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『女神と愛の賛歌』――魔法使いが謳う人間とロボットの愛の物語―――  作者: あおぞら えす
第二章 世界線B

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第八話 神々と命の女神 その二

 二人は国王ディザーと謁見した。仰々しさはなく、王城はもう朽ちかけている家だったし、王も二人の話しを知っていた。

「・・・・・・。なぁ、二人とも。その愛を盗むって、面白そうだな。」

 エルディラが話しをすると、ディザーはなんとなくにやけた。二人はロボット。けれども、愛を語る。

――初心な若い頃の人間がすること。そして、それは誰にだって訪れた。この二人は、ロボット。だから? 俺はそこに未来を感じる。ロボットがただのロボットだと勝手に決めるな。俺は信じる。生きると決めたロボット達を。

「一緒に俺も手を貸そう。お前達が望むようにしてみよう。」

 ディザーはこの時、ようやく己の願望と未来を開いたように感じた。開けていく世界。己が知らない未来。

――どうして人々はロボットを人間のようにさせなかったんだ? 戦争でももっと役に立てるように人間味を持たせた方が楽だったはずだ。価値のないロボットがこんなにも生まれたのは、価値のないロボットしか造れなかったのか?

 過去に何があったのか。ディザーはずっと覆い隠していたある施設を思い出した。

――黒の塔。あそこには機密情報がある。それなのに、国王もそれ以外も入れない。何かがある。

 ディザーは野心家ではない。恵まれない今の現状を打開したいとは考えていた。周辺国から蔑まされ、己の立ち位置が明確なこの国。

 戦争に負け、見放され、ロボットという脅威の後片付けだけを任された。国々が発展する中で、この国だけが取り残され、誰かに縋ることさえできない。

――行った罰を背負った。背負い続けた。どうして、最後の最後でこんなにもおかしな感情が生まれたのだ?――

 二人のロボットが、感情を持ち、愛に気づいた。

 その感情が、ディザーの心を揺すぶり、問いかけている。

――命は、必ず平等だ。俺のようなおじさんも若い娘や老いた老人も。そして、彼らのようなただ死んでいくだけのために動くロボット達も。

 ディザーは考えた。

――きっと答えはある。きっと何かが彼らのような存在を生み出した。ずっと迷路の中にいたこの国の人々が明るい未来を見るために。人に感情があり、ロボットに感情がないと言った人は今目の前で恋する二人を否定するのか?

 ディザーは二人の温かな感情を恋と定義した。見れば甘く仄かな感情を人間であるディザーは感じて、それが言葉にすれば恋であり、愛を育む心だと分かる。

 人間が持ち得た愛は、神が封じたはずのロボットに宿った。


 神エンドスは思考した。

――手にすることは出来ないものたち。それを手にした理由。私が委ねた女神フローリアならば知っているだろうか?

 エンドスは、愛を司る女神フローリアが住む、『一息の泉』へと赴いた。

 美しい神々が穏やかな風を愛でながら、詩を歌う。

 青い鳥たちが羽ばたき、女神フローリアの肩に止まる。女神と青い鳥たちは優しい声で詩を歌っていた。

「フローリア。」

神エンドスがその美しき女性に声をかける。泉に集った神々は不思議そうに二人を見つめる。

「何か?」

 フローリアは穏やかな声で答える。

「地上の紛い物に異変が起きている。」

エンドスは淡々と伝える。

「人の形をした無形のもの。感情をコントロールするようにお話しをされた存在?」

 フローリアは即座に理解する。

「あぁ。彼らに『愛』を教えてはならないと言ったはず。」

 エンドスは少しも表情を変えずに言う。

「えぇ、確かに。わたくしは感情のコントロールを行いました。それが百年続けば良い方かと。」

 エンドスはフローリアの言葉に少しだけ眉間に皺が寄る。

「それは、人の感情を手にする可能性を消さなかったと?」

 フローリアはあくまで穏やかに言う。

「えぇ。勿論。神エンドス。貴方は多少傲慢だとお気づきになるべきです。神が、勝手に人の所業に介入して、それも感情をコントロール? 己が神であることを忘れてはなりません。」

 フローリアの言葉に、エンドスは返す言葉が無かった。神が人の作った物に手を出すことは度が過ぎている。

 フローリアはそう諫めた。

「では、フローリアよ。現在感情に目覚めたあれらをどうする気だ?」

 エンドスは、人とロボットが愛を育むこと、そして、ロボット達が愛を育み子を授かることに奇異を感じていた。

 神の領域から外れ、どのような未来があるというのだろう。

「エンドスよ。わたくしたち神は、天界から人々の生き様を見るだけで留めていようとお話ししました。心配されるのなら、はじめから彼らのその技術を奪えば良かった。」

 エンドスはフローリアの言葉を理解はした。けれど、納得はしなかった。

 愛が生まれたならば、彼らをロボットだと言いたくは無かった。

エンドスには『愛』という感情をとても大切にしていた。女神フローリアもきっと同じだと思い、だから彼女にお願いしたのだ。

――愛は人が産まれた時から持っている心であり魂。我々神がつくった存在が勝手に愛を手にした。では、あのロボット達は? 人が造った物だ。けれども、彼らを人へと変える方法など持ってはいない。わたしは、あの生き物たちをどうすれば良いのだ? 息をした、人の為に動いた、そして愛を生み出した。

