番外編3 イケメンは強し、ですが顔だけでは……
「ドガンさんにも男性の好みがあるのですね」
ドガンさんが色恋沙汰に興味がおありとは、私は思っていませんでした。年齢もおいくつなのかわかりませんし、頼れるお姉様だと思っていたので、結婚を考えるような若さではないというイメージがあったのです。
「なにを言う。わしは百歳に満たぬ乙女じゃぞ?」
「えっ? ええ!?」
鉱人族の寿命は三百年ほどです。
もっとも、健康であればの話ですが。お酒の飲みすぎで体を悪くする人が多く、そこまで長生きしないことが多いのだとか。
人間族でいうと百歳は大変なおばあさまです。
ドガンさんが百歳であることに違和感はありませんが、うら若き乙女と言われると、なんだか変に感じます。
「鉱人族はデカい筋肉と豊かな髭を美しいと感じるものなんじゃ」
「どちらも鉱人族の特長ですね。では、ドガンさんの好みのタイプが同族ということですか?」
ヴィオの質問に、ドガンさんはしおしおとなります。
こんなドガンさんの姿は珍しいです。
「わしは髭が生えんのじゃ……じゃから同族にはモテん」
「ええっ!? ドガンさんのツルツルもちもちなほっぺは、人間族にとっては羨ましいものですわ!」
なんと、鉱人族は女性でも髭の美しさが重視されるのですね!
私にとっては意外な文化ギャップです。
「ガムルはどうじゃ。あやつの顔は竜人族の中ではかなり上じゃろ」
ドガンさんが言いました。ドガンさん、意外と面食いなのでしょうか?
「竜人族の美醜はよくわかりませんわ。でも、ガムルさんは上昇志向があって前向きなところが、一緒にいて励まされますわ」
「強くて頼れるところも素敵ですよね。ですが料理にしか興味がなさそうなところが……食材の好みも独特です」
確かに、ガムルさんは凄腕の料理人ですが、だからこそ領地経営をしなくてはいけない貴族に「転職」していただくのは忍びないです。
マイペースな性格は、遠回しなやりとりを好む貴族には向いていないかもしれません。よかれと思って出した珍味が、どう受け取られるかわからないということが容易に想像できます。
「そうじゃな……クロウリーは独身かのう。あの声の感じは若い男のように聞こえるが」
なるほど、クロウリーさん。
彼なら貴族としてもやっていけるほどのしたたかさがあります。商才があり、経済力があるところも、高位貴族の養子になっておかしくない素養です。
「顔の造形はわかりませんが、背が高いのはいいですね。
合理的な考え方も好印象です。こちらが彼に利を与える限り、裏切らなさそうなところも、貴族の婚姻という面から考えれば信頼感があります。
女性の理想の男性像は『自分だけに優しい殺人鬼』といいますから、冷酷なところもプラスです」
「金持ちで商魂たくましい点は理想的じゃ」
ヴィオ的にもドガンさん的にも、クロウリーさんはアリのようですね。
しかしながら、私としては……。
「クロウリーさんはあれで優しいところがありますわよ。でも、生活感がなさすぎて、結婚してともに暮らしていくビジョンが見えませんわ」
クロウリーさんは素敵な方だと思いますが、高嶺の花であるという印象が否めません。それが正直なところです。
「ところで、ヴィオは結婚しませんの?」
私はちょっとした疑問をぶつけてみました。
ヴィオはそこそこの年齢です。この国で結婚するカップルのボリュームゾーンは十代後半から二十代前半。ヴィオはいわゆる結婚適齢期としてはギリギリと言っていいでしょう。
「結婚なんて無駄な工程です」
ヴィオはそう言い切りましたが、少し考えてこう続けました。
「そうですね。お嬢様が婚約を結ばれたら、私も結婚相手を探します」
「なぜですの? 私の婚約を待っていたら嫁ぎ遅れかねませんわよ」
「私は、お嬢様が将来もうっかり産み落とされるであろうお子さまを、乳母としてお育てしたいと思っておりますので」
うっかり?!
いえ、そこではなく、ヴィオは私の子の乳母になるため、同時期に子を授かる目的で結婚すると言うのです!
「ヴィオ……? なんだかあなたの愛が、蒸し風呂より熱くてちょっと怖いですわ」
このようにガールズトークで盛り上がりながら私たちは体を温めました。
すっかり長風呂してしまいました。十分に温まりましたら、ドガンさんはエールが欲しくなったようです。
この後は、夕食を摂りながら今後の村の経営について話しあいをする予定になっています。
きっとガムルさんが、おいしいお食事と飲み物を用意してくださっているでしょう。




