《ゆづ、異界に立つ》9/20 ゆづ、全てを得、全てを失う
三人寄ってたかっていじめなんて、お前ら最低だ!─────『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………あの、」「ぐす、」
「………はい?」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「せ、」「精神的には、」「っていう………」
「………いや、ではなく」「肉体的に」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「あ、」「本番は、まだ」「っていう………」
「いえ本番もクソも」「人生で誰かに体を触らせたことがありません」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「もちろんトイレでも、パーティー会場でも」「どこでも」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「………いやそんな、」「今さら嘘つかなくていい」「ゆづが何してもうちらの中でゆづの評価は変わらない」
「…………」「アニカさん」
「…………」「え、」「うん………?」
「やめて下さい、さっきから」「わたくしがヤった前提で話を進めるの」
「…………」「え?」「ぜ、前提………?」
「はい」「庇って下さっているようですけど、迷惑です」「ヤってもいないことを庇われるというのは」
「…………」「?」「………???」「………え、」
「誹謗中傷です、普通に」「優しくて器の大きな態度と物言いで行われる、」「中傷でしかありません、さっきから」
「…………」「…………」「………いや、そんなことない」「あたしはゆづの若さ故の過ちを…………」
「犯しません、わたくしは」「少なくともアニカさんが意図するような〝若さ故の過ち〟というやつを」
「…………」「いやいや、誰だって若い時はミスの一つや二つ」
「犯しません。」「普通犯しません、少なくとも」「性的な意味では………」「わたくしの周りの同世代の子達も、みんな同じです」
「…………」「………?」「………???」
アニカさんは、面食らった齧歯類のような顔でルームミラー越しに私の顔をちらちらと窺っていた。
そうこうしているうちに、車はホテルの屋外駐車場に到着し、駐車スペースの一つに収まった。
「…………」「…………」「…………」「…………」
いくつかの高層宿泊棟が連なる形をした大ホテルが、小高い山の上に形成されていた。夜中だけどまだ全体的に明かりが点いていて、まばらな人の出入りも確認出来る。
「…………」「………いや、ゆづ」「無理しなくていい、確かに大事にはなってるけどあたしがちゃんと………」
「お前と一緒にすんな言うてんねん」
「………?」「はっ?」
「お前とは違うねんゆづは」「若い時だろうが何だろうが」「一緒にすんな」
「…………」「………な、」「何だよいきなり………」
「お前………」「あたしここに来て四年経つけど、」
「…………」「…………」「うん………?」
「その間何人の女性と関係もった?」
「…………」「………え、」「何だそれ」「今関係ないだろそんな………」
「ええから」「何人やねん」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「………いや、」
「うん?」
「…………」「…………」「………覚えてない、ですけど」「さすがに」
「そやなぁ?」
「…………」「…………」「はい、」
「あたしも覚えてない、」「来て三、四ヵ月で30人超えた時点で怖なって」「数えるのやめたから」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「あたしが知ってるだけでな?」「四年やったら」「延べ400人前後や」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………ここ数年は、」「結構欲が落ちたから」「そんなにはいってない、」
「そーなんか」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「………うん。」「リピーターもいるし、一概にその数とも」「言えないと」「いうか………」
「ほんなら何人や、四年で」「300人か」「200人か」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「ビョーキやねん、お前は」「若い時もビョーキやったから性的な粗相を度々繰り返して周りに迷惑をかけた、それだけの話や」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「ゆづはお前と違ってまともな部類の人間やねん」「一緒にすんな、ボケ」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
シキさんからの唐突な援護射撃を受け、アニカさんは前方向───ホテル側を向いたまま動かなくなった。
