柚絵と少女 1
「大介だったら分かるかな?」
テレビが詰まらなくなったのか、テレビの電源を落とし、柚絵が話しかけてきた。
「今日仕事だったの? なに?」
「コミセンで、ちょっと変わった子がいるの平日は毎日来るの」
「変わってるって、どんなふうに?」
「コミセンの人は障害だって言うんだけど」
「おれはそっちの方はあんましわかんねえな」
「他の子とは、ほとんど一緒に遊ばないの。一人で積み木をしたり、ノートに何か書いたりしてる。ジヘイショーとか職員の人が言ってた」
「自閉症か」
「何年生?」
「わかんないけど、四、五年生じゃないかな?」
大介は持ち帰ったテストの丸付けを始めた。帰ってきてまで子供の話など聞きたくなかったので、もう少し食休みをしたかったが、仕事を始めた。でたらめな漢字ばかりが並んでいる答案や、空欄ばかりの答案にも、もう萎えることはなくなった。
自分を責めるのは馬鹿らしい。
自ら学ばない子供が悪い、低学年までに基本的な学習態度を身に着けさせてこなかった教員が責を問われるべきだと考えるようにしたのだった。
「その子ね、いつも八時ぎりぎりまでいるのよ。おうちは共働きなのかな」
そんなこと知らねえよ、大介は口の中で呟いて丸付けのペンの音を大袈裟に響かせるように素早くペンを走らせた。
「話しかけても、なんの反応もないの。確かにこっちを見ているんだけどね。わたしのこと嫌いなのかな。時々怯えた顔をするから、話しかけたりしない方がいいのかなって」
視線はいじっているスマホに落としながら、なおも話題を続ける柚絵に嫌気がさした大介は、答案用紙を持って隣の部屋へ移動しようとして、思い直した。
ここでも、机はないが、腹ばいになればそこでも丸付けくらいはできる。仕方なく大介は、柚絵の仕事で出会った少女の話に耳を傾けることにした。
「その子ね、あまり話しかけないでっていうオーラを出してる気がして、話しかけないで少し離れてみているようにして観ているようにしているんだけどね」
「うん」大介は話を上の空にならないように、採点ミスをしないように柚絵の話にも、テスト用紙にも細心の注意を払いながら進めた。
つづく




