日常編28 学ぶことは
「ウェリダンお兄様、ロヴェリオ殿下から聞きましたよ? この本に書いてあることは、嘘だって」
「……何を吹き込まれたのですか?」
「ランスルドは、私達の先祖ではなく、そもそも英雄ではなかったとか……」
「なるほど……」
ロヴェリオ殿下と話した後日、私はウェリダンお兄様の部屋を訪ねていた。
それは要するに、抗議のための訪問である。ウェリダンお兄様の本の内容について、私はあの後いくつか調べてみたが、やはり色々と怪しい面があるように思える。
「ロヴェリオ殿下も、余計なことを吹き込んでくれるものですね」
「それで、実際の所どうなんですか?」
「クラリアはどう思ったのですか? ロヴェリオ殿下だけの言葉を鵜呑みにしただけで、ここに来た訳ではないのでしょう? もう彼の訪問からそれなりに時間は経ちましたし……」
「ええ、お母さんに頼んで、少し調べてみました。やっぱりこの本に書いてある歴史は、嘘というか誇張というか、良いように書かれていると思います」
ランスルドがすごい戦士だったということは、間違いないようだ。
しかし彼は、ただの立派な剣士ではなかったように思える。人格面においては色々と問題があった人だと、調べた結果わかってきた。
それから、私達との繋がりも怪しいものだ。そもそも、その辺りになると王家の血の繋がりを示す資料はないらしく、なんとでも判断できる。
「まあ、そうなのかもしれませんね」
「ウェリダンお兄様は、それを知っていてこの本に訂正を入れなかったのですか?」
「クラリア、よく目を通してみてください。その本にも、一説にはそう言われているという記述があるはずですよ?」
「え? それは……ああ、確かにそうありますね?」
ウェリダンお兄様は、私が詰め寄っても飄々としていた。
それを少し不服に思いながらも、私は本を見てみる。すると確かに、ウェリダンお兄様が言った通りの記述があった。
「そこに書かれている通りです。ランスルドの伝説が全て真実であるとは、限りません。そのような情報の真偽を判断するのも、歴史を学ぶ上では大切といえるかもしれませんね」
「そういうものでしょうか?」
「実際に、クラリアは今回、自身が得た情報を精査した訳ですからね。僕としては、その姿勢を嬉しく思いますよ。クラリアに、物事を学ぶ姿勢があるということですからね」
ウェリダンお兄様が笑顔で言ったその言葉に、私はまた改めて考えることになった。
確かに私は今回、真偽を確かめるために必死になっていた。その過程というものは苦しいものであったけれど、同時に楽しいものだったような気もする。
「その本で、歴史というものに深く興味を持っていただく予定でしたが、クラリアは既にその先に目を向けているようですね。それは立派なものですよ」
「……」
ウェリダンお兄様は、一体どこまで織り込み済みだったのだろうか。
私がロヴェリオ殿下にこのことを話すこと、彼がそのことについて何を言うのか、またそれを受けて私が何をするのか、もしかしたらそこまで全て読んでいたのかもしれない。
そんなウェリダンお兄様の思惑に乗るのは、少しだけ釈然としない部分はあるけれど。
それでも私は、学ぶことをやめはしないだろう。失われかけてきた意欲が、また燃え始めているということが、自分でもわかった。




