長身で敏腕
「茶畑先生」
教頭の三上が背中を少し丸めて近付いてくる。
185cmある長身の茶畑恭一を見上げる所まで来て上目遣いだ。教科書のコピーを取っている恭一に何か言おうとしている。
「教頭先生、その顔はまた児相からでしょ?」笑みを湛えて恭一は三上に返す。
「もう、敏腕コーディネーターは何でもお見通しですね」参ったなあと表情を崩して三上が頭を下げる。
「まあね、毎日のように教頭さんのそんな困り顔見ているからね」
「茶畑先生には本当に頭が」
「そういうのはいいから、手短に要点だけお願い。今子ども達教室で待たせているから」
恭一は小走りで教室への廊下を戻りながら、三上から聞いた話を整理している。放課後すぐに支援部のメンバーを招集してケース会議を開かなければならない。教室のドアを開けて中に一歩踏み入れて、気づいた。入る教室を間違えたのだ。ポカンとした子ども達と目が合う。隣の5―1の教室だ。「茶畑先生、またまちがえた」と呆れ顔が並ぶ。にっこりと笑顔だけを残し、そそくさと廊下に出て恭一は隣の自分の教室の札を今さら確かめる。5―2と書いてある。ドアを開ける。
「ほい」
「先生、あんがと」
前に出てきてコピーを受取ったのは、レオンという男の子だ。名前を聞いた時は、外国籍かハーフの男子を想像したが、全くの日本男児で拍子抜けした。白黒コピーのローマ字表を横目に見ながら、タブレットで作文を書いている。五年生はノートの代わりにタブレット端末を使って、考えたことや思ったことをまとめることが増えている。レオンもローマ字を覚えながら、自分の調べたことをまとめている。
四月当初は、授業に参加しないどころかランドセルも背負って来なかった。手ぶらで登校して、上履きも履かずに我が物顔で廊下を闊歩して教室に入ってきたと思えば、気が乗らないといつでも席をふらっと立ったかと思えば何もいわずに教室を出て廊下を走り去ってどこかえ消えてしまう。髪の毛も茶色く染めて目が隠れるほどに伸ばしていた。さきほど三上から相談があった案件は、二年生の男子児童の非虐待の疑いがあるとの旨だった。夏休み明けの身体測定の際に、養護教諭がレオンの身体に痣を見つけたということだった。それを聞いた三上が早々と児童相談所に通告したという。あまりに早急な対応に、恭一は内心呆れた。「まだ、何も確かめていないではないか。慌ててはことを仕損じる」そう思う気持ちをぐっとこらえて、笑みで返した。レオンも母親の厳しい折檻に怯えていた頃もあったと聞いている。恭一は「大丈夫、みんながんばっている。きっと上手く運ぶさ」と心の中で呟いた。
つづく




