↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『女神と愛の賛歌』――魔法使いが謳う人間とロボットの愛の物語―――  作者: あおぞら えす
第三章 ゼノロワ王国の今日と明日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/19

第十七話 時と愛と貴方と その七

 エンドスは今まさに、ラフレアが人間に剣を振るおうとしたその瞬間に、その剣を弾いて、人間を守った。

 彼の背に傷が出来た。

 彼は振り返った。

 ラフレアの血みなぎる表情と、エンドスの酷く冷静な表情がその時、その瞬間の『争い』のターニングポイントになった。

 幾重にも重なったループの先で、ハーナンが気づいた。

 エンドスの顔は、アイゼと同じように冷静そのもの。

 視線の先には。




 女神ヒルワンが未来へ辿り着いた。

 目の前で待ち構えていたのは、大勢の黒い服を身に纏った人々と、ただ一人、大剣を構える少年。

 顔が黒焦げのその女神は、美しさなど微塵もなく、己が起こした多くの過ちを忘れ、その下卑た表情に、アイゼの心は、ハーナンを取り戻すため、その握る手に力を込めた。

「あああぁぁぁぁあああっっ!!!!」

 しなる剣は、女神の首を、鋭く狙った。

「『ダーケンスト。闇の中で舞え。』」

 声がおどろおどろしく、音が壊滅的なヒルワンの声が、魔法を唱えた。

 アイゼの剣が、唐突に重くなる。

 闇魔法は剣をアイゼから離した。

 アイゼは、離れた。その剣が、語りかけてくれる。父親が、彼女を守る方法を。

「あひゃひゃひゃひゃ! これがお前の剣か。」

 落ちた剣を握り拾った。剣を持たない剣士は、何も持たないただの人間。

「こんなもの! 塵にしてやる!」

 ヒルワンが炎魔法を唱えた。

「『ファイヤルーン。』」

 剣は燃え、なかった。炎を吸収し、剣そのものを、熱く煮えたぎらせ、それはヒルワンの手を燃えさせた。

「あああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 剣を捨て、腕を押さえた。

「はぁはぁ……。お父様の、剣?!」

 ヒルワンは絶望した顔をする。


 エンドスの剣は、焔の剣と呼ばれ。

熱を吸収し、その力を相手に与えるという。

――そんな。お父様も人間の味方を?!

