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【ネガ・にじバース】スレイトアール王戦記【第一章】  作者: Veis Vain Nova……


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6/20

《ゆづ、異界に立つ》6/20 ゆづ、空気が読めない




いいか、大人とは汚い生き物なのだ。どんな手を使っても勝つ!それが、大人ってものなのだよ─────『転生したらスライムだった件』



挿絵(By みてみん)



 全面ガラス張りのエントランスエリアを出ると、数メートル先の道路部分でジル様が手を挙げて車を呼んでいるのが見えた。数秒遅れて何だか高そうな黒塗りの車が滑り込んで来る。


「(…………)」「(………すごい車)」


車はクラシックな外国車タイプで、全体的に丸みを帯びたデザインの高級車だった。


夜の闇の中でも照明の光を反射して外装がキラキラと光っている。


「(ジンの車、みたいな………)」「(………あの、黒の組織の)」


お待たせしましたすみません、と呼びかけて振り向いたジル様はさっきまでのご乱行が嘘のように穏やかににこり、と微笑んで大丈夫だった?と体調を気遣ってくれた。


「はい………」「なんかちょっと疲れてた、みたいで…………笑」


「そっか………忙しかったもんね」


「…………」「はい………」


忙しかったのは嘘じゃない。


えぺ大会には三ヵ月間裏でも表でも本当にガチっていたし、その間収録も提出物も間断なくあったし、平常配信も欠かさず行っていた。


自分の周年記念の企画は全然面白いのが浮かばなかった上に謎の運営NGを何度もくらって、その間他のライバーの子の大型企画にゲストとして出演したりもしていた。


うん、


忙しかったのは全く嘘じゃない。


「じゃあ、行こっか」


「あ、」「はい。」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」


変な間が発生した。


みんなですっと車に乗り込んでさっと発進する流れだと思ったのに、ジル様もアニカさんもシキさんも誰も立っているその場から微動だにせず、そのまま立ち尽くしていた。


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「(………可愛い車だな、)」


と思った。今からさんかしこのお三方とこの車に乗って、


………………………………


………………………………


………………………………どこか、


ちょっとどこかは分からないけどどこかに行くわけだけど、


お三方を乗せて走らせるなら成程こういう車が似合うなと思った。


日本車ではまず見ない可愛らしい丸みを帯びたデザインで、


黒系だけどいかつくはならない絶妙なカラーリング。


「(…………)」「(…………)」「(…………)」「(…………)」


やっぱり、私は夢のデザインセンスがいい。


「(…………)」「(…………)」「(………うん、)」「(可愛いよ、これ…………)」


「…………」「…………」「………スゥー、」


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」


車やバイクのような乗り物に興味を惹かれたことはなかったけど、今私は初めて実物の車………


ではないけど。


目の前で乗り物の類を見て初めて可愛い、と私は明確に感じていた。


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「………あ、」「あの」


「………?」「うん」


「可愛いお車、ですね」


「…………」「…………」「うん………?」


「なんかあの、」「丸みがあって色味も良くて」


「…………」「うん………?」


「お三方にぴったり」「…………」


「…………」「そ、」「そう…………?」


「はい、もう…………笑」


「…………」「じゃあ、あれだね?」


「…………」「はい………?」


「ゆづのセンスが、いいんだ、ね………?」


「…………」「…………」「………えっ?」


「…………」「………え?」


「…………」「…………」「………?」


「え、だって」「ゆづが選んで、くれたんだから………」


「…………」「…………」「…………」


「…………」「………え?」「そういうことじゃ、ない………?」


「(…………)」「(…………)」「(…………)」「(…………)」


目覚めが近くて(私の)集中力が切れ始めたのか、夢の登場人物(ジル様)がメタ発言を始めたようだった。


ジル様もそうだけど、さっきからアニカさんやシキさんも様子がおかしかった。


パーティー会場から出て来て立ったままの場所から私が何か喋る度にちらちらとこちらを見たり、互いに視線を交わし合ったりで…………


昔観た映画で〝夢主がこれは夢なんじゃないかと思い始めると夢に登場しているモブ達がこちらをちらちらと振り返って訝し気な顔を見せ始める〟みたいなプロットがあったけど、もしかするとああいう状況なのかも知れない。


