日常編18 安心できるのは
私はアドルグお兄様とともに、木陰で休んでいた。
ブラック・ドラクシアも一緒だ。彼女は周囲の手頃な草を食べている。
「アドルグお兄様、ドラクシアが草を食べていますが、大丈夫なんですか? 何か食べていけないものなど、ないものでしょうか?」
「問題はない。この辺りに馬が食べられないようなものは生えていない。そもそも、ブラック・ドラクシアは賢い馬だからな。食べていいものと食べてはならないものの判別はつく」
「なるほど……」
念のためにアドルグお兄様に質問を投げかけてみたが、特に問題はないようだ。
しかし、ドラクシアという馬は本当に賢いものである。走りも力強いし、やはり名馬ということなのだろう。
「ブルル……」
「む?」
そんなドラクシアは、私達の傍までやって来ていた。
もう草は良いのだろうか。彼女はゆっくりと身を屈ませ、その場に座った。
「ドラクシアが座るとは、珍しいこともあるものだな……」
「そうなのですか?」
「厩舎の中では、そういう姿を見せることもある。だが、こうして外で座るのを見るのは初めてだ。流石に二人を運ぶのには疲れたか」
「ブルルッ」
アドルグお兄様は、ドラクシアの様子に少し笑みを浮かべていた。
それはつまり、彼女を侮る言葉だったのだろうか。つい先程、アドルグお兄様はドラクシアに嘲笑われたと思っているので、その意趣返しということなのかもしれない。
しかし、ドラクシアはアドルグお兄様の言葉に不服そうに鼻を鳴らした。彼女は別に、疲れているという訳ではなさそうだ。
「その目からして、この俺に何か言いたいことがあるようだな、ドラクシア」
「ブルルッ」
「む? クラリアのことについて、何か言いたいということか」
「ブルルッ、ブルルッ」
「……なるほど、お前からしてみれば、クラリアが重たいなどということは、ないということか。いや、待て、クラリア、別に俺とてお前が重たいと言いたかった訳ではない」
ドラクシアとのやり取りの中で、アドルグお兄様は少し焦った顔を見せた。
もしかして、私が重たいと実質的に言ったことを気にしているのかもしれない。アドルグお兄様は紳士であるし、例え私であっても女の子に重いとは言いたくないのだろう。
「大丈夫ですよ、アドルグお兄様。私は体重のことは気にしていませんから。私がドラクシアにとって、負担になるのは当然のことです」
「ブルルッ……」
「ドラクシア? あ、えっと、私は負担じゃないってこと?」
「ブルルッ……」
ドラクシアは、私の言葉に頷くような仕草を見せた。
それから彼女は、こちらをまるで手招きするように首を動かした。私がそれに従うと、満足そうにドラクシアはさらにリラックスし始めた。
「なるほど、クラリアの存在はドラクシアに安息を与えているという訳か。いつにも増してくつろいでいる理由がわかってきた」
「あ、そうなのでしょうか? それは、少し嬉しいですね……」
「……逆説的に、俺一人では安心できないということか? 何故だ、ドラクシア。俺とお前はこれまで、苦楽をともにしてきたはずであるというのに!」
「ブルッ……」
アドルグお兄様の抗議に似た言葉に、ドラクシアは鼻を鳴らして反応した。
また彼女は、呆れているような気がする。もしかしたらドラクシアにとっては、アドルグお兄様はなんとも心配な存在ということかもしれない。




