日常編23 忘れかけていたこと
イフェネアお姉様の家事の腕前は、よくわかった。
それは、平民にとって親近感が湧くようなものかは微妙な所ではあったが、ともあれ話が合う部分があるのは確かだ。
「家事の悩みなんかに共感してもらえると、平民としては嬉しいものかもしれませんね」
「なるほど……」
「まあ、これは私の個人的な意見ではありますが……」
私とイフェネアお姉様は、適当な洗濯物を干していた。
家事の腕を確かめるために、メイドさんに頼んで、いくつかの洗濯物を預かったので、責任を持ってそれを干しているのだ。
ここでもイフェネアお姉様は、手際の良さを見せていた。私が一枚干している間に、お姉様は三枚を片付けている。
「……でも、こうして家事をするのは随分と久し振りですね」
「まあ、クラリアもお屋敷に来てからは、そういうことはやらなくても良くなった訳だものね」
「少し懐かしい気持ちはありますね。当時は、煩わしいものだと思うこともありましたが……」
イフェネアお姉様と家事をした私は、昔のことを思い出していた。
平民として村で暮らしていた時は、こういった家事をするのが面倒だと思ったことは何度もある。それが今では、懐かしいと思うようになるなんて、少し不思議なものだ。
私も、貴族としての暮らしに慣れてきた、ということなのだろうか。それを喜んでいいことかどうかは微妙な所かもしれない。
「……こういったことを忘れてしまうのは、良いことではないですかね?」
「クラリア? それは、どういうことかしら?」
「いえ、思ったんです。私もなんというか、私が考えていたような駄目な貴族になっているのかもしれないと。貴族として、何もしないことに慣れてしまっている訳ですから」
「それは……」
私は、ふと思うことになった。家事から離れたことで、私は傲慢な貴族になりかけているのではないかと。
家事などをやらずにいることが、当然などと思ってはいけないだろう。使用人の人達に感謝の気持ちを忘れず、平民のために尽力する貴族であらなければならない。
「ふふっ、クラリアは立派な貴族になれそうね」
「え? そ、そうでしょうか?」
「ええ、そうやって自らを省みることができるのならば、大丈夫だと思うわ。ロヴェリオ殿下と一緒に、民に寄り添える貴族になれると私は思うわ」
イフェネアお姉様は、私に嬉しい言葉をかけてくれた。私は、それに舞い上がってしまいそうになる。
調子に乗るのは、良いことではないだろう。イフェネアお姉様の期待に、応えるためにはそれが必要だ。だから私は少し背筋を伸ばして、お姉様の方を真っ直ぐに見る。
「イフェネアお姉様の期待に応えてみせますね?」
「ええ、期待しているわ。でも、あまり気負わないで頂戴ね?」
「そうですね。それも胸に刻んでおきます」
私はイフェネアお姉様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
確かに、気負い過ぎても駄目かもしれない。気を緩めてもいけないが、引き締めてもいけない。良い塩梅を、見つけなければならないということだろう。




