閑話4話 主人公めざして?
「おーい早く球回せ」
「もっとプッシュかけろぉ」
「足止めんな!!」
俺の周りでは我がチーム四能FCと八神FCとのサッカーの試合が続いている。
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「お疲れ様、九乃衛君」
「あぁ有難う、佐藤さん…………。」
あれ……おかしいな、いや試合に負けたのはシナリオ通りなので問題では無い。今日の試合にある人物が居ないのが問題だ。
今日この世界、スクキミの悪役の政常と応援に来ているヒロインの一人、三井彩香ちゃんと運命の出会いをするはずなんだけどな…………。シナリオが変わって来ているのだろうか。いや一応皆この世界を生きている訳だから、きっと風邪の一つも引くだろう。
一瞬、何か嫌な予感がする、背中を冷や汗が落ちる……いや……まさかな、俺は神に頼んで、この世界の主人公・九乃衛英雄に転生したはずなんだ!世界は、俺を中心に回っていくはずだ!
…………仕方がない、まだ接触しないつもりだったが、兄の政臣さんに聞いてみるかな……正直悩む所だ。ゲーム世界に転生してのアドバンテージは原作知識のみ、だがそれは俺の諸刃の刃でもある。少しでもシナリオと違う事をすればバタフライエフェクトが起き、自分の知らない話に変わる可能性が出てくる。そうなれば原作知識なんて役に立たないからだ。故にあまり派手な行動は出来ない。
これまた良く設定にある、修正力なんて有るかないものに縋る事も出来ない。コンテニューは出来ないのだから。
シナリオが明らかにおかしくなった場合のみ独自の介入をしよう……だから少しだけだ少しだけ、ご家族は~とかお友達は~とか、世間話的に自然な感じに聞きに行こう。
(がこの時、すでにこの世界がシナリオという名のレールから外れ、独自のレールを走っていることは、まだ俺は知らなかった。)
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俺はその後、高校に進学するまで、少しずつでは有るが登場人物の情報収集に努めた。当家は没落しており名門学校の八神高校のくそ高い入学金が払えないのだ。なのでシナリオではスポーツ推薦と学校推薦で高校からゲームの舞台である八神高校に入学するのだ。
よって幼馴染みでヒロインの一人、七瀬弥生以外の人物、八神系の学校に通う他のヒロイン達・サブキャラには出会えないし、中々情報も得られないのだ。
またシナリオ上、俺はサッカーの腕、いや足が……ともかくサッカーを上手くなくてはいけない。そうしなければスポーツ推薦で入学できないし、一之宮正臣さんと知り合えないし、なにより彩香ルートに入った時に政常に勝てないからだ。
勝てないと別に学校から追放はされないが、「あなたは3年間、平穏な高校生活を送りました。」なんて悲しいテロップが流れてしまう……ゲームでいうバットエンディングだ……。死ぬことは無いだろうが、せっかく神に一つだけ願いを聞いてもらって、大ファンのスクキミに転生出来たのに、彼女一人も作れず高校生活を終えるなんて、俺からしたら生き地獄みたいなものだ。
だから俺はサッカーの練習に手を抜けず、時間をかけての情報収集が出来なかった。また俺が調べているものが個人情報であったのも、情報が入りにくい理由だ。特に誘拐等を防ぐため名家の子供の情報はガードが堅い。だから俺が収集出来たのは友達からの噂がメインだ。
そしてヒロインの情報収集と共にライバルキャラである一之宮政常の情報も収集した。以前シナリオと違う行動をしているキャラで関心が高かったためだ。
で奴の情報は全て噂の範疇なのだが、渾名が八神高校の皇帝とか、絶対に怒らしてはいけない人物NO1とか、眠れる獅子とか、最強のベンチウォーマとか、流石に悪役だ。小学校時代から悪事を働き、周囲から恐れられているのだろうか…………
しかし最後のベンチウォーマーって何だ?というか何で野球部なんだよ。つーか名前も違うし……別人か……?いや他に一之宮家の子供はいないし……かなり前に政臣さんにも確認もしている。ということはこれから改名する……のか……?
それともシナリオの変化の原因は奴か?それならば早く対処しなくては……だけどあちらは名門、こちらは没落名門……接触すら出来ないだろう。それに学校も違うし、サッカー部でもないから試合でも会わない、高校まで大人しく待つしかないか…………
原作知識といっても殆どがゲームスタートする高校入学以降のものだ。それ以前は殆どが回想やテロップで少し流れる程度で情報は極めて少ない……ゲーム開発陣なら裏設定とか分かるだろうが、一ユーザーの俺には分からない。
もはやこの世界は、シナリオから乖離しているのだろうか……一番好きなキャラの彩香ちゃんとも結局出会えなかったしな…………いや今はサッカーの練習を増やし、情報も多く入るよう交友関係を増やさなくては……主人公になるもの大変だ。バトル物のじゃなくて良かった。あぁ早くヒロインたちに会いたいよ。
こうして高校入学まで俺の苦難が続くことになる。
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だから次郎に、初めて出会った時の俺の第一声が
「なんでお前は、サッカー部じゃないんだよ!?」
になったのは仕方のないことだ……




