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無盃の将  作者: G
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検査結果

第十三話


医師は、手元の検査結果をもう一度確認した。


「先ほどの検査ですが……いくつか気になる点があります」


「……龍蝕症ですか?」


孝太郎が先に口にした。


医師の手が止まる。


「……なぜ、そう思われたんですか?」


「親父に、最近ずっと物忘れが増えていて」


孝太郎は視線を落とした。


「同じことを何度も聞いたり、物を置いた場所を忘れたり……」


医師は静かに頷いた。


「そうでしたか」


「だから……可能性があるんじゃないかと思って」


しばらく沈黙が続いた。


やがて医師が口を開く。


「現時点では、まだ断定できません」


「……まだ?」


「詳しい検査が必要です。ですが、龍魄の状態と認知機能の数値を見る限り、可能性は否定できません」


孝太郎の拳が膝の上で固まった。


「……検査すれば、分かるんですか?」


「はい」


「じゃあ、やってください」


即答だった。


医師が孝太郎を見る。


「ただし――」


「はい」


「本人の同意が必要です」


孝太郎は言葉を失った。


診察室の外から、祀の声が聞こえる。


「おい、孝太郎!」


「……!」


「まだか?」


「今行きます!」


孝太郎は立ち上がった。


「先生」


「はい」


「俺から、親父に話します」


医師は頷いた。


「お願いします」


孝太郎は診察室を出た。


廊下では、祀が腕を組んで待っていた。


「遅ぇぞ」


「すみません」


「何の話だったんだ?」


「検査結果についてです」


「俺、どっか悪いのか?」


孝太郎は一瞬、言葉に詰まった。


だが、すぐに笑った。


「まだ何も分かってないそうです」


「なんだそりゃ」


祀は鼻で笑った。


「じゃあ帰るぞ」


「……親父」


「ん?」


「追加の検査、受けませんか」


祀の足が止まった。


「追加?」


「念のためです」


「もう十分だろ」


「でも……」


孝太郎は言葉を探す。


「最近、ちょっと物忘れ多いじゃないですか」


祀の眉が動いた。


「……俺が?」


「はい」


「お前、俺を老人扱いしてんのか?」


「そういう意味じゃ……」


「だったら帰るぞ」


祀が歩き出す。


孝太郎は追いかけた。


「親父!」


「なんだよ」


「お願いします」


その声に、祀が振り返る。


孝太郎は頭を下げた。


「一回だけでいいから」


祀は黙って孝太郎を見る。


いつもの孝太郎なら、こんな頼み方はしない。


祀はしばらく黙ったあと、ため息をついた。


「……分かったよ」


「ありがとうございます」


「ただし、一回だけだぞ」


「はい」


祀は再び歩き出した。


「ったく……お前は昔から妙なところで頑固だな」


「親父に似たんですよ」


「馬鹿言え」


祀が笑う。


孝太郎も笑った。


けれど、その胸の奥には重いものが残っていた。


――これでいい。


これで、確かめられる。


翌日。


追加検査の結果を聞くため、二人は再び病院を訪れた。


診察室には、前と同じ医師がいた。


医師は二人を前にして、ゆっくりと口を開いた。


「検査結果が出ました」


祀が腕を組む。


『先生、、、』


医師は一度、孝太郎を見る。


そして――


「千堂さん」


「はい」


「検査の結果、龍蝕症が確認されました」


時間が止まったようだった。


祀の表情から、笑みが消える。


孝太郎は何も言えなかった。


分かっていた。


ずっと疑っていた。


それでも――


実際に言葉にされると、胸の奥を抉られたようだった。


「……そうか」


祀が呟く。


「親父……」


「孝太郎」


祀は静かに制した。


「今は先生の話を聞こう」


いつもの声だった。


だが、その声はほんの少しだけ震えていた。


医師は資料を開く。


「龍蝕症は、龍魄が長期間にわたって身体へ影響を与えることで発症する疾患です」


「治るのか?」


祀が聞いた。


医師は一瞬だけ間を置いた。


「現時点で、完全に治す治療法はありません」


「……そうか」


「ただし、進行を遅らせる治療はあります」


孝太郎が顔を上げる。


「それなら……」


「ですが」


医師は続けた。


「治療には、かなりの費用がかかります」


「いくらだ?」


祀が聞く。


医師が金額を告げる。


その数字を聞いた瞬間――


孝太郎の頭が真っ白になった。


玄武組が何年かけても、届くか分からない金額。


しかも、一度払えば終わりではない。


「……これを、ずっと?」


「はい。症状の進行を抑えるためには、継続的な治療が必要です」


孝太郎は拳を握った。


祀は黙っていた。


そして、ぽつりと言った。


「……孝太郎」


「はい」


「金、ねぇだろ」


孝太郎は答えなかった。


「玄武組に、そんな金があるわけねぇ」


「俺は親父に健康に生きててほしいんです。拾ってもらってここまで育ててもらった恩があります。」


祀が顔を上げる。


「お前を育ててのは気まぐれだ」


「それでも俺は親父の子です」


「俺が稼ぎます」


孝太郎はまっすぐ祀を見た。


「治療を受けましょう」


「孝太郎」


「俺が何とかします」


祀はしばらく孝太郎を見つめていた。


やがて、静かに目を伏せる。


「……馬鹿野郎」


その言葉には、怒りも笑いもなかった。


ただ――


自分を心配してくれる息子を見るような、深い悲しみが滲んでいた。



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