奄美大島にて
大介の中空のスクリーンにオレンジの炎が浮び、やがて緑色の木々の隙間なく繁茂した熱帯の森林に変わる。
一昨年、壮太の住む奄美大島で過ごしたことが思い出された。
「だいすけ~奄美はいーだろ~」
当時、活動を開始したばかりの地域経済の活性化を目指したNPOを立ち上げたばかりで忙しい作業の合間を縫って大介をマングローブの森に車で連れてきてくれた時のことが思い出された。壮太特有の力みのない澄んだ声色が耳の奥に残っていた。
「奄美の緑は、燃える」
大介は一人ごちしてみる。
にっこり笑う壮太が応える。
「おう、やっさん、今時間大丈夫か?」
祝福の手紙を送った数日後、大介は壮太に電話を入れた。
「お~大介か、どうした~?」
どうもこうもないのだが、理不尽なことばかり起きる職場と気の抜けない柚絵との家庭生活に疲れたのであろうか。どうも壮太の声が聞きたくて堪らなくなったのだった。
「どうってこともねえんだけどよー」
「ははははっ」
壮太は酒でも入っているのか陽気に笑う。
「大介がわざわざ電話かけてくるんだから、大体悩みの一つや二つあるんだろ~?」
「いやーさすがやっさん」
「同僚教師に手を出して謹慎くらったとか~? この大スケベが~ はははっ」
まるで地平の果てまで見通せるような曇りのない明るさが壮太の良さだった、そんな風に改めて親友の長所を発見したのは、大介が教師として社会の曇りを感じたからだろうか。帰宅途中にあるコンビ二のイートイン・スペースでコーヒーを啜りながら大介は教職に就いてからのあれこれを壮太に語って聞かせた。
「だいすけ~、休み取って、奄美来~い」
「そんなことできるわけねえだろ」
大介は壮太の提案を一笑した。
「でも、おめえ、そんな根つめたら、気を病んじまうか、その優秀な先輩みてえに教師辞めてしまうかどっちかだ。今なら、そっちに比べてずっと暖かいし、身も心もほぐれるぞ。いーぞ、奄美は」
「いやいや、そう簡単に言うけど、そうはいかねえのが社会ってもんだろ」
翌週の月曜日の午後二時、大介は奄美行きの航空機の座席から海を見下ろしている。低い雲の合間から、群青色の海原が見える。高度が下がるにつれ奄美大島が近付いて来るのも分かる。群青色一色だった海の色にエメラルドグリーンが混じり始めるからだ。
着陸を告げるアナウンスの後、航空機の車輪が滑走路に着いた。
「奄美に来たー」
そう小さく叫ぶ大介だった。




