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『女神と愛の賛歌』――魔法使いが謳う人間とロボットの愛の物語―――  作者: あおぞら えす
第二章 世界線B

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第九話 神々と命の女神 その三

 エルディラは、ジルドの心がミルレを追いかけているのだと勘違いしていた。

 誰かが正せることはできなかった。それは、エルディラの中にあるだけで、誰も何も知り得ないこと。

 人はそれをすれ違いだと言う。


――ジルドの感情は今も彼女の心にある。それが辛い。

 ジルドはエルディラの勘違いに気づくことができない。ただ、彼女の憂いをどうすれば解けるか考えた。

――ラルファさんに聞いてみよう。

 ジルドはそう考えて、エルディラに伝える。

「喫茶店でラルファさんと話しをしてくるよ。エルディラはどうする?」

 エルディラは、言葉を失った。もしかしたら、ジルドはラルファに直談判をして、ミルレに想いを告げるのかも知れない。

「急に、どうして?」

「ちょっと話しがしたいんだ。」

 エルディラは口ごもった。ジルドはエルディラの頬を優しく撫でた。

「遅くはならないよ。君の為に戻ってくるから。」

 ジルドの言葉が、エルディラには強い不安しか与えなかった。

「わ、分かったわ。」

 エルディラは国王の家で待つよりも、彼女が己の心に封じた気持ちを探して、滅びた王城を歩いた。

 静かで、風だけが吹き、周囲の朽ちた全てが、エルディラの心のようだった。

 人が造ったロボットは人に勝てない。それは愛も同じ。

 エルディラの頬を伝うものが、嘆きと悲しみ、そして憂う乙女の心ならば、彼女は身体ではなく、心で、魂で。

 人間へと変化したのだろう。ロボットに持ち得なかった感情が宿ったとき、奇跡は起きる。

――人間になれたなら、私は彼の横に立てるのだろうか?

 溢れる感情が彼女の心を吹き荒ぶ。

――どうして、こんなにも辛く悲しいのに、愛は温かく、私をなだめるの?

 朽ちた王城には命を実らす木々が根を張り、朽ちているのに、そこにはたくさんの想いが隠れている。

――光と闇があるから、天はあり、愛は人の心だけに実るのではない。どうか。どうか天の空から見ているものたちよ。私に人の姿を。人間になりたい!




 神々は、女神ラフレアのもとへ集った。

 女神ラフレアには、エンドスとフローリアの言葉に首を振った。

「ロボットが命をもたらす肉体にさせるとは、神の領域から逸脱している。それをあえて行えと?」

 ラフレアは二神の頭がおかしくなったと思った。けれども、二人は言い募る。

「我々は愚かな過ちをしたのでしょう。そして、人間も。しかし、我らのような存在がいるから、救いはある。」

エンドスの言葉がラフレアの心に少しも届かない。

「神が万能だという愚かな考えはあってはならない。」

 ラフレアは突き放す。

「では、ラフレア。貴方は愛を探し、愛を見つけたものたちを無視されるというのですか?」

「・・・・・・。」

 人間の感情が、ロボットにもある。それは否定できない。

「それが、全てです。答えが転がっている。貴方の目の前にも。」

 ラフレアは口を噤み、愛を語らう二人がただのロボットではないと、理解した。愛が花開く時、二人には祝福が訪れる。

 ロボットだけではない。かの国は過ちを乗り越えた。周辺国には今も怒りを覚えている者はいるだろう。

 どう言われても受け止め続けた彼らと、ロボット達の生きる心があれば、未来は大きく変わる。

――わたしがこのまま黙っていたとして、彼らはきっと変わらず幸せに生きるだろう。しかし。

 ラフレアは、想う。人間になりたいと願う子らは、その望みの通りより、美しく、より新たな魂を宿した『人間』になれるだろう。

 はじめに造った人間が、形を変えて暴力を行った。では、彼らは何を行うだろう。

――愛から生まれた人間は、愛のために羽ばたくだろう。我々が知らない、愛を。

 ラフレアは、微笑んだ。

「これは、人間の望みではない。ロボット達の望み。エンドスよ。わたしはお前の行動が正しいと最後まで思っていたよ。正しいのはフローリアだ。命とは摩訶不思議で、生きるものたちに勇気も元気も与える。子らに与えよう。その身体を。」