「…………」「…………」「シキさん、」「………ありがとう」
「…………」「………ゆづ、」「うちは、分かっとったで………」
「…………」「…………」「えっ?」
「例の女の匂いやけどな、」「服の下とか、股ぐらとかには一切、付いてへんかった………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「つまり、そういう行為はしてへんかった、ちゅうことや」「ていうかな?」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「もっとエグい匂いするもんやねん、人間同士がそういう行為した時って」「ほんまにそれこそ」「その直後のこいつの、」
と言ってアニカさんの座る座席の背を手の甲でぺし、と叩く。
「匂いなんかほんまにエグいから」「嫌な匂いすんねんほんま、独特の」「それをな、あたしもう何十回もかがされてんねんで?ここに来てからの四年で」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「だから、分かっとったあたしは」「ゆづが潔白やって」「そんな、こいつみたいな汚い行為にゆづが手を染めるわけない、って………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………シキ、」「さん………」
「………」「うん、ゆづ………?」
「………どうしてそれを」「もっと早く」「言ってくれなかったんですか………?」
「…………」「ゆづ?」「信じとった、うちは………」
と言いながらシキさんは、真っ直ぐな眼差しでこちらを見つめながら両手で私の左手を包み込んだ。
「なあ、ゆづ………」
「やだ………」「もう怖い………」「ちょ、ちょっと放して………?」
「ゆづ、何でや………」「仲良、しよ………?」
「やだ怖い」「もう………こっち来ないで?」「あなた一番怖い………」
「………ゆづ、」「ビュッフェ行こ?」「今からあの」「ホテルで………」
「ち、」「近寄らないで………」
「一緒に罪を、」「分かち合お………?」
「嫌だ、」「もう本当に嫌………」
「…………」「ビリビリした、」「っていうのは」
「………?」「………はい、」
「ビリビリした、っていうのは」「何?」
「………!」「そーだ………」「その話があった………」「それで初めての感覚を味わった、っていう………」
「…………」「………え、」
「何だったの?それは」
「…………」「………し、」「尻尾です………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「………何?」「尻尾………?」
「はい………わたくし、」「自分で自分の尻尾を掴んでそれで、」「ビリビリって、なって………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「それで同時に、腰も」「抜かしてしまって………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「え、自分の尻尾を自分で掴んで腰を抜かしたっていう………」「話だったの………?」
「………?」「………はい、」
「…………」「…………」「………えぇ?」
「…………」「弱点だもんね?ゆづは」「尻尾が………」
「はい………」
アニカさんがうっうん、と咳ばらいを一つして、座席シートに座り直した。
「…………」「…………」「ごめんね?確認なんだけど………」
「………?」「はい」
「トイレでたまたま一緒になった女性と、たまたま意気投合して話し込んだんだよ」「ね?」
「はい………」
「で、その最中に自分で自分の尻尾を、」「弱点である尻尾を腰砕けになるまで握り締めた、と」
「はい」
「…………」「…………」「………それは、」「何でなの………?」
「…………」「………えっ?」
「その………」「どういう流れ、というか………」「お相手?握ったのは………」
「いえ………それは」「わたくしが自分で………」
「………あぁ、」「…………」「…………え、」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「あの、」「その時についた、匂いなんです………」
「…………」「…………」「んっ?」
「あの、左手の匂い………」「左手で握ったから」
「…………」「………うん?」
「あまりの衝撃で、電気に打たれたみたいになって………」「ぎちぎちに握り締めて、取れなく」「なっちゃって………」
「うん………?」
「その手を剥がしてもらったんです、お相手の方に」「あの………」「わたくし自身の、尻尾から………」
「あぁー………」「はいはい、」「…………」「あ、それで………」
「はい、シキさんが最初に見つけた左手の匂いが………」
「あー、」「…………」「なるほどねぇ………」
「はい………」「…………」「…………」「あの、決して」
「?」「うん………」
「決して、左手が利き手というわけでは、」「ない………」
「…………」「うん?」「何?」
「あの、左が利き手だから、行為の最中に」「お相手の匂いが特に左手に色濃く付いていたというわけでは」「ない………」