観たのが随分前なのでもう忘れてしまったけど、


モブ達の疑心が最大値まで高まると確か最終的に、何か良くないことが起きたような…………


「…………」「………あ、やっぱ」


「………?」


「そう、思います………?笑」


「………?」「う、うん、」「思うよ?いつも」「服も今日、すごい可愛いし、」「ね………?」


「…………」「…………」「…………」


確かに、今私が着ている服はとても可愛かった。


いつものモデルの衣装をそのままグレードアップさせたような正装着…………


ここは私の夢なのでこの衣装も当然私の発案ということになるけど、自分の頭の中のどこからこんな出来たデザインが出てきたのかは全然分からない。


「…………」「…………」「…………」


「…………」「………え?」「そういうことでも、」「ない………?」


「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「………え?」


「…………」「………ジル様も、とってもお可愛いです」「今日のお召し物」


「あ、」「…………」「ありが、」「とう………?」


「やっぱりわたくし、」「センスがいい…………笑」


「…………」「………いや、」「これは私が、自分で発注したものなんだけど………」


「あのう、すみません………」


と、車をここまで運転して来たスタッフの女の子が所在無げに声を出した。


「あの、サインを、」「頂きたく、」


「あぁ、ごめんごめん」「ごめんね?」


とアニカさんが言ったきり、また謎の時間が流れた。


さんかしこのお三方+私+駐車係の子の計五人が可愛らしい外車を囲んで佇む、


謎の時間が。


若干の気まずさを感じた私は今まで散々お世話になったパーティー会場に別れを告げるべく、視線を上げつつ後ろを振り返った。


「…………」「…………?」「…………!!!」「………えぇ、」


パーティー会場は、


壁だった。


大きなガラス張りのエントランスを中央に設置しただけの、


分厚いレンガ造りの巨大な壁…………


辺りに設置された照明からそれがフェイクではなく、ごつごつとした大振りなレンガをパテだかセメントだかで丹念に繋ぎ合わせた本物のレンガ壁であることが分かった。


「…………」「…………」「…………」


数歩下がって全体を見回すと先程予想した通り、やはりそれは城だった。全体がレンガで組まれていて先が尖っているタイプのよくある造りだったけど、問題はその大きさで…………


「…………」「…………」「…………」


首が痛い程に上を見上げても先端はやや尖っているのが確認出来るな、程度にしか見えず、横幅はどれだけ覗き込んでも端が見えない長大さだった。


中をうろうろと行き来した時点で大きいなとは思っていたけど、この分だと私が見たエリアはこの建物のほんの一部に過ぎないようだった。


「(…………)」「(………すっごいよ、これ)」「(この、建物………)」


「…………」「…………」「…………」


「(日本にはまず無いよ、こんなサイズの………)」


「あ、あたし書くわ」


と言ってペンを受け取ったアニカさんの声に続いて聞こえた


「…………」「………あ、」「すみません、お願いします」


という声には、どこか聞き覚えがあった。


「…………」「………?」「………あの、」「………え、ちょっと?」


「…………」「………?」「………はい?」


数歩歩み寄って見てみると、どうやらさっきさんかしこのお三方と合流する前に、


……………なんだったか。


なんだったかは具体的には忘れたけどソラさんの絵画の前で私が変な妄言を吐いた時にその様子を見て驚いていた給仕の子だった。


「…………」「…………」「………ちょ、ちょっと」


「………?」「………はい?」


「お、お顔」「お顔ちょっと、」「よろしいですか………?」


「え、」「………えぇ?」


暗い中照明を頼りに顔を改めさせてもらうと、その顔は烏丸水葉(からすまみずは)先輩のお顔だった。


小さな体に悪戯(いたずら)に吊った目、


口を開けると見え隠れする牙にも見える可愛い八重歯…………


照明を頼りに見させていただいた顔は間違いなく1年と半年先輩のまぼスタライバー、


烏丸水葉(からすまみずは)先輩その人のお顔だった。


「…………」「…………」「…………」「あぁ、」


「………?」「え、どしたの?」


「み、」「みじゅ、」「マル………」


「…………」「…………」「…………んっ?」


「み、みみ」「みじゅマル、」「先輩………」


「…………」「…………」「………え、何?」


気恥ずかしそうに小さくのけ反るその仕草は、


何度見ても間違いなくあのお可愛らしい烏丸水葉(からすまみずは)先輩そのものだった。


「何、知り合い?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「あ、あの………」「さっきお会いしたんですよ、」「ね?」