 ヒルワンは、自分を愛してくれない両親に嫌悪を抱いて人の世界へと降りた。

 己が間違いだと認めたくない。

 矮小な存在だと思われたくない。

 神々が残したどの存在よりも哀れだと、思われたくない。

 ヒルワンが望んだことは、両親に愛されること、ただ一つ。

「っっ、は、ハハハハハ……。お父様は人間になられたの? わたくしよりも下等な。は、ハハハ、ハハハハハ……。」

 乾いた笑いは、壊れていくヒルワンから奏でられる。

「……。エンドス師匠は、誰よりもお前のことを愛しているよ。」

 ヒルワンにアイゼが小さく呟いた。

 アイゼは、剣がそうなると教えてくれていた。

 彼の想いに気づけば、彼女は燃えさかることもなかった。傷つくこともなかった。

「ハハハハ……。何が分かるの?」

 ヒルワンは、恐ろしい顔で見つめる。

「師匠は、お前のことを、俺に任せると言った。俺にその剣を渡して。娘は、愛を探していると。」

 ヒルワンは焼けた瞼の奥にキラキラと輝く瞳で、アイゼの言葉と、父親の面影が残る剣を見て、小さく言った。

「……。愛されたい。愛してくれる? 愛してくれていた。」

 ヒルワンは、もう、勝ち目のない戦いを、出来ないと理解した。

「お父様は、どこ?」

 ぼろぼろの彼女は、涙で見えない父親を探した。

 彼女の傷は、そう簡単に治らない。治せない。

 愛を知ったから。

 愛が、彼女の傷を広げ、心にしまったたくさんの想いを吐き出している。

 失った心に、最愛を探し、手を伸ばした。

 父親は、傷にガーゼを巻いていて、そっと娘の腕をとった。

「師匠。」

 アイゼは少しだけ嬉しさを感じた。エンドスは、ヒルワンのもとに来ないと思っていたから。

「探したよ、ヒルワン。」

 エンドスの父親としての声は、とても安心させる声で。

 愛する娘の身体を気遣い、優しく抱き上げると。揃っていた国の長とその関係者に、深々と頭を下げた。

 ヒルワンが女神という存在から、人間に堕ちたのは、焔の剣によって。

 焔の剣は、神という姿を燃やし、人間という新たな姿にヒルワンを変えた。

――師匠は、こうなると思った。こうしたかった。だから。

 アイゼは国の長と視線を交わし、走り出した。

 アイゼの愛する人が、戻ってくる場所に。

 愛は、必ず。

 その剣も。

 その銃も。

 その槍も。

 どんな防具すら。


 必要ない。

 ただ、求めた者が知る。

 人は愛を知り、愛のために戦い、愛のために勝つ。

 拳はいらない。

 持っているその心さえあれば、誰もが愛を持ち得る。

 詩が歌われ、叫ぶ気持ちは世界の果てよりも、海の向こうよりも、空の向こうよりも、ずっとそばにいる。

 貴方が欲しい。貴方の為に生きたい。

 愛の賛歌が歌われ、己の心に愛を注げ。

 物語は、貴方と共にあり、貴方の心のそばにある。


 愛のために、己を捨てる覚悟はあるか?



 エンドスは、己を盾にして、人間を庇い、その視線は、空の向こうだった。

「お前……。」

ラフレアは血が上り、その剣を振りかざそうとした。

 歌が聞こえた。穏やかな春の歌。

 ラフレアは見上げた。天界は遙か遠い空の向こう。

「堕ち……た?」

 ようやく、ラフレアは気がついた。

「あ、ああああぁぁぁあぁああ!!!」

空が割れ、ラフレアは理解した。

――おやめなさい、ラフレア。

女神フローリアが穏やかに言った。

堕ちた神々は、いや、人間になったその人々は、この争いの意味を理解する。

 誰もが平等に生きるべき人間になった彼らは、同じ人間と争うべきではない。

 天界は遙か向こうで閉ざされ、人々はもう戻れぬ場所。

 静かで、ずっと穏やかだったその場所に、戻れることはない。

――愛を知りなさい。生きるということをよく知るのです。

 女神フローリアは、愛を知っている。人間が罪を犯しても、愛だけは失わない。

 恵まれたその力を、フローリアだけが知っていた。


 争いは終わった。

 いくつもの物語の中で、このループだけが違った。

――愛の女神、フローリア。貴方は、そこに留まった。そこに留まった……?

 ハーナンは、ようやく、気がついた。

――終わった。全てが、終わった。争いはいつも神々の勝利だった。生きる者を焼き尽くしたエンドスが、戦を、止めた。

 ハーナンは、泣き続けるエルディラと、時が止まったジルドを見た。

――今なら。今ならきっと……。

 ハーナンは、エルディラとジルドのもとに駆け寄った。

 ひまわりが、守っていた二人を、ハーナンが触れた。

「『息吹よ、命の息吹よ。ハーレアン。』」

 命を吹き込む。

 エルディラもジルドも変わらない。

「お願い、時の中にいる私たち。力を貸して。彼らは生きるべきよ!」

 ひまわりの中に眠る、いくつものハーナンが輝いた。

 ひまわりが明るい太陽のように、輝きを放つ。

 時を越え、次元を越え、世界を越え、風が吹いた。

 吹き荒れる風がエルディラとジルドに吹き込む。

――命の息吹よ、愛の賛歌を!

 女神フローリアが荘厳な歌と共に、天界からも力を貸した。

「我も貸そう。」

 ダハネスが大きな声で、聖なる歌の魔法を唱える。

「……。歌おう。」

 エンドスが魔力を伴う歌を、重ねる。

 もと神々たちも、同じように魔力を伴う歌を歌った。

 力が命を灯すために輝く。

 ひまわりの力は徐々に上がっていく。

――私は、愛を知っている。けれど、愛よりも深い感情が今ここにある。

 ラフレアは、己の命の代わりに、二人に命を与えると決断した。

――魔力の溜まった今、私は。

 ラフレアは、己の魂を二つに別け、新たな命のために死を選んだ。

そのとき。

 ダハネスが彼女にそっと触れた。共に逝くと。

――あぁ……。愚かだったのに。

――愛はどこにでも咲く。死の先にも。

 二人は、愛を託し、消えた。

 宿った命のその先を知らなくても、彼らは、死の先で、愛のためにいきるから。


『愛の賛歌』

 歌が、響くその先まで。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。