 エンドスはフローリアを見つめた。フローリアは微笑んだ。そして言った。

「愛が人間の中にだけある、というのはわたくしたち神がつくりだした想像。人が造った物でも、生きたいという感情があるのなら、そこに必ず愛はあるのです。」

 フローリアは愛を深く知っている。彼女は愛を奪えと言ったエンドスに少なからず怒りを覚えていた。彼女の怒りを、エンドスは気づきもせず、己の求めた人の形と人形の形を別けようとした。

 フローリアの言葉に、エンドスはようやく気づいた。

――浅はかだった。生きとし生ける者達を、わたしは誤った見方をしたのか。息をしたのなら、それはもう生き物。愛を消せと言ったことそのものが、わたしの神としての傲慢さだった。あんなにも美しいものを、わたしはただ消せと。

 エルディラとジルドの恋は、神々がもたらしたものだろうか?

 生きているという事実が、自然と感情になり、それを二人は事実として受け止めた。

――いずれは、生きる形となる予定だった。フローリアはそれをあるべき命の形と言った。愛は許されない。そんな世界にわたしはしようとした。

 眩しい世界が今その場所に見えた。二人の恋が成就する。

――わたしは、神として己の罪を認め、彼らの願いを叶えるために、動こう。命の女神ラフレアに請い願い、彼らに身体を――

「エンドス。わたくしも一緒に参ります。ラフレア様に頼みましょう。」

 エンドスの心を読み、フローリアは動いた。

「わたくしもまた、愛が宿る子達を見捨てることは出来ない。」

 二人の神をその場の神々は眺めるだけではなく、彼らもまた流れる風を感じ、ついて行く。大勢の神々が揃って動くことなどない。

 神々が集まり、声を上げる。

『命のため、生まれる感情のため・・・・・・』

 神々にが、人をつくった自負があった。その人がつくった存在を否定したこと。

 罪ではない。確かにその方が、危険がなかった。

 神は新たな敵が生まれることを拒んだだけ。

 しかし。

 新たな個体は、愛という最も人を思わせる感情を持ち、生きている。

 鼓動は似て非なるものだった。けれど、感情は同じだった。

 人ではないから感情を与えない。それは、全ての存在に同じ事を出来るかという問いでもあった。

 神は万能。そう言える存在はあまりにも多くはない。

 神は魔法を使える。だから、人よりも上の存在。

 それだけだ。

 感情を生み出す装置をつくれない。人に感情が生まれたとき、神は喜んだ。

「わたくしの願いも、エンドスの心と同じ。そうではありませんか?」

 神々は命の女神ラフレアの元へと歩いた。



 エルディラは、ジルドに恋をしていた。ジルドの心が分からず、それでも彼の幸せを願った。

 与えられた言葉も、行動も、エルディラは喜んだし、その度に彼の心が今もミルレにあるのだと考えた。

――幸せとは、とても遠くにあるのだろう。こんなにも苦しいのに、私は彼を支えたいと思うだけ。

 二人の行き違いが、少しずつ動くたくさんの思惑の中で、小さな恋から愛の吐息へと変化していく。二人は知らない。

 神々の想いや、二人を見守るディザー国王の最後の足掻き。

 想いが人々を動かし、やがては滅ぶはずの国を助ける。

 愛は破滅を望まない。歩き出した恋心が、心揺さぶり周辺国の人間たちの感情をも変えていく。


 ローリエンド帝国皇帝カガーリィ・エンドル。彼は、ゼノロワ王国国王から、一通の知らせを受ける。

 人々から嫌われた王国の王が、わざわざ送ってきたそれを皇帝は摩訶不思議だと思いつつも読んだ。

「今すぐ行かねば!」

 皇帝は、内容も最後まで読むことなく、その知らせを懐に忍ばせ、満面の笑みで動き出した。


 皇帝の心を動かしたその手紙を、後の人々は語る。

 愛が灯した火だと。

 迷路のような路を歩いたゼノロワの民が、心の無いロボットと生活し、与え与えられたから手にした灯火。

 小さい火も大きな炎となれば、それで食事を作ることが出来る。暖めたスープを皆に与えられる。

 愛は誰かが見つけるのではない。育まれていくものだ。交流が与えた力はきっと大きい。

 だからかもしれない。この時、多くの人々はゼノロワの民を魔法使いのようだと例えた。彼らの優しさは、魔法のように、相手を包んだのだと。

 王国の歴史には魔法が存在すると書かれているが、それが何を意味したのかは、書かれない。歴史が埋もれていく理由かも知れない。


 皇帝は愛する意味を知ったロボットの愛を応援するため、かの王国へと向かった――。



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