第十話 神々と命の女神 その四
神エンドスと女神フローリアの子、女神ヒルワン。
神々の子は、愛という形で生まれるわけでない。神々が作り出すだけだ。
女神ヒルワンは、生まれた当初は確かに美しく、誰が見てもフローリアのように愛に目覚めると確信していた。
しかし、愛は生まれず、己だけに自己陶酔する女神だった。
女神ヒルワンには人間への価値を見いだせるような才能は無く、数多の作り主が一夜で創り出せる『万物』にかける女神だった。
引く手あまたの美貌はあっても、振り返らせるほどの中身がなく、誰が見ても欠陥品。
地上にあったロボットの方が輝きに満ちていたし、希望を見つけられ程に人間らしさがあった。
女神の中でも美しさしかないヒルワンは、落ちぶれた女神。
生まれてすぐにエンドスもフローリアも彼女に飽きた。
求めた存在ではない彼女は、やがて地上に目を移した。心の闇を埋めるために。
女神が堕ちた先。
ゼノロワに遺された黒の塔が新たな役割を担い、復活した。
人間が、生きる人形達の配下に成り下がる未来。
神々と生きる人形達が争い、天界の先を奪おうと黒い塔は背を伸ばしていく。
女神ヒルワンはその美しき笑みを、多くの骸が地上に広がる塔の上から湛えた。
世界が闇に覆われ、崩れた国の玉座は、破壊され、ただの木片になっている。
人間たちは、闇の中で恐れをなし、凍える手を愛する者と温めあった。
闇の中で希望があるとしたなら、それは、ジルドとエルディラの子孫だけ。
命のたすきを繋ぎ、手にした灯火は、彼らの子供達が受け継ぐ命の『塊』。放たれたはじめの矢を、子供達はきちんと手にして、それに火をつけた。
燃えさかる命と、魂のない生きる人形。神々が救い出したのであれば、人間となった魂はその救いに応えるために、立ち上がった。
――――――――――――――――
ハーナンとアイゼは幼なじみであり、特別な関係。お互いが必要だから、そばにいる。
二人は英雄と言われ、ハーナンの魔法とアイゼの剣には、神殺しの力が宿ったと言われている。
人々が聞くゼノロワ王国の歴史は、この二人が主な主役として描かれ、神々が造り出した世界線はいくつもの人を生み出し、未来は変化し続ける。
終りのない分岐がやがては一つに収束される。
全ての世界線は、造られた全ての物語よりも、現代を生きる人間の心の片隅置かれる。今の時代、魔法も剣も神すらも、ファンタジーにしかいないのに、描かれた物語を愉しむことで、過去の記憶を忘れ去ろうとする。
あったことも、無かったことも、有耶無耶に消し、描いた全てが白紙になると勘違いしている。
一本の本の中身ですら、面白くないか、面白いかで終わらせていく。
例えばそこに、花があるとしよう。
失われた物語が広がり、その花の意味を思い出すだろう。
ゼノロワの歴史はただの小さな花から始まった。小鳥の鳴く、幸せな王国の歴史。争いが、起こることは幾度もあって、その度に人間は知恵と勇気と愛で戦った。
消した存在が、また戻ってくるとは考えもしない。
もう一度、言わせて欲しい。
二つの世界線は、存在しない。たった一つの世界の物語が今まで語られてきた。
終りはあった。けれど、物語はもう一度繰り返された。
どちらが先か、なんて考える必要も無い。
どちらでも同じだからだ。
結果的に幸せをつかみ取るロボット達が、同じ苦しみをもう一度くり貸し、新たな幸せに辿り着く。
そして。
人間の過ちの向こうに、神々もいた。
彼らが生み出した『女神ヒルワン』は、ただの女神ではなく、繰り返し繰り返す力を持つ女神だった。
美しさの中に備わった隠れた力。
時を巻き戻し、己の好んだ世界へと作り替える。
ゼノロワ王国の歴史は終わらない。そして、描かれることなく書き直され、執筆されることなく、新たな世界が生まれる。
終りのない世界に、生まれたハーナンとアイゼ。
彼らもまた、女神の手の中で踊っていた。踊っていたはず、だった。
ハーナンは魔法を扱える。彼女は心の優しい女性。人々がアイゼと合わない彼女を馬鹿にし、アイゼを哀れんだ。
『魔法』はハーナンの持つ力であり、彼女の手にしたそれは、過去も現在も未来にもない力。神々も持たないもの。
一方でアイゼは、友人を大切にし、やがてはハーナンの持つ力を知り、己の力に気づく。やがて、二人の運命を悟る。
二人の力は、完璧ではない。
花の名を思い出して欲しい。この国が建国されたその日の光景を。
ハーナンは言った。
「私の魔法は、女神と似ている。でも。私は過去に戻ることしか出来ない。未来を変えるのは、アイゼ、貴方よ。」
書き換えられた世界の『過去』へ。過去に戻れば、ハーナンはその力は尽き、未来はアイゼの剣が変えるのだという。
「・・・・・・。俺たちは過去も未来も一つにしないと。」
アイゼはその剣の使い方を知っている。
「愛は確かに生まれた。けれども、真実は消えた。」
「えぇ。未来に貴方がいるから、私は魔法を使える。私が持つ魔法が貴方の為にあったのね。」
ハーナンは魔法を唱えた。
「『サファルーン、愛の種を』」
新たな世界が、いいや、最後に語られる真実のゼノロワの世界史を見に行こう。
愛は必ずあった。その出発した場所は、ゼノロワ王国に咲いた一輪の花。
奏でられた物語を、貴方の心の扉を開いて待っていて欲しい。
私は、彼らの子孫であり、貴方たちが今から見る全てが、私の知る全ての物語。
いくつもの『巻き戻り』があったその先で、たった一つの愛が語られる。
この先は、心して欲しい。
私が知りうる全ての物語よりも、息づく人々の呼吸と、過去に起きた悲惨な出来事。
王国が、何故滅びかけ、何故、人々は立ち上がり、その魂の救済を行ったのか。
ロボットが、人間になりたいと願い、それを叶えるために、『神』ではない存在に手を委ねたのか。
神が人に近づかない世界が正解であったと、私は語る。
私は、今、彼らの子孫としてはっきり言える。
人間は、人間という存在を離れてはいけない。その手が作った存在が求めたことを『神』という不確かな存在ではなく、同じ人間の血を継ぐ、『魔法使い』に頼るべきだったのだ。
魔法使いがいる世界で本当に良かったと、心から思う。
魔法使いという存在が、人間であること。人間の力が、神をも凌駕したこと。
それは誇大な妄想ではない。
魔法が生き、人間と神々が争った。世界がいくつもの世界線に別れ、女神ヒルワンの暴挙が、神々すらも飲み込んだ。
人間が作ったロボット達が愛を持ったことこそが『奇跡』で、争いがやがて一つの願いのために収束した。
では改めて。
本当のゼノロワ王国の歴史を綴っていこう――。




