日常編9 彼との誓い
お兄様方から誕生日のプレゼントをもらった後、私はロヴェリオ殿下の元に来ていた。
私の誕生日ということで、彼は来てくれていたのだ。ヴェルード公爵家の内々で行われているものだが、唯一の招待客がロヴェリオ殿下である。もっとも、ヴェルード公爵家と王家は親族であるため、彼も元より身内ともいえるのかもしれない。
「ロヴェリオ殿下、今日は来てくれてありがとうございます」
「いや、別に感謝されるようなことではないさ。婚約者である俺が、クラリアの誕生日に来るなんてことは、当然のことだからな。個人としても、是が非でも参加したかった所だし……」
「そうですか……」
私の言葉に、ロヴェリオ殿下は答えてくれている。ただなんというか、彼の視線は泳いでいた。
ロヴェリオ殿下の視線の行き先、それはどうやら私の額のようだ。そこには確かに、誕生日のパーティーが始まった頃とは違うものがある。
「あ、えっと、これはエフェリアお姉様からのプレゼントです」
「ああ、そうだったのか。エフェリア姉様は、流石だな。よく似合っている。クラリアにぴったりだ」
「そうですね。馬子にも衣裳といった所でしょうか。髪飾り一つで、私でも様になるものですね」
「いや、そういうことではないさ。クラリアは元々……可愛いの、だし」
「そ、そうですか……?」
ロヴェリオ殿下からの言葉に、私は少し心を躍らせていた。
お兄様方からも似たようなことは言われたけれど、彼にそう言われるとなんだか少し違う。
それが何故なのかはわかっている。しかしはしゃいでしまってはいけない。貴族の一員としての品位、私はそれを意識する。
「ああ、そうだ。俺からも誕生日プレゼントがあるんだ。受け取ってくれるだろうか」
「え? あ、はい。もちろんです。ありがとうございます、ロヴェリオ殿下。えっと、開けてもいいですか?」
「遠慮なく開けてくれいい……でもまあ、結構緊張するものだな。気に入ってもらえると、嬉しいけれど」
「それでは失礼します……」
ロヴェリオ殿下は嬉しい言葉に続いて、また嬉しい誕生日プレゼントを渡してくれた。
正直な所、期待はしていた。欲張りかもしれないが、気遣いが上手なロヴェリオ殿下なら用意してくれていると思っていたし、それを楽しみにしていたことは確かである。
私ははやる気持ちを抑えながら、誕生日プレゼントが入っているであろう小包みを開けた。大きさからして、何かアクセサリーの類だろうか。
「え? これは……」
誕生日プレゼントを取り出した私は、少し固まることになった。
小包みの中から出てきたのは、指輪である。銀色に輝くそれは、予想していた通りアクセサリーではあるのだが、その中でも色々と考えてしまうものであった。
「……ロヴェリオ、別にこれはやっかみなどではないと前置きした上で言っておくが、気が早いのではないか?」
「え?」
固まっていた私は、聞こえてきたアドルグお兄様の声に少し驚いた。
周りを見てみると、いつの間にかお兄様方が集まっている。皆、ロヴェリオ殿下のプレゼントを見て、驚いているようだ。
「指輪ですか? ロヴェリオ殿下も中々大胆ですね……まあ、何れは渡すものですし、別に早くなっても良いものかしら?」
「おやおや、これはまたすごいものを……まあ、気持ちはわかりますよ。はやる気持ちというものは、抑えられないものです」
「ふふっ、私はこういうのはいいと思うなー。あ、アドルグお兄様のは、やっかみだから気にしない方がいいよ?」
「ロヴェリオの覚悟が現れた、ということかな。まあ、アドルグお兄様としては心穏やかではないのだろうけれど……」
お兄様お姉様方は、それぞれ反応を示していた。
それを見て、私は苦笑いを浮かべる。ロヴェリオ殿下の方は、少し焦っているようだ。
「いや、これは……」
「あ、私達は邪魔者ですね? アドルグお兄様、行きましょうか」
「イフェネア? そんなに引っ張るな。それに邪魔者とはなんだ? 兄弟である我らが邪魔者など、そのようなことがあるはずは――」
「兄上、それは無粋というものですよ?」
「ウェリダン?」
「はい、アドルグお兄様行きましょうねー。オルディア、そっちを引っ張って」
「もちろんだとも。二人とも、それじゃあ後はごゆっくり」
ロヴェリオ殿下が言葉を発する前に、アドルグお兄様は他の四人に引っ張られていった。
もしかしたら皆は、アドルグお兄様を止めるためにこちらに来ていたのだろうか。アドルグお兄様だけは、私とロヴェリオ殿下が二人きりで話すのにどうにも不満があるようだし。
ただ結局の所、誕生日のパーティー会場はそれ程広くはないため、皆に私達の会話は聞こえるだろうけれど。
「あの、ロヴェリオ殿下……」
「ああ、いや、その……それは確かに指輪だ。一応、ネックレスになっているんだけど」
「ネックレス? あ、本当ですね。よく見たら……」
私は小包みから指輪を取り出した。するとそれにチェーンが繋がっているということがわかった。どうやらこれは、指にはめるものという訳ではないらしい。
それならもしかして、思っていたようなプレゼントではないということだろうか。私は自分が勘違いしていたことに、少し恥ずかしくなる。
「ただもちろん、そういう意味も持たせたつもりだ。クラリアとの未来を俺は誓いたい」
「ロヴェリオ殿下、それは……」
ロヴェリオ殿下は、懐からあるものを取り出した。
それは私が今持っているのと同じ、指輪のネックレスである。それはつまり、これはお揃いということだろう。
お揃いの指輪を身に着ける。そこには確かに、意味があるように思えた。ロヴェリオ殿下は確かに、私との未来を考えてくれている。それがよくわかった。
「……嬉しいです、ロヴェリオ殿下」
「そ、そうか。喜んでもらえたのなら良かったよ」
ロヴェリオ殿下の言葉に対して、私はなんとも単純なことしか言えなかった。
本当はもっと色々と、言いたいことがあるはずなのに、上手く言葉にできない。だからただ今の気持ちを素直に零すしかなかった。それは少々、ロヴェリオ殿下に申し訳ない。
しかしそれでも、ロヴェリオ殿下は笑顔を返してくれた。そんな彼を見ながら私は、手元にあるネックレスを再び見る。
「……ロヴェリオ殿下、これをかけてもらえますか?」
「ああ、もちろん」
私の頼みに、ロヴェリオ殿下はすぐに頷いてくれた。
ネックレスを渡して、私は首を少し下げる。すると彼が、首にチェーンをそっとかけてくれた。
そんな何気ない動作一つに、私はなんだか特別を感じていた。
「どうですか?」
「似合っている……なんて、プレゼントした俺が言うのはおかしな話か」
「ロヴェリオ殿下、ネックレスをこちらに。私にかけさせてください」
「あ、ああ……」
お揃いのネックレスを受け取った私は、彼の首にそれをかける。
お互いにそれをかけあったという事実が、私にとっては大切なものであった。ロヴェリオ殿下にとっても、そうだといいのだけれど。
いや、きっとそうだろう。照れながら笑みを浮かべる彼を見ながら、私は思った。そのことに関して、私はもっとロヴェリオ殿下を信じるべきなのだと。
ともあれ、今日という日が私にとって幸福な一日だったということは間違いない。
こんなに幸せで、本当にいいのだろうか。そう思ってしまうくらいに、最高の誕生日だった。