「…………」「………うん、ごめんごめん」「ちょっと声が小さくて聞こえない………」
「右利きだもんね?ゆづは………」
「はい、」「ジル様………」
「…………」「…………」「うん、ごめん」「じゃあ猶更なんだけど」
「?」「はい」
「…………」「何でなの………?」「そんなわざわざ、会話の途中で」「急に………」
「…………」「…………」「………?」
「初めて会った人と喋ってる最中に自分の尻尾をそんな、」「自分で外せなくなるぐらいギチギチィ、って」「握り締めるのは………」
「…………」「………?」「………それは、」「…………」
「…………」「…………」「うん………?」
「………あったから」
「…………」「うんっ?」「あったから………?」
「………尻尾がそこに、」「あったから………」
「…………」「…………」「………し、尻尾が」「そこに………?」
「はい………」「気付けばそこに」「あったから………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
何故だか車内が変な空気に満たされる中、ジル様がギッ、ギッ、と音をさせながら体の向きを変えご自身が今まで座っていたシートに両膝を突いて、座席の背もたれ越しに私の真正面に体を向けた。
「…………」「ジル様、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
両腕をゆっくりと、座席の背もたれを抱えるようにしながらこちらに向けて差し出す。
「…………」「………ゆづ、」
「…………」「………はい」「ジル、様………」
「………これだけ、」「教えて………?」
「…………」「…………」「はい」
「ゆづは、まだ………」「綺麗なゆづの」「ままなの………?」
「…………」「…………」「…………」「…………」
泣き腫らした目はまだ潤んでいて、掴み返した両手は小刻みに震えていた。
痛ましいそのお姿を正面から直視して初めて、私は自分の犯した罪の大きさを知った。
「ゆづは………」「ハァ、」「ゆづは、私が知ってる、ゆづの」「まま………?」
「…………」「…………」「はい」「ジル、様………」「ハァ、」
「私、のことが」「好きで」「私、のことで頭、が」
「………はい、」「…………」「………はい」
「いっぱいの、」「ゆづ………?」「はぁ、」
「…………」「…………」「………はい、ジル」「様………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
互いの目からなみなみと溢れ出る涙が、全てを物語っていた。
最早理屈はいらなかった。
事実さえも、どうでも良かった。
私の答えはいつも一つだけだった。
ある日突然現れて、瞬く間に私の人生ごとを支配した、
たった一つの、答え────
「他のゆづには、なり様が」「ありません、ジル」「様………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「わたくし、ジル様を知ってから」「壊れてしまった」「………思い出せないんです、それまでの生活も、それ以前の自分が、どんなだったか」「さえ………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「ジル様のことを考えてない時の方が少ない、ぐらい………」「自分でも止め方が、分からない………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「だから、なり様がありません」「〝ジル様で頭がいっぱいじゃないゆづ〟」「には………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
私の目を覗き込むように見つめていたジル様がふぅぅ、と深く息を吐いた。
「…………」「…………」「あぁ、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「ゆづだ………」
「…………」「…………」「はい、ジル様………」
「私が知ってる、可愛いゆづ………」
「…………」「………はい」「…………」「はい、」
「ごめんね、疑って………」「こんなにも私とそっくりに話して」「こんなにも、」「愛を」
「…………」「はぁ………」「うっ、ぐ」
「全身で」「伝えて、くれてるのに………」
「…………」「いえ、」「めっそうも………」「…………」
「…………」「…………」「………はぁ、」「…………」
「わたくし、が」「悪かった………」「一時、でもジル様のお側を離れた」「わたくしが………」
「…………」「…………」「………あぁ、」「ゆづ………」
「こんなにお側にいて、わたくしを」「見てくださっている、のに………」
ジル様の柔らかい両の手が、私の頬を包み込んだ。
「…………」「…………」「ジル、様………」
「もう一度、呼んで」「くれる………?」
「…………」「………?」「はい、」
「お姉様」「って………」
「…………」「…………」「…………」「………!」
