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麒麟の森  作者: 冨永 真一
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大介へ 南の島より


 携帯に着信があったようだ。気づかなかった。

画面には〈安川壮太〉、と出ている。

「やっさん・・・・・・」

大介はすぐに自転車を道の脇に寄せて、発信する。何度目かの呼び出し音で出た。


「だいすけか~」


少し間伸びした名前の呼び方は相変わらずだった。


「ああ、やっさん、ひさしぶり」


「さっきは出れんで悪かったなあ」大介の胸元が熱くなる。話したいことがたくさんある。


「おお、元気でやってるか?」


「おお、何とかなぁ。どうした? 電話なんて?」


「はっはっはっ」そうひとつ笑ってから爽太は「まぁ大介あせるな」


「なんや、やっさん、自分から電話してきといて、もったいぶるな」


酒でも呑んでいるのか壮太はやけに上機嫌だった。


「いよいよ、俺も結婚することになったぞ」


「本当か! おめでとー」


 それまで職場のことや柚絵のことでいっぱいだった大介の頭も心も、壮太の結婚の報告が喜びでいっぱいになった。

 大介はその晩、遠く奄美大島で暮らす壮太に宛てに手紙を書き始めた。

 


前略

 やっさん

 さっきお前から電話で結婚の報告を受けた。俺も何故だか不思議な高揚感に胸が躍っています。十二月の東京はそちら奄美よりも寒く、自転車のハンドルを握る左手とスマホを持つ右手はともに震えていましたが・・・・・・。いや、本当にめでたい!本当におめでとう、心から祝福しています。


 やっさん、お前と俺が初めて会ったのは、夏の帯広だったな。そこで大学生だった俺たちはジャガイモ農家の住み込みのアルバイトで集まった学生達の大勢の中の二人だった。しかし、そのうちによく話をするようになった。社会人になってからは、お前は経営コンサルタント会社、俺は貿易商社に勤めながら二人だけで会うようになった。働き始めた俺たちは休日もくたくたに疲れていたけどな。あはは。げっそりとまるで生気の抜けた顔をして東京駅や新橋駅でコーヒーを飲んでたっけ。あの頃は、お互い本当に闇雲に働いてくたくただったよな。


 その後、お前は政治家の道を選び、松竹政経塾へ。政経塾への入塾の報告を受けながら、俺は改めてやっさんから学生時代に帯広で聞いた言葉を思い出したんだ。「俺の夢は世界の紛争を解決することだ」って、お前、ちゃんと覚えてるだろうな?

 きっと今は生まれ故郷で、その土地をよくするためにお前なりにできることを懸命に模索してるんだろうと思う。そんな夢の道の途中でであった人と結婚できるなんて、最高じゃないか。


 大介のペンは止まりそうもなく、柚絵が寝静まっても寝室の間接照明を頼りに、安川壮太への祝福の手紙を綴っていた。


                つづく


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