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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗
日常編

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日常編2 悪戯に巻き込まれて

 私は今、エフェリアお姉様とともに庭にあるテーブルの下にいる。

 テーブルクロスがかかっているため、外から私達の姿は見えていない。つまり私達は、隠れているのだ。

 何故隠れているのかというと、それは成り行きといえるかもしれない。少なくとも私はそんなつもりはなかったけれど、今はこうなっている。


「あの、エフェリアお姉様? どうしてこのようなことを……?」

「しーっ、クラリア、もうすぐウェリダンお兄様が帰ってくるだろうから、静かにして……」

「それが問題なんですけど……」


 エフェリアお姉様は、庭で優雅に紅茶を飲んでいたウェリダンお兄様に悪戯を仕掛けた。

 それは紅茶の中に果物の果汁を入れるというものだ。今机の上にある紅茶は、大変酸っぱくなっていることだろう。

 その場面に偶然居合わせた私は、巻き込まれてしまった。一緒に隠れたら、まるで共犯みたいだ。


「あの、エフェリアお姉様? こういうことはあまり良くないと思うんですけれど……」

「いやいや、いつも冷静なウェリダンお兄様が動揺する所をクラリアだって見てみたいとは思わない?」

「いえ、そんなには……」


 エフェリアお姉様は、なんだか生き生きとしていた。

 それに私は、少し苦笑いを浮かべる。それは呆れたという気持ちというよりは、エフェリアお姉様が変わらないことへの安心感のようなものの表れだった。


 婚約が決まってから色々とあったけれど、エフェリアお姉様のこういった所は変わっていないらしい。それが私は嬉しかった。

 だけれど、悪戯というのはどうなのだろうか。そのことに関しては少々、どうかと思う気持ちもある。


「立派な淑女としての振る舞いとか、そういったことは……」

「うっ……ねえ、クラリア、そういうことを妹から言われると結構グサッとくるかも」

「婚約も決まったことですし……」

「あーあ、聞こえないかな……聞こえない、聞こえない……」


 エフェリアお姉様は、私の言葉に耳を塞いでいた。

 ロヴェリオ殿下との婚約が決まってから、私も貴族の淑女としての振る舞いをきちんとしなければならないと思った。そういった気持ちは、やはりエフェリアお姉様にもあったのだろう。