「あ、」「あぁそうなの?」


「はい、あの」「()()の、所で………」


「あーぁ………」「はいはい。」「あたしらと合流する前だ?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「なあ?」「そうだろ?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「ゆづ。」


「あっ、」「は」「…………」


「あれだろ?」「あたしと電話してた時にお会いしたって話だろ?」「この方と」


「あ………」「………は、」「い…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………なんか、」「すみませんね今日………」「ちょっと調子悪いみたいで………」


「あ、」「そうなんですか………?」


多分〝お会いした〟という言葉に反応したのであろうあの方が


「え、何何ー?」「何の話してるのー?」


と言って会話に参戦してきた。


「なんか、あれだって」「うちらと合流する前にこの子と会ってたんだって」


「…………っへー、、、、」「あ、どうも。」「ジル・スレイトアールです。」「第二皇女です」


〝まぁー、お可愛らしい顔をされていて、〟と言ってにこやかに手を差し出す。


「…………あ、これはどうも、皇女…………」「…………」「()ったい!!!!!!!」


「や、やめろバカお前」「やめろ本当に」


「どこでどうお会いして何をしたのか」「一挙手一投足を時系列順に並べて具体的に教えていただけますー?」


「やめろお前バカ」「一般の方だぞ」


「教えるか王権の恐ろしさを知って」「王国社会における己の立場の無さからくる力の無さを痛感するかどちらにするか…………」


「お前もう本当終わってんぞ」「一線超えてんぞ本当に」


自分と30cm近く身長差のある、子供と変わらないような体躯のか弱い一般人女性の手を捻り潰さんばかりに握り締めるという暴行を働いた皇女は、自分の手の無事を確かめる被害者に(アニカさんの制止ごしに)笑顔のまま歩み寄ろうとし続けていた。


がす、がす、がす、と高いブーツが石畳を擦る音がする。


「ジ、ジル様!」


「なんだこら」「この浮気者」


烏丸(からすま)先輩には偶然お会いしただけなんです」「会場で給仕をしてらしたから………」


「おーだから何だ」「見たら分かるわ」「立場の弱い下々の職の従事者なことぐらい」


「ジル様!」


「この淫売」


「ジル様!」


「落ち着けお前ら本当に………」「ちょっと話しただけだな?」「だろ?な?」「ゆづ」


「そ、そう」「あの………」


「おぅ………?」


「あの、ソラさんの絵を見て、あの」「か、」「可愛いなぁって、あの」


「…………」「…………」「あっ!?」


「素敵な絵だったから、あの」「圧倒されて………」


「あ゛ぁっ!?」


「お前バカ」「何で今そんな話」「お前ほんとバカ………」


「…………」「…………」「………あ、」


違う。


〝無意識エロ〟からくる〝絶対領域〟の話…………


だった。


そうだった。


「…………」「…………」「………違う」


「はっ!?」「…………」


「違いました。」


「…………」「…………」「…………」「何ガヨ!?」


「ジル様って」「本当に可愛いなって言ったんです、その」「ソラさんの絵の前で………」


「…………」「…………」「…………」「えっ?」


「そうだった………」「わたくし、ソラ先輩の絵を見て思ったんです」「ジル様って本当に………」


絶対領域がたまらん、


………………………………


………………………………


………………………………ではなくて、


白くてむちむち、


………………………………でもなくて、


あの………


「たまらなく心を惹き付けるよなぁ、って………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「ソラ先輩の、」「絵の前で………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………」「………つまり、あれだよ」「な?」「他の女性を見ても、こいつのことをどうしても引き合いに出してしまうっていう…………」