 ラフレアは、息吹を風に乗せて、ゼノロワ王国に流した。

 吹く風は、人々を心から洗い、ロボットはその献身的な生態から解放され、愛を知った人間になる。

 夢は、叶えられる。夢は、夢のまま終わるより、その願いが終わらないよう、受け継ぎ未来にその火を灯し続ける。



皇帝カガーリィはゼノロワ王国に入国した。ディザーは出迎え、目の前に広がる。多くの人々に目を移した。人造人間がいない。

「ディザーよ。私は夢を見ているのか?」

「いいえ、陛下。私たちは夢から覚めたのです。」

 人々の関係は、変わってはいない。

 人造人間に恋をしていた少女は、人間になった男性と恋の駆け引きをしている。

 人造人間だった女性と人間の男性に少しだけ恋の予兆が起きている。


 人々は、自分たちと共に生きていた存在を、変わらずに幸せを享受する関係だと捉えていた。

 ディザーは変わった王国と、全ての民と共にこの王国で一から始めると語った。

「それは、素晴らしい。私も助力していこう。この国に。新たな想いを掴んだ、新たな国民の願いのために。」


 もう、この国を蔑む理由はない。

 王国に溢れる愛は、温かく。そして負の遺産だった存在は消え、周辺国にも理解を示すものたちが増えた。

 王はその後、彼も元人造人間の女性と結婚。子供が産まれ、後に賢王と呼ばれる、この国最も有名な王様になった。

 彼は語った。

『王とは王でいる必要の無い存在で良い。ただ、人を愛し、尽くせるか。誰かのため。自分のための王は争うことを好む傾向があるからね。人が誰かの止めに動くのは、心を持って、その人に愛をもっているから。それが王になったきっかけもね。』

 国は衰退するどころか、発展していく。

 誰もが羨む国になっても、彼らは変わらず誰かに手を差し伸べた。

 人にも人形にもロボットにも。愛は宿る。誰かのためにその光を与え続ける。



 エルディラは、祈った。風が吹いてくる。溢れる命の力が、木々を活性化させる。

 エルディラは、身体が温かくなり、心臓の音を聞いた気がした。

 耳に聞こえる音は、どんな音で、流れる気持ちとリンクする。

 瞳にいつもと違う色がいくつも見えてくる。

「光って、一つじゃないのね。」

 エルディラは笑った。

頬をつねった。いつもと違う柔らかくて、温かい。

「食べ物かしら?」

 小さく笑う。求めていたものが手にできた時の感情はなんとも言えない。

「どうしてかしら? 私、人間だわ!」

 エルディラと同じようにこの国は歓声に湧いていた。

 唐突に訪れたその奇跡。

 誰が何のためにその力を振るったか。

 エルディラは空を見上げた。

「ありがとうございます。」

 お礼と深いお辞儀。彼女は誰であろうときっと、その願いを叶えてくれる存在は気高いのだと思った。


「エルディラ!」

 深夜近く。王城の跡地でまだ空を見上げていたエルディラ。

 ジルドが焦るようにやってきた。

「ジルド。話しは・・・・・・。」

「エルディラ、結婚しよう!」

 ジルドは、きっとミルレと話しをしたはず。なのに。

「ジルド? 貴方は、ミルレさんと・・・・・・。」

「違うよ、エルディラ。俺ははじめから、君しか見ていなかった。君以外に見る人はいなかった。」

 ジルドはしっかりと彼女の手を握りしめた。冷えた彼女の手を包み、己の着ていたジャケットを着せる。

「ジルド・・・・・・。」

「いいかい? 君以外は見えていないのに、ラルファさんが勘違いして。そのおかげでこうして俺たちは夫婦になれる。」

 ジルドは、エルディラの返事を考えていないのだろう。

「ふふ・・・・・・。ジルド、私はまだ返事をしていないのよ? 夫婦の前に、ちゃんと言わせて。」

 ジルドは少しだけ恥ずかしそうにする。

 エルディラはそっと、ジルドの額に自分の額をあて、

「愛しているわ、ジルド。結婚しましょう。」

と、優しく言った。

 この後のことを、語るとすると、愛が乗り越えた全ての物語にあるように、ずっと幸せに暮らしましたというありがちな終り方だろう。


 ゼノロワ王国の歴史が残った世界線であり、ヒルワンが生まれる前の世界線の王国は、歴史書に乗るにはとても短い内容だろう。

 ただし、この世界線にはもう一つの幸せと不幸せがある。

 それが、女神ヒルワンの出生。

 歴史書に遺す必要のある、重要な内容である。



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