「あ、足音がする……ウェリダンお兄様が帰ってきたんだ」

「あ、えっと……」


 エフェリアお姉様の言う通り、私の耳には足音が聞こえてきた。

 それはウェリダンお兄様の足音だろう。他の人という可能性もない訳ではないが、この足取りはそうである気がする。


「……おや」

「……」

「……」


 私は、自然と黙っていた。紅茶のことをウェリダンお兄様に伝える方が良いかとも思ったのだが、エフェリアお姉様などの視線を感じたし、とりあえず黙っている。

 ただなんというか、罪悪感のようなものが湧いてきた。本当にこれでいいのだろうか。そう思っていると、ウェリダンお兄様が椅子に座る音が聞こえてきた。


「うっ……」

「……あっ」

「しーっ…」


 その直後に聞こえてきたのは、ウェリダンお兄様の唸り声だった。

 それは恐らく、紅茶を飲んだことによるものだろう。あれはかなり酸っぱくなっているはずだから。

 私は思わず小さく声を出してしまったが、エフェリアお姉様に口を塞がれた。まだ出て行くには早いということだろうか。


「うくっ……えほっ、えほっ!」

「あ、あれ……?」

「んんっ……」

「うくっ……な、なんですか、これは……一体、誰がこのようなことを……うくっ……」


 ウェリダンお兄様の反応は、意外なものだった。かなり苦しそうにうめき声をあげていて、なんだか心配になってくる。

 それはエフェリアお姉様も同じだったのか、私の口に当てた手が冷たくなっていた。恐らく、やり過ぎて血の気が引いているのだろう。

 そう思った直後、エフェリアお姉様はテーブルクロスをめくり私の手を引きながら飛び出していた。どうやら心配から、出て行くことを選んだようだ。


「ウェリダンお兄様、大丈夫……あれ?」

「おや、エフェリア、それからクラリアも、どうかしましたか?」


 すると目の前には、酸っぱくなったはずの紅茶を優雅に飲んでいるウェリダンお兄様がいた。

 その姿に、私達は顔を見合わせる。これは要するに、先程までの言葉は演技だったということなのだろうか。


「そのような所から出てくるなんていけませんね……淑女らしくない振る舞いです」

「あ、えっと、その……あははっ、ちょっと珍しい昆虫がいて……」

「驚きましたよ。テーブルクロスの下に影ができていたものですから」

「え? 嘘、見えてたの?」


 ウェリダンお兄様の指摘に、エフェリアお姉様は目を丸めていた。私の方も驚いている。外から丸わかりだとは思っていなかったからだ。


「おや、見えていたかを気にするなんて、まるで隠れていたかのようですね……ああ、ちなみに影なんてありませんよ? このテーブルクロスは厚いですからね」

「なっ……ウェリダンお兄様、騙したの?」

「先に騙したのはエフェリアの方でしょう? ふふっ……これに何を入れたのかは知りませんが、酸っぱくて飲めたものではないですよ?」


 ウェリダンお兄様は、そう言いながら紅茶を飲んでいた。

 今の言葉も先程の言葉も、エフェリアお姉様を欺くためのものだということなのだろう。

 やはりお兄様は、なんとも冷静なものであった。エフェリアお姉様を完全にやり込めてしまっている。


「しかし、こういったことをするのはよくありませんね。貴族というものにとって、飲み物に何かを入れられるということは非常に危険なことです」

「それはそうですけど……」

「お二人には少しお仕置きが必要ですね……」

「え? 私もですか?」

「ええ、止めなかったのですから、クラリアも同罪ですよ?」


 ウェリダンお兄様は、私の方にも視線を向けてきた。

 確かに、お兄様の言う通りではある。私もエフェリアお姉様を本気で止めようとはしていなかった。それは事実だ。

 しかし同時に、理不尽でもあった。とりあえずエフェリアお姉様には、その旨の視線を向けておく。もしかしたら助けてくれるかもしれないし。


「クラリア、これは仕方ないことだよね。うん、申し訳ないけれど……一緒に罰を受けよう」

「エフェリアお姉様……」


 エフェリアお姉様は、一緒に罰を受ける相手を望んでいるようだった。

 となると私も、覚悟を決めなければならない。一体ウェリダンお兄様から言い渡される罰とは、何なのだろうか。


「それでウェリダンお兄様、罰って……」

「そうですね……ああ、僕に頭を撫でられるというのはどうですか?」

「頭を撫でられる? それが罰、ですか?」


 ウェリダンお兄様の言葉に、私は少し驚いた。

 お兄様に頭を撫でられること、それが一体何の罰になるというのだろうか。

 もしかして、罰という体で戯れたいだけかもしれない。ウェリダンお兄様もなんだかんだ優しい方である。


「ウェリダンお兄様に、撫でられる……ええ、それは嫌なんですけど……」

「エフェリアお姉様……?」

「ふふっ、嫌だからこそ罰になるのですよ?」


 私と違って、エフェリアお姉様は頭を撫でられるのは嫌なようだ。

 ただ顔は赤くなっているし、本当に嫌がっているという感じではないような気もする。恥ずかしがっているということだろうか。

 それならちゃんと、罰ということになるのかもしれない。私は全然そんなことはないので、本当にこれで良いのかと思ってしまうが。


「まあ、そうですね。一分間としましょうか?」

「うわぁ、長過ぎですよ、それは……」

「そのくらいしないと、エフェリアは反省しないでしょうからね……おや?」


 笑いながら話しているウェリダンお兄様は、そこで他所へと視線を向けた。

 私とエフェリアお姉様は、その視線を追う。するとそこには、オルディアお兄様がいた。

 そういえばエフェリアお姉様と珍しく一緒ではなかったが、一体何をしていたのだろうか。


「ウェリダンお兄様、勉強をしていて、少しわからないことがあったんですけど……あれ?」

「オルディア、丁度良い所に……」

「エフェリア、それにクラリア……なるほど、何かしていた訳か、僕が勉強している間に……」


 オルディアお兄様は、一瞬で状況を理解していた。エフェリアお姉様とは双子なので、その考えなどは割と簡単にわかるということなのだろうか。


「ウェリダンお兄様、言っておきますが、今回の件に僕は関わっていませんからね?」

「おやおや、しかしオルディアは部屋を抜け出すエフェリアを見て見ぬ振りをしていたのではありませんか? 二人で勉強をしていたと、僕は思いますが……」

「いや、それは……」

「オルディアも撫でてあげましょうかね? ああ、これは罰ということですが……」

「撫でる? うわぁ……ウェリダンお兄様は、結構悪趣味ですね?  いや、というか僕が罰を受けるなんていくらなんでも理不尽ですよ」


 オルディアお兄様の方も、ウェリダンお兄様に撫でられるのは嫌なようだった。

 私にはまだわからないけれど、お兄様方の年齢になるとそうなるものなのだろうか。それとも私が単に甘えん坊とか。


「オルディア、私達は一心同体……ここは、一蓮托生だよ?」

「エフェリア、なんで選りにも選ってウェリダンお兄様に悪戯を……やり込められるに決まっているじゃないか」

「ふふっ……さて、そろそろ始めるとしましょうか」

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