先輩のお手並み拝見!
チャイムが鳴る前に大介は髙橋の教室に入って待っていた。自分のクラスは音楽専科の小林というベテラン教師の授業が入っている。
髙橋から休み時間から授業への入り方も見ておくように言われたからだ。教室にいた子供達はチャイムが鳴り終わる前に漢字の練習を始めた。黙々と漢字練習帳をどこの教室でもお決まりの日直の号令はない。外から帰ってきた子供達がばたばたと足音を立てて自分の席に座る。少し騒がしくなるが、髙橋は特に咎めることもなく、漢字を書いている子供達の姿勢や筆順などを指導して歩いている。三分も立たずに教室が静寂のもと張り詰めた空気になる。隣の教室から、教師の子供を叱る声が聞こえてくる。
ピピピッピピッ―
黒板に取り付けてあるタイマーが静寂を破った。
「教科書五五ページ」
子供達が一様に漢字の教材をしまい教科書を開いた。開いた子供から読み始める。徐々に教室が子供達の音読の声が充満していく。三十秒もしないうちに廊下にまで音読の声が響き渡るほどの大音量になっていく。
「そこまでー。次、たけのこ読みー」
髙橋の声が響く。あれほど大きく響いていた子供達の声もすぐに止まり、歓声が上がった。
「今日は十個」
髙橋の指示の意味が分からなかった大介は、後ろの列の子供の教科書を覗き込んだ。子供達は気に入った文に印を付けている。
「そろそろいこうか・・・・・・」
「ちょっと待ってー」
一人の真ん中あたりに座る男の子が言った。周りを短く刈り込んで上を茶色く染めている。いかにもやんちゃそうな教師を困らせそうな男子だった。
「それじゃあ、十秒待ちます。」
「いいぇーい」
「いち、にー、じゅう!」
教室が笑い声で包まれる。子供達が横を向いたり後ろを向いたりして笑顔を見せ合いながら口々に何か言っている。当の茶髪の男の子は、仰け反らせて笑っていた。
髙橋のそれではーの一言で、子供達は教科書を持つ。
「はじめ!」
数名の子供達が立ち上がって音読をする。その子達が座ると間髪入れずに、また違う子達が立ち上がって読み始めた。一文ずつ交代で子供達が竹の子のように立ち上がって音読が進んでいく。どの子も生き生きとした表情で呼んでいることが背中越しに大介にも分かった。
大介は、髙橋が自分を見てにっこりと笑ったのが分かった。




