?」
孝太郎は少し黙った。
「仕事を増やします」
「今でも十分働いてんだろ」
「足りません」
「え?」
「全部です」
孝太郎の声が低くなる。
「今の玄武組じゃ、親父の治療費には届かない」
祀は黙っていた。
「だから、もっと稼ぎます」
「……無茶する気か?」
「はい」
「そうか」
即答だった。
孝太郎は何も言い返せない。
祀はため息をついた。
「俺のために無茶するな」
「無茶じゃありません」
「同じ顔してんだよ」
「……」
「お前が無茶する時の顔だ」
孝太郎は拳を握った。
「親父」
「なんだ」
「俺は……何もできないまま、親父が苦しんでいくのを見てる方が嫌です」
祀の表情が変わった。
「だからやります」
「……そうか」
祀はそれ以上、止めなかった。
ただ、背を向ける。
「じゃあ、勝手にしろ」
「はい」
「ただし――」
祀が振り返る。
「周りのみんなに頼れお前は俺の家族だからよ」
孝太郎は少しだけ笑った。
「ありがとうございます!」
「期待してる」
祀も笑った。
だが、その笑顔の奥には不安があった。
そして翌日。
孝太郎は朝早くから動き始めた。
まずは龍牙連合の仕事を調べる。
普段なら玄武組の規模では回ってこないような仕事まで目を通す。
「これ……」
護衛任務。
「こっちは龍化獣の討伐か」
報酬は大きい。
その分、危険も大きい。
さらに別の依頼書をめくる。
「……これも」
一つ。
また一つ。
孝太郎は依頼書を積み上げていく。
そこへ澪が入ってきた。
「お兄ちゃん?」
「澪か」
「朝から何してるの?」
「仕事探してる」
「仕事?」
澪が机の上を見る。
積み上げられた依頼書。
その中には、玄武組が今まで避けてきた危険な仕事も含まれていた。
澪の顔が曇る。
「……治療費?」
孝太郎は答えなかった。
それだけで十分だった。
「私もやる」
「澪はいい」
「なんで?」
「龍術使えないから」
「お兄ちゃんだって使えないじゃん」
「俺は鍛えてる普段からな」
「私も祀さんのために動きたい」
澪が依頼書を一枚取る。
「これ、私も行く」
「駄目だ」
「じゃあ玄武組全員でやればいい」
孝太郎が顔を上げる。
「……全員?」
「そう」
澪は依頼書を机へ戻した。
「一人の問題じゃないでしょ」
孝太郎は黙った。
その時――。
「何が一人の問題じゃねぇって?」
背後から声がした。
二人が振り返る。
祀が立っていた。
「親父……」
「朝っぱらから何をこそこそ話してやがる」
孝太郎は答えに迷う。
だが、澪が先に口を開いた。
「祀さんの治療費を稼ぐ話」
「おい、澪」
「隠しても仕方ないでしょ」
祀は二人を見た。
そして、机の上に積まれた依頼書を見る。
「……お前ら」
「親父」
「俺のために、そんな仕事受ける気か?」
孝太郎は立ち上がった。
「はい」
祀はしばらく黙っていた。
やがて、机の上の依頼書を一枚手に取る。
「これ、いくらだ?」
「……報酬はかなりあります」
「そうか」
祀は依頼書を戻した。
「でもこれは龍術使えねぇと」
「親父?」
「護衛任務ですし何事もなければ問題ないです。」
「……」
「だったら、せめてこれを持っていけ」
祀はそう言って、机の上に置いてあった巻物を渡した。
「そいつは何かあった時のおまじないだ俺が現役の時にお世話になってた気がする」
そう言って、部屋を出た。
そして孝太郎は、机の上の依頼書を一枚手に取った。
「澪お前は親父のそばにいてくれそれだって普段俺らの任務よりずっと大事でお前らにしか任せられない」
「何かあったら本部に応援の要請しておくから」
「あぁ頼むよ」
玄武組が、動き始めた。
親父の時間を少しでも長くするために。
そしてその日から――
孝太郎たちの、金を稼ぐ日々が始まった。