「お姉様って」「呼んで?ゆづ………」「だめなの、それじゃ」「ないと………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
体の芯からぶるぶるとした震えが起き、全身に波及していくのを感じた。
どう頑張っても目の焦点が合わず、ジル様が何重にも見えた。
耳の奥できぃん、という耳鳴りのような音が聞こえる。
「…………」「…………」「………お、」「………お、」
「…………」「…………」「うん、ゆづ………」
「…………」「…………」「………お、」「お姉」「さま、」
「………うん、」「………うん、」
「………ハァ、」「ハァ、」「…………」「………お、お姉」「様………」
「…………」「…………」「うん」「そうだよ?ゆづ………」
「…………」「あ、」「あぁ………」「…………」「………お、」「お姉、様………」
「うん、」「そう………」「お姉様だよ………?」「ゆづ………」
「…………」「あぁ、」「あぁ………」「お」「姉様………」「お姉、様」
「うん………」「ゆづ」「…………」「ゆづ………」
「…………」「あぁ、」「お姉様………」「…………」「好き、」「………ハァ、」「好き………」
「うん………」「…………」「………私も好き」「ゆづ………」
私とジル様は、抱き合って泣いた。
アニカさんも、ハンドルに突っ伏して泣いていた。
シキさんは中腰になっていて苦しかった私の腿の下にご自分の膝を差し込み、私の腰を抱いてその背中に頭を乗せていた。
私達は、みんな泣いていた。
一つの愛を、四人で分け合って。
こんなにどうしようもない私の、身勝手な愛を四人で一緒に分け合って───
「………バカ、」「バっカだなぁほんと」「ほんとにバカだ」「お前ら………」
「…………」「…………」「………ありがとう、」「アニカ………」
「…………」「いや、いい」「いいんだ、」「いいんだ」「本当に………」
「…………」「…………」「アニカさん………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「最後まで、一緒だぞ」「この四人は」
「…………」「…………」「…………」「うん………」
「…………」「最後なんて、」「最後なんてない………」「永遠や、この」「四人は………」
「…………」「…………」「………うん、」「そうだね」「シキちゃん………」
「うん………」「…………」「…………」「………でもさぁ、」「ゆづ」
「…………」「…………」「………はい?」「シキさん、」
「これだけは教えて?」
とシキさんが言った瞬間、私は何故だか全てを思い出した。
この場において最も重要な議題で、事実で、一番初めに思い出すべきだったこと、その全てを。
そして、
私はアニカさんが言っていたことだけが正しかったことを即座に理解した。
「…………」「あ、」「………あぁ、」「あぁあ………」「あ………」
「…………」「………?」「ゆづ………?」
脱力して座席シートにぺしゃりと崩れ落ちた私を、ジルアニさんが心配そうに覗き込んだ。
「…………」「………ゆづ、」「何だ、どうした………」
「…………」「…………」「………ゆづ?」
「あ、あぁ、」「あ、」「………あぁ、」「…………」「あ………」
「…………」「あのな?ゆづ」
「………あぁ、」「あ………」「シ、シキさん」「わた、」「わた、くし………」
「ちゅーは」「したやろ?」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………な、」「何?」「何だ………?」
「唇の上下からな?」
「あぁ、あぁ」「あ」「シ、」「シシキ、さん………」「あぁ………」
「べったり匂てん、相手の女の匂いが」「結構濃~いやつ、それも」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「あぁ、あ」「シキ、さん」「…………」「嫌………」「嫌っ、」
「100%キッスの跡やで、これは」「キッスした時にしか付かへん跡や」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「あぁあ、シ」「シキさん、」「…………」「あぁ、」
腰を抜かしてシートに沈み込んだままシキさんの和装の袖を手繰ろうとする私の手を無視して、シキさんは猶も淡々と続けた。
「白粉に加えて結構油脂分濃いめやったからぁ、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「………あぁ、」「あ」「…………わ」「わた」「わた」「くし………」
「頬・首・鎖骨周りのいずれかと見た!」「…………」「………どう?」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………口を付けた」「場所の話か………?」
「うん、そう」「絶対に、手の甲とかではない」「もっとぎっとりとしてしっとりとした、エッチな場所や」「しかもな?」
「………あぁ、」「あ」「シキさん………」「シキ」「さん………」
「相手の女の」「唾液の匂いがせえへんねん、ゆづの口の周りから」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「ということはァ~?」「真実は一つ!」