「そ、そうです」「言ってしまえば………」


「それくらい、頭の中はこいつで一杯、っていう」


「そ、そうそう」「そういう、」「ことです………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


あながち、これは嘘ではなかった。


私はいつでもすぐジル様のことが頭をよぎって場合によっては口に出してしまう癖があるし、


あの絵の前での(キモい)独り言も正に今アニカさんが言った流れで出たものだった。


「でも、確かに」「あの、仰ってました。」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「そういう、主旨のこと………」


「で、ですよね………?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「あと、あの」「お話し、」「してません………」


「あ、そーだ………」「そうでしたね、わたくし達………」


「はい、私が一方的に聞いて………」


「わたくしが会釈して、」「去っただけ………」


「そ、」「そうそう………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「大丈夫でした?その後………」


「…………」「…………」「………えっ?」


「すごく、泣かれてたから………」


「…………あ、」「あぁ………」


聞かれて………


と言うか


見られてたんだ、あの


小っ恥ずかしい


のび太泣き……………


………………………………


………………………………


………………………………ちなみに、


私は今両鼻に鼻血の止血用の詰め物を一つずつ入れていて、


それがどちらも半分ぐらいずつ露出している。


ソラ先輩の絵の前での発言、のび太泣きに加えて()()で、


私は今日だけで三つも烏丸(からすま)先輩に恥を晒している。


「泣かれてたって………」「あれか、ジル(こいつ)が言ってた」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「お前言ってただろ、」「めちゃめちゃ甘えたちゃんになってて」「泣き方も凄く可愛かったって、」


「フンッ!」


「!?」「あぁ()ったい!」


「!?」


「!?」


ちょっと何が起きたかは分からなかったけど…………


ちょっと何が起きたかは分からなかったけど、


アニカさんは左の足首付近を押さえて立ったまま一回転し、


車のボンネットにどさり、と腰を下ろした。


「(あぁ………もったいない)」「(いい車なのに………)」


「確かに………」「凄い、可愛かったです………笑」


「………え?」「………あ、いや」「…………」


「…………」「………ふふ、」


「…………」「………おは、」「お恥ずかしい、」「限り………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「ママー!って………」


「…………」「…………」「えっ?」


「ママー!って」「言ってましたよね………笑」


「………あ、」「いやいやいや、もう、」「それは」


「寂しくなっちゃった!」「って笑」


「いやもう、」「それはもう、」「………はい、」「…………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「羨ましいねって、言ってました」


「…………」「…………」「えっ?」


「みんなで、」「給仕の子達で」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「ほんまに好きで、信頼してる人がきっとおるんやろうね、」「って………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


烏丸(からすま)先輩………


通称みじゅマル先輩は関西出身の方で、


だけど(例えばシキさん等とは違って)活動上でお話しになるのは標準語で統一されている。


でもたまにこうして零れ出てしまう関西弁を聞くと、それは彼女なりの背伸びなんだなと思う。


最近モデルを元のロリかわなものから大人っぽいクールビューティーなものに変えられていたけど、


それもきっと、新しい何かになろうとする彼女なりの努力なのだと思う。


「…………」「…………」「………おい、」「アホ。」「異常者。」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「謝ってこい、バカ」「バカ皇女」


