第32話 王立陸軍の暴走
機巧暦2139年12月・イギリス連合王国・首相官邸
「首相!! 首相は居られますか!!」
「なんだ? 騒がしい」
「首相、緊急事態です!!」
休日のある日、首相官邸の執務室に秘書が飛び込んできた。
「なんだ緊急事態とは」
「王立陸軍が勝手にドイツ帝国のキールを壊滅させ、西プロイセンに侵攻しているとのことです!!」
「はぁ!? だ、誰の命でそんなことを・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
首相のアルバート=ヨークは頓狂な声を上げた。
「各大臣を集めろ。直ぐに緊急会議を行う。急げ!!」
「わ、わかりました」
緊急会議ーーーー
「さてと各大臣、休日に呼び出してしまい申し訳ない」
「やはり王立陸軍のことかな」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「フン」
首相、外務卿、財務卿、海軍卿、陸軍卿、統帥卿が首相官邸の一室に集まった。
「陸軍卿、今回の騒動の件は貴方が発端か?」
「いきなり私を犯人扱いとは・・・・・・・・統帥卿や海軍卿の可能性もあるのに」
「今回の件は陸軍中将のアルフレート=フォン=ドルシアが起こしたことだ。つまり陸軍卿が何かドルシア中将に命を下したのではないかと思ってね」
「首相、先に疑われるのは嫌なので申し上げますが統帥卿や海軍卿も今回の件は無関係にございます。のう海軍卿」
「うむ」
統帥卿や海軍卿は関与を否定した。外務卿や財務卿はもちろん有り得ない。となるとやはり犯人は陸軍卿しかいなかった・・・・・・・
「陸軍卿、やっぱり貴方ですよね? 今回の騒動の渦中は・・・・・・」
「まあそうだ。女王陛下や議会を無視して軍を動かしたのは私です」
「ドイツ帝国との講和交渉が纏まろうとしているときに・・・・・・な、なぜそのようなことを・・・・・・・・・!!」
ヨークは困り果てた様子でそう言う。
「陸軍は国民の要望に応えたまでです。ドイツ=フランス戦争で北フランス、西フランスを支援した結果、財政難となり国民は食うや食わずの生活になっています」
「つまり他国への侵略は自国の財政難を回復させるため・・・・・・ということですか」
「な、なぜ他国への侵略行為が自国を救うと思ったのですか!?」
財務卿が陸軍卿にそう言う。
「新たに植民地をと思いまして・・・・・・・・大陸に植民地があれば直ぐに必要な金や物質は調達できます。南方大陸から輸送するよりも安全です。誰にも邪魔されずに安心して国を富ませる事ができます。さらに軍需を富ませる事で不安定ながらの小銭程度の利益が得られます」
「た、確かに・・・・・・・・」
「うむ」
「ちょっ!? 統帥卿も海軍卿も何を納得しているのですか!? 植民地のお考えはいいですが、このまま拡大を続ければ帝国との戦争になりかねないのですよ? 戦争になった場合、連合王国は経済軍事共に疲弊してしまいす!!」
首相が待ったと言わんばかりにそう言う。
「奇襲によって西プロイセンを占領し、帝国との本戦に備えるための前線基地を確保すれば本国からの仕送りが無くともやっていけます!」
「こんなの滅茶苦茶だ!! 官僚として言わしてもらいますが、敗戦した場合どうなさるおつもりですか? あと勝算はあるんですか?」
陸軍卿の言葉に財務卿がそう叫ぶ。
「やってみなければわからない・・・・・と言うのが陸軍の考えだ」
「ハァ・・・・・・・・」
「海軍としては陸軍の考えは賛成だ。私も経済的に行き詰まった場合は戦争しかないと考えていたのだよ」
「統帥部も賛成しよう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっ・・・・・・・」
統帥部、海軍、が陸軍に賛同してしまった。首相や財務卿、外務卿は反対することが出来なかった・・・・・もはや官僚より実力のある軍部が発言力を持っていた。そしてその軍部が暴走しようとしていた・・・・・・・・