「あぁ、」「あ、」「あっハ、」「………あぁ」「あ゛ァ~………」
「ゆづから一方的に仕掛けとるんです!」「このキスは!」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「行為は無くとも好意は相手に寄せていて」「取り急ぎエッチな場ッ所にキッスだけしてそそくさと去ってきた」「という!」「うちらと合流する前のゆづの動向が浮かび上がってくるんですなァ~」「これ!」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「あ゛ぁ、」「あ゛っ、あ゛」「あ゛っ………」「………シキ、」「さん………」
「…………」「あら、」「どしたんゆづ」「えらいしんどそう………」
と言ってブンブンと反復運動を繰り返す肌色のワイパーと化していた私の腕をシキさんがとった瞬間、私はシキさんの膝にダイブした。
「…………」「あ゛っ、」「あ゛っ、」「あ゛ぁ………」「…………」「シキ、さん………!」
「…………」「…………」「………うん?」「どした、ゆづ………」
「わ、わた」「ア゛ッ、」「わた、くし」「ととんでもないっ」「こと、」「を………」「ア゛ッ、」
「…………」「…………」「うん」「かもなぁ………」
「………ア゛ッ、」「ア゛、」「アぁ………」「あぁ、あ」「あぁ、」「ア゛ぁ………」
「…………」「………うん。」「泣いたらええ」「泣いたらえぇ………」「…………」「………けどな?」
「………あ゛ぁ、あ゛」「あ゛っ、」「あ゛………」「あ゛ぁあ゛ぁ………」「あ゛っ、」
「嘘はあかん」「………嘘はあかんで、」「ゆづ………」
「あ゛ーっ、あ゛っ、あ゛っ」「わだ、」「わだくし」「死」「死んで、お詫び………!」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「キスっつっても………」「あれなんじゃないの?あの」「フランクな」「遊び半分のやつ、なんじゃないの………?」
「あ゛ぁ、」「あ゛っ、」「違、」「あ゛ぁっ、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………ん、」「何?何だ、ゆづ」
「わだ、ぐし、」「あ゛ぁっ、」「はっぎり゛と、」「性っ、欲、」「をっ、」
「…………」「…………」「………うん?」
「感じて、」「あ゛っ、」「M.E.K.A.舞子先輩、」「に゛、」「あ゛ぁっ、」
「…………」「…………」「………メカ、」「まいこ………?」
「あ゛ぁっ、」「あの、吸い込ま゛」「れ゛っる゛よ゛うな」「美形の小顔、にっ、」「隠れ美巨乳っ、の゛!」「ふんわり、」「ぼでぃ、に゛!」
「…………」「京家、M.E.K.A.舞子なの………?」「お前が、トイレで一緒にいた相手って」
「…………」「…………」「………誰?」
「あ゛ぁっ!あ゛んな至近距離っ、で」「大人の色香、でっ、」「いい匂い、までさせっで、」「あぁ、」「あんな、いい、」「女、ぁ゛………」
「………言わんでいいのよ、そんなことまで」
「誰なの?」「………誰?どこの誰?」
「治安維持部隊で最近ブイブイ言わせてきてる奴だよ」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「確か最近、」「また昇格したって言ってたな………」
「…………」「第一皇室?」「第二皇室?」
「…………」「第二皇室」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「いや、気にしなくていいよ」
「…………」「何で?」
「そういう奴じゃない」「多分、ゆづが勝手に………」
「…………」「………部屋、に゛」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「んっ?何だって?ゆづ」
「………部屋゛に」「誘われ゛、で」「わだ」「くし………」「ハァ、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「今っ………」「わ゛、だめだ、けど」「………つ、次誘って、ぐれ゛、だら」「あぁ」「あ゛り゛、がも」「………て、いうっ、ぅぅ意味っ」「で、」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「愛情込゛め゛、で」「…………」「媚び、媚び、のキッス、を」「しま、した」「………あ゛の゛、小顔、の゛」「えち、えちほっぺ、」「………に゛ぃ、」「い゛ぃぃい………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「………なんか」「自分からいらんこと言うなぁ、さっきから」
「…………」「………部屋に、」「誘った………?」
「いや、多分違う………」「まぁ知ってるから直接聞いて来るけど、ないと思うよ」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「普通に仕事中だった筈………」「今も、多分」