「…………」「…………」「…………」「…………」


みじゅマル先輩は1年半ぐらい先にデビューされた箱の先輩だけど、実は生まれ年が同じで完全な同い年だったりする。


仮に学生同士で同じ学校に通っていたなら気の置けない友人同士になっていたかも知れないこの方と、私は今も他人行儀で同僚同士でしかない関係しか築けないでいる。


烏丸(からすま)さん………」「だったよね?」


「…………あ、」「はい…………」


「大丈夫だった?手」


「あ、もう」「はい………」「全然笑」


「よかった」


正気を取り戻したジル様がみじゅマル先輩の握り潰した方の手を取り、名刺のようなものを一枚差し込んだ。


「あ、」「あ(いた)………」


「これ、うちの皇室(おうしつ)直通の番号なのね?」


「………あ、」「はい………?」


「仕事、欲しかったらいつでも連絡して?」


「…………」「…………」「えっ?」


「良いの用意するから」「こんな………」「…………」「じゃなくて、」


「…………」「…………」「…………?」


「今されているお仕事の10倍~稼げる仕事、全然紹介出来るから」


「!!」「………えぇ?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


どうやらジル様は迷惑をかけた一般の方に王族関連(公務系)の実入りのいい仕事を紹介することで埋め合わせをするおつもりのようだった。


「………い、」「いいんですか………?」


「うん、もちろん」「あなたみたいな人、前から欲しいと思っていたから」


「…………」「…………」「…………」「…………」


ジル様は、今ここで烏丸(からすま)先輩に初めて会って(八つ当たり気味に)暴力を一つ振るっただけの関係で、


彼女のことは何も知らない。


現実世界でも多分ほとんど話をしたことはなくて、やっぱり烏丸(からすま)先輩のことは何も知らない。


「嬉しい………」「助かります。」「ありがとうございます、殿下」


「うん………」「気にしないで?」「手、大丈夫だった?」


「はい、もう………」「寧ろ有難かったです、」「記念になると言うか………」


「うん………?」


「家族にも土産話が出来ました、」「〝これ、皇女に握り潰された手やねんで〟って………笑」


「うん………」「そうだよねぇ………?」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「もう、洗いません、この手」「今日は笑」


「うん………」「…………」「…………」「なかなか可愛いね?あなた」


ジル様は仕事のツテを一つ紹介しただけで、


さっきから謝っていない。


態度もどことなく上からで、烏丸先輩(一般の方)を下に見ているのがよく分かる。


「本当………」「世界変わるよ?」


「え、」「変えたいー笑」


「うん、変えちゃいな?」「君みたいな子には似合わないこんな………」「…………」「下らな………」「…………」「ねぇ?」


「変えたいと思ってたんです、」「でもなかなか」「切っ掛けがなくて………」


「うんうん。」


「だから本当にありがたい………」「え、もう」「明日にでも連絡していいですか?」


「うん………」「いいよ?全然」


「やった………」「本当に感謝します、皇女」


「………」「うん、」「なんか」


「………」「………」「はい?」


「いいね?あなた」


「………」「………?」「はぁ、」


「可愛らしくて、やる気もあって………」


「あ、」「ありがとう、」「ございます………?」


「何だっけ?お名前」「みじゅマル先輩、だった?」


と言いながらジル様がこちらに顔を向けるのに引っ張られるように、みじゅマル先輩もこちらに顔を向けた。


「そう言えば………」「何でご存知なんです?私の」「名前………」


「…………」「…………」「………え、」「…………」


「…………ん?」「知り合いじゃないのか?」「お前ら………」


とボンネットに座って左足の靴下をめくり、患部の様子を確認していたアニカさんも顔を上げたところで車のトランク部分に座ったままこちらに背中を向けていたシキさんが片手を口に当ててメガホンにし、半身だけをこちらに向け、


