日常編19 褒めて欲しいのは
私はアドルグお兄様とともに、厩舎に戻って来ていた。
ブラック・ドラクシアに乗っての遠乗りは、とても楽しかった。彼女のこともよくわかったし、友達になれたような気がする。
「ブラック・ドラクシア、ご苦労だったな。お前の働きは、見事なものだった。やはりお前は、名馬だといえる。その強靭な肉体には、父親であるブラック・ドラゴの力強さというものが宿っているということだろう」
「ブルルッ……」
自室で水を飲んでいたドラクシアは、アドルグお兄様からの賞賛の言葉に鼻を鳴らしていた。
ただ彼女の様子は、どうにも誇らしそうではない。どちらかというと、またアドルグお兄様の言葉に不満を抱いているように見える。
それは恐らく、彼女が女の子だからだろう。アドルグお兄様も、そろそろわかってもいいはずなのだが。
「アドルグお兄様、そうではないと思いますよ?」
「クラリア? それは、どういうことだ?」
「ブラック・ドラクシアが喜ぶ言葉は、もっとあると思うんです。それも、とても単純なものが、です。つまりですね、アドルグお兄様はもう少し言葉を選ぶべきなんじゃないかと……」
「俺の賞賛の言葉には、至らぬ点があるということか?」
「はい」
私の指摘に、アドルグお兄様は少し悲しそうに視線をそらしてきた。
馬が好きということに、嘘はないのだろう。上手く褒められていないという事実には、少し落ち込んでいるようだ。
とはいえ、馬好きのお兄様はなんというか、能力ばかりに目が行きがちだ。もう少し単純に褒める所が、あると思うのだけれど。
「ドラクシアは、綺麗だよね? 美しい馬だって、私は思っているよ?」
「ブルルッ……!」
「走っている時も思ったもん。鬣も艶があるよね。やっぱり、そういう所はドラクシアも気にしているのかな? 尻尾もさらさらだし……」
「ブルルッ、ブルルッ……」
私が褒めてみると、ドラクシアは嬉しそうな反応を返してくれた。
やはり彼女は、見た目とかそういう所を褒めてもらいたいのだろう。
私は、アドルグお兄様の方を見ていた。すると、お兄様は目を丸めていた。ドラクシアのこの反応は、見たことがなかったのだろうか。
「アドルグお兄様、こんな感じです。ドラクシアはきっと、容姿の美しさとか、そういう所を褒めてもらいたいんだと思いますよ?」
「……流石だ」
「……お兄様?」
私の言葉に、アドルグお兄様は笑みを浮かべていた。
その笑みはなんというか、誇らしげだ。しかしそれは一体、どういうことだろうか。
「ドラクシア、わかるか? 我が妹は、この短い付き合いの中で、既にお前のことを理解しているようだ。それはクラリアに、他者と分かり合う才能があるからだとお前は思わないか?」
「ブルルッ、ブルルッ……」
「なるほど、やはりお前もそう思うか」
アドルグお兄様の急な私への賞賛に、ドラクシアは首を縦に振った。
どうして、そうなったのだろうか。よくわからないけれど、アドルグお兄様は私のことを褒め始めてしまった。
ドラクシアも、どうしたのだろうか。今までの彼女なら、アドルグお兄様の様子に呆れそうなものなのに。
それだけ、私のことを評価してくれているということなのだろうか。しかし私としては、少し恥ずかしかった。周囲には牧場の従業員の方々や、馬達がいる訳で。
その人達に、アドルグお兄様の過度な賞賛が聞かれてしまっている。私はどういう顔でいれば良いのだろうか。それがよくわからなかった。




