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無盃の将  作者: G
1

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試験の後

第九話 


翌朝。


「――集まれ!」


組事務所の広間に、声が響いた。


眠そうな顔をした者。


緊張した顔をした者。


そして、いつも通りの顔をした者。


それぞれが並んで座っている。


その中で――


「……眠ぃ」


蓮だけが大きな欠伸をしていた。


「お前、昨日の試験の後によく寝られたな」


隣にいた仲間が呆れたように言う。


「疲れたから寝たんだよ」


「普通は緊張して眠れねぇんだよ」


「知らねぇよ」


蓮は頭を掻く。


昨日。


長い試験が終わった。


竜の盃を交わす試験。


龍魄を身体に取り込み、龍術を扱う資格を得るための試験。


多くの者にとっては、一生を左右するほどのものだった。


だが――


蓮にとっては、少し違った。


龍術を使えるようになったわけでもない。


自分の中に何か特別な力を感じたわけでもない。


ただ、生き残った。


それだけだった。


「静かにしろ」


前方から声が飛ぶ。


広間が静まり返った。


組長が立っている。


その隣には、試験の結果をまとめた書類を持った宗玄がいた。


「昨日の試験について、結果を伝える」


その一言で、空気が変わった。


誰もが姿勢を正す。


「まず――」


仁が紙をめくる。


「龍魄への適応を確認できた者」


名前が読み上げられていく。


「……!」


呼ばれた者たちの顔に、安堵が浮かぶ。


周囲からも小さな声が漏れる。


「やったな」


「おめでとう」


そんな声が飛び交う。


蓮はその様子を眺めていた。


そして。


仁の声が止まる。


「――神代蓮」


「はい」


蓮が顔を上げる。


「お前は――」


一瞬の間。


「龍魄への適応反応、なし」


ざわっ。


広間が揺れた。


「……」


蓮は黙っていた。


昨日の時点で、なんとなく分かっていた。


龍魄を飲んでも。


身体に異常は起きなかった。


龍術が使えるようになることもなかった。


だから驚きはない。


ただ――


「やっぱりか」


蓮は小さく呟いた。


周囲から視線が集まる。


「龍術、使えないってことか?」


「昨日あれだけ動いてたのに?」


「そもそも、なんで龍魄を飲んで平気だったんだ?」


疑問の声が次々に上がる。


蓮はそれを聞きながら、少しだけ俯いた。


龍術が使えない。


この世界では、それは大きな意味を持つ。


龍と戦う者にとって。


龍術は武器そのものだ。


それがない。


つまり――


「落ちこぼれってことか」


誰かが呟いた。


蓮の眉が動く。


「……」


だが。


反論しようとしたその時。


「黙れ」


組長の声が響いた。


広間が静かになる。


「龍術が使えないから何だ」


組長は蓮を見る。


「試験に受かったかどうかを決めるのは、龍術の有無だけじゃねぇ」


「……!」


蓮が顔を上げる。


「昨日の試験で、最後まで立っていた」


組長は淡々と言った。


「それがお前の結果だ」


蓮は何も言わない。


「それに――」


組長が少しだけ笑う。


「お前は昨日、誰よりも前に出てたじゃねぇか」


「……」


蓮は拳を握った。


その言葉が、妙に嬉しかった。


龍術が使えない。


その事実は変わらない。


けれど。


自分が何もできないと決まったわけじゃない。


「……ありがとうございます」


蓮が頭を下げる。


「礼なんかいらねぇ」


組長は背を向けた。


「これから証明しろ」


「何を?」


「龍術が使えなくても、戦えるってことをな」


蓮の口元が少しだけ上がる。


「……任せてください」


その時。


仁が口を開いた。


「ただし」


「?」


「龍術が使えない以上、お前には別の課題がある」


蓮の表情が変わる。


「課題?」


仁は一枚の紙を取り出した。


「今日から基礎訓練を倍にする」


「……は?」


「体術、武器、反応速度、持久力」


淡々と告げていく。


「龍術を使えないなら、それ以外を伸ばすしかない」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「何だ」


「倍ってどれくらい?」


仁は答える。


「通常の二倍だ」


「……」


蓮は固まった。


「いやいやいや!」


広間に蓮の声が響く。


「俺、昨日試験終わったばっかだぞ!?」


「だからだ」


「だからって何だよ!」


「休んでいる暇はない」


「鬼かよ!」


周囲から笑い声が起こる。


「蓮、頑張れよ」


「昨日よりキツいぞ」


「お前ならいけるって」


「他人事だと思いやがって!」


蓮が叫ぶ。


広間に笑い声が広がった。


昨日まで張り詰めていた空気が、少しずつほどけていく。


試験は終わった。


だが。


蓮にとっては、ここからが始まりだった。


龍術を使えない。


それでも。


この世界で生きていく。


この組で上に行く。


いつか――


直系組になる。


そのために。


「……やってやるよ」


蓮は拳を握った。


誰に言うでもなく。


小さく呟く。


「龍術が使えないなら――」


顔を上げる。


「使わなくても強くなればいい」


その言葉を聞いた仁が、ほんの少しだけ目を細めた。


「……その意気だ」


そして、その日。


神代蓮の新しい日々が始まった。


龍術を持たない男が。


龍術を持つ者たちの世界で――


どう生き残るのか。


まだ誰も知らない。


ただ一つ確かなのは。


蓮がようやく――


自分自身の力で、前へ進み始めたことだった。

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