「帰りたいですゥー」


と背中越しに言った。


「…………あ、」「あたしも仕事あるんやった………」


「あそっかそっか」「そうだよな、この子仕事中だった………」


「ご連絡、必ずさせていただきますね?」「皇女」


と満面の笑みで微笑んで、烏丸(からすま)先輩は建物方向に小走りで走り去って行った。


「…………」「…………」「…………」「…………」


烏丸(からすま)先輩の去って行く背中を見送って視線を移すと、ボンネットに座ったままこちらを見ていたアニカさんと目が合った。


「…………」「………お前、」「…………」


「…………」「………?」「はい………?」


「ちょっと、後で話そうか」「色々………」


「帰りたいですゥー」


とまたシキさんが声を上げる。


「じゃあーうちのお犬様がご立腹だから、」「ゆづ。」


とジル様が私に向かって声をかけられ、


「まあ取り敢えず出るか、」「いい加減」


とアニカさんがそれに続き、シキさんが


「はぁーやれやれやで………」


と疲弊気味に仰って腰を上げ、全員が車の周りに立ったところで


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「…………」「…………」「…………」「…………」


また変な間が発生した。


お三方共がちらちらと私を見つつ、私を除いた三人で互いに視線を交わし合う謎の時間が。


「(………)」「(………もう、そんなに集中力が無くなってきてて夢の形が保てないなら)」「(一旦起きてもいいけどな、)」「(私………)」


と思った。


確かに細部まで作り込まれていて興味深くて面白い夢ではあるけど、


特に


ジル様のわたくしへの執着が山高で捨てがたい夢ではあるけど


「(…………)」「(…………)」「(…………)」「(…………)」


もうそろそろ起きてもいいな、とは正直思い始めていた。


飽きたとは言わないけど、正直心身共に疲れ果てていて、そういう意味で限界だった。


「(…………もう思い切りベッドに倒れ込んで)」「(寝てしまいたい…………)」


というのが正直なところだった。


…………これは夢で、


今現実の私は正にそうしている筈なのにも、関わらず。


「…………」「あの、あたし」「やるわ、今日は…………」


と言いながら軽くハンドルを回すジェスチャーをして、


アニカさんが車の左側に移動し、運転席のドアを開けた。


「あ、うん………」「それが、いいね」「それがいいと思う………」


と言ってジル様がその隣の助手席ドアを開けた。


「(はぁ、やっとか………)」


と思った私の、車を挟んだ向かい側でシキさんが


「はぁ、やっとか………」


と言って左の後部座席のドアを開けた。


一番遅れて車に乗り込んだ私がドアを閉めるのを待って車は、


車内に凄く変な空気を充満させながら


夜の街へと滑り出して行った。




【登場人物・用語】


白河ゆづ…………お行儀が良く品行方正な性格だが実は他人の気持ちに疎く、空気が読めずに場をおかしくしてしまうことが多々ある。先輩ではあるが同い年の烏丸にタメ口で話しかけるタイミングをちらちらと窺いつつ、もう三年が経過しようとしている。


ジル・スレイトアール…………おおらかで柔和な性格をしていて国民からの支持も篤い時期国王候補筆頭の一人だが、その実一般職に従事する人々を薄っすらと、無意識的に見下している。「どうして生まれてから大人になった時に○○になろうと思ったんだろう?」という思想を根底に持つ人。言動が荒れるのはその話題について余裕がなく、必死なことの表れ。


烏丸(からすま)水葉(みずは)…………地方から上京して取り敢えずのバイト感覚で飲食の仕事に就いていた若い女性。ほんのりと可愛らしいこと以上に尖った特徴は持たないが、人知れず隠し持っている超能力は尖り散らかしている。まぼスタではさんかしこと同じ青・赤・黄の構成をした三人ユニットの青を担当している。


アニカ・サンドルート…………人柄が良い故に損な役回りを負うことが多い人。若い頃はそれがたまらなく嫌だったが年を追うごとに「愛する連中のためなら損するのも悪くないか、」と割り切れるようになった。今回ゆづの症状について〝アルコールの過剰摂取〟〝薬物の服用〟〝女性との密通による情緒不安定〟以上の何かを感じ始めた。


犬神シキ…………〝興味がない会話には入らない〟〝帰りたい時は帰りたいとちゃんと言う〟等、他人と自分との間にボーダーラインをしっかりと引けている人。ご主人様が誰かともめていても我関せずで車のトランクに腰をかけ、横を向いて時間を潰しているのはいよいよ犬と言うより猫っぽい。


月咬(つきばみ)ソラ…………ジルとアニカの反応から分かるように、三人はこの世界でも知り合い。ゆづはソラの絵画を見た上でその上にジルへの劣情を上塗りし、その行動により今回事なきを得たわけだが、日によっては逆パターンを行う日も全然ある。


黒い車…………黒くてクラシックで見るからに高くて、にも関わらず丸みを帯びたデザインでどことなく可愛らしい印象を与える外車らしい外車。反社会的大組織が秘密裏に行動するために、それも日本の公道で用いるには少々目立ち過ぎる。ジルの発言通り、この車を選んで購入したのはゆづ。


のび太泣き…………天を仰いで「あ゛ぁーん゛」と発語する、日本固有の泣き方。〝セカイ系アニメ泣き〟とも。人と場合と作者によってはゼリー状の涙がドゥルドゥルと目から溢れ出し、頬を伝う。ゆづののび太泣きもその類。

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