どさり、とジル様がご自身の座席シートに腰を下ろす音が聞こえた。
「…………」「…………」「………でも、」「欲情したんだ?ゆづ」「私以外の、女に………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「………はぁ、」「あ、ぁ………」
「…………」「…………」「………なんだった?」「もう一回誘われたら、あり………?」
「………あ゛、」「あ゛、ぁ゛ぁ、」「………っあ゛」
「…………」「…………」「………愛情込めて、」「媚び媚び、キッス………」
「あ゛ぁ、」「あ゛っ」「あ゛、」「あ゛………」
「………で、」「…………何だった?」「性的なミスは犯さないん」「だっけ………」
「あ゛ぁあ゛ぁ、」「あ゛ーっ、あ゛」「あ゛ーーーっ、あ゛っ、あ゛」
「…………」「…………」「………ゆづ、」「ごめんね………?」
「あ゛ぁ゛っ、」「あ゛っ、あ゛」「あ゛ぁ、」「お」「お姉様、」「お姉様ぁ………!」
「もう、」「いらない」「…………」「………さよなら」
がちゃり、ばたん、と一拍の間に二つの音がした。
ジル様の気配は、一瞬にして車内から消え去ってしまった。
「あ゛ーっ、」「あ゛っあ゛、」「あ゛ーーーーっ、」「お姉様、」「あ゛ぁ………!」
「…………」「………ちょっと見ててね、そいつ」
とだけ言って、アニカさんも続いて外に出て行った。
二人だけ取り残された車内で膝にしがみついてむせび泣く私の背中をとん、とん、と叩きながらシキさんは
「…………」「来年は、生ハムメロン」「食べられるかなぁ………」「なぁ、ゆづ」「どう、思う………?」
と優しく仰った。
【登場人物・用語】
白河ゆづ…………しっかりしているようで一番大事なことを忘れがちな人。人生で最も欲していたものを手に入れた直後にその全てを失った高低差でむせび泣いているが、そもそもこれが(本人の中では)夢だということも忘れている。誠実で清廉な人柄故に自分のミスを激しく後悔し全ての罪を進んで吐露しているがトイレでM.E.K.A.舞子と絡んでいた時はジルとこういった関係にあること自体知らなかった。ジルをお姉様と呼ぶことで強烈なエクスタシーを感じている。
ジル・スレイトアール…………清廉潔白な世界観こそ正義だと信じて譲らない人。「ゆづと自分にとっての最良な未来」=「清廉潔白な世界観の中に二人で閉じ籠りそこで結ばれること」だと本気で信じている。ゆづに関して〝ヤってないのか………?〟と思い始めたタイミングで久しぶりに直接言葉をかけている。お姉様と呼ばれること以上にゆづがテンパったり傷付いたりで限界化している姿に強烈なエクスタシーを感じる。
アニカ・サンドルート…………三、四カ月で約30人と寝る人。半年で45~60人、一年で90~120人、二年で180~240人………モテも行き過ぎると気持ち悪いだけ。ちなみにこれはシキが認識している分を基にした数字なので実際にはもっと多く、大体×1.3倍程度。最近は欲が落ちたと言っているが普通に嘘で、現在も四年前と変わらず盛況。一人暮らしだが一人で朝を迎える日はほとんどない。お相手は全て女性。人生でエクスタシーを感じる瞬間はほとんどないが、そこはかとなく気になっている女性がスレイトアール王国に一人いる。
犬神シキ…………場を自分的に面白いと思う方向に転がすことに長ける人。今回は車内の空気を二度反転させ、結果元に戻してより悪化させるという暴挙に出ている。あまりのタチの悪さにゆづにも警戒され始めているが、シキはゆづのことが大好き。〝行為後の匂い〟は汗に混じる油脂分や塩分、ミネラル等の配分で嗅ぎ当てている。犬の嗅覚を人間の洞察力で取り回す調査能力はやはり圧巻。エクスタシーとかはよく分からないが食べることがとにかく好き。ネタバレになって恐縮だが、生ハムメロンは今後創国祭会場で二度と出ない。
京家M.E.K.A.舞子…………至らない小娘により冤罪を負わされ、今後一生皇女に目を付けられ続ける人。第二皇室直下の王国治安維持部隊に所属する若手で、最近活躍が目覚ましい。この時間までに創国祭会場において違法薬物の取引き現場を計四つ押さえ、そのうちの一つにいた最重要指名手配犯を一人取り押さえている。そこはかとなく気になっている女性がスレイトアール王国に一人いる。
皇室…………スレイトアール王国の皇子達がそれぞれ統括する部署のようなもの。皇子に二人の補佐官が付いた三人態勢で運用されるパターンが一般的で、ジルの場合はアニカとシキがそれに当たる。ジルは第三皇子なので運営しているのは第三皇室だが、ゆづは半年前にそこに採用された新人。スレイトアール王国の警察機関に当たる治安維持部隊は七割を第一皇室が、三割を第二皇室が統括している。
お姉様…………職場の部下・(暫定)彼女という関係だけでは飽き足らず、姉妹という関係も結びたいと切望したジルがゆづに自分をそう呼ぶよう命じた呼び名。他にも度々ママと呼ぶように仕向けたりもしているが、これが異性愛カップル間で行われている行為だとしたらただの変態。一度目にそう呼ぶよう命じられた時より(この話の中で)二度目に命じられた時の方がゆづは1000倍喜んでいる。




