日常編10 夫人からのプレゼント
私はお母さんとヴェルード公爵夫人、もといレセティア様の近くに来ていた。
ロヴェリオからの誕生日プレゼントである指輪のネックレスを首にかけているので、なんだか少し気恥しい気分だ。お母さんはこれについて、どう思っているのだろうか。遠くからずっと成り行きを見ていたような気はするけれど。
「クラリア、誕生日おめでとう。ふふっ、色々な人からプレゼントをもらったのね?」
「あ、うん。その、たくさんもらっちゃった」
「それだけ、皆様があなたのことを大切に思っているということよ。その思いに応えられるように、あなたもこれから頑張るように……ああ、少し説教のようになってしまったわね」
「ううん、大丈夫。私も頑張らないとって、思っていた所だから」
ヴェルード公爵家の一員として迎えた初めての誕生日、それを経て私はやる気を出していた。
前々から立派な貴族にならなければならないと思っていたけれど、より気が引き締まったような気がする。
まだ何をすればいいのかはよくわかっていないけれど、お母さんの言う通り頑張るとしよう。
「カルリア、あなたのそういう所は相変わらずなのね?」
「……奥様」
「今日はクラリアの誕生日なのだから、もう少し柔らかくなってもいいというのに。でもクラリアの方もやる気を出しているみたいだし、あなたによく似ているのね」
私達の会話を聞いたレセティア様は、嬉しそうに笑みを浮かべていた。
どうしてそんなに嬉しそうなのだろうか。レセティア様も、私の誕生日を祝福してくれているということなのかもしれない。
「すみません。私はどうしても、少し固い所があるようですので。この子にはもう少し、柔軟になってもらいたいとは思っています」
「そういう所が固いと思うけれど……まあ、そのことはいいわ。あなたのそういう所も、私は好ましく思っている訳だし。それよりも今は、クラリアへのプレゼントね」
「プ、プレゼントをいただけるのですか? ありがとうございます……」
レセティア様の言葉に、私は少し息を呑んだ。
お兄様方やロヴェリオ殿下とは違い、緊張してしまう。
レセティア様が私のことを疎ましく思っている訳ではないことはわかっている。だけれど、それでも話す時には背筋が伸びる。
「ふふふっ、プレゼントはもちろん用意しているわよ? 可愛いクラリアのために……」
「……奥様? なんだか、笑顔が怪しいのですけれど」
「カルリア、安心しなさい。私も弁えているわ。そこまで大それたプレゼントなどは用意していないわよ? ええ、常識の範囲内で用意したもの」
「……本当ですか?」
レセティア様の発言に対して、お母さんは目を細めていた。
それを見ながら、私は思い出す。そういえば誕生日プレゼントについては、少し心配していた部分もあったと。
お兄様方は、私のことを深く愛してくださっていて、それは時に度を超すことがある。
貴族というものはお金持ちである訳だし、もしかしたらすごいものを渡されるのではないか。そんな風に思っていたこともある。
レセティア様の今の雰囲気は、お兄様方達が暴走している時に似ていた。だからお母さんも、目を細めているのだろうか。
「ヴェルード公爵家の領地の敷地内にあるアルファッド山の権利書を……カルリア? 何、その表情は?」
「奥様、そんなものはクラリアにはいりません。この子の母親として、受け取らせる訳にはいきません」
「いえ、この山は別にそんな大した山ではなくて、もちろん価値はあるけれど、将来に向けての投資というか……」
「駄目です」
レセティア様のプレゼントに、お母さんは首を横に振っていた。山の権利なんて、私には適切ではないと思っているからだろう。
それは私も、同じ気持ちだ。そんなものを渡されても、困ってしまう。どうしていいのかわからないし、受け取れはしない。
「……母上」
「……アドルグ?」
「まったく、あなたという人は……度を越したプレゼントなど、控えていただきたかったものですね。もう少し考えていただきたい」
そんな風に思っていると、お兄様達がやって来ていた。
アドルグお兄様は、訝し気な視線をレセティア様に向けている。
それにエフェリアお姉様とオルディアお兄様がもっと訝し気な視線を向けているけれど、それはどういうことなのだろうか。
「アドルグ、クラリアがこのヴェルード公爵家で迎える初めての誕生日なのよ? ここは気合を入れたプレゼントを贈るべき時だと、私は思っているのだけれど?」
「お母様、クラリアをよく見てください。プレゼントのことを聞いて、クラリアも委縮してしまっていますよ?」
「おやおや、母上は時に暴走することがありますが、よりにもよってここでそれが発揮されてしまうとは、僕達にとっては想定外でしたね……」
「イフェネア、ウェリダン、あなた達まで、何よその目は……」
イフェネアお姉様とウェリダンお兄様も、レセティア様に対して追撃していた。なんだか少し、可哀そうになってくる。
ただそれでも、プレゼントを受け取る訳にはいかなかった。山の権利なんて、渡されても困ってしまうし。
それにしても、エフェリアお姉様とオルディアお兄様は二人にも訝し気な視線を向けている。一体どうしたのだろうか。
結局レセティア様のプレゼントは、周囲の判断によって却下された。
後日ティーカップを改めてプレゼントしてもらって、それもそれなりに高級そうなものだったけれど、喜んで受け取った。




