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05娘のルミナの才能が花開く。侯爵のプロポーズ母の想いと母娘の絆、未来へ

 一方、今家族たちが暮らす国ではお店が大繁盛し、ルミナもすっかり生活に馴染んでいた。お店で接客を手伝ったり、新しい商品のアイデアを出したりと毎日をいきいきと過ごしている。目が輝いているのだ。


 娘には転生者特有のの知識を使い、どんどん新しいものを教えていく。昔から子守唄が代わりに現代の話を聞かせていた頃が、懐かしい。

 セレスティーナもアランもルミナも、裏切った国のことなど気にせず穏やかに幸せに暮らしている。この国に来てよかった。


「お母様。花瓶にね、模様を入れたらもっと素敵になると思うの」


 ルミナが目を輝かせながら新しいデザインを提案してくる。隣でアランが優しく頷きながら、ルミナのアイデアを形にしていく。素晴らしい。


「ルミナ。本当に素晴らしい才能を持っているね。すごいじゃないか」


「お母様には敵わないけれどね」


 家族の笑い声がお店に響き渡った。


 セレスティーナと夫アランのお店は、ルミナの尽きないアイデアのおかげでますます繁盛している。転生者として色々教えたからこそ、湯水のように湧くのだろう。

 断罪された国の悲劇を乗り越え、才能を思う存分に開花させていた。


「お父様、木材はもっと薄く削って、光を通すようにしたらどうかしら?窓辺に飾る新しいタイプのステンドグラスみたいになるかも」


 ルミナはアランが仕入れたばかりの木材を見ながら、目を輝かせた。突飛な発想は常に周りを驚かせる。

 提案で生まれた光の木彫りは太陽の光を浴びると、魔法のように色とりどりの影を落とし、あっという間に店の目玉商品に。それだけではなく娘はお店で使う布製品にも着目した。


「お母様、染物って色数が少ないでしょう?鮮やかな色が出せる染料を研究したら店の魅力がもっと高まると思うのだけれど」


 化学知識を多少なりとも持っていたセレスティーナ。ルミナと共に国の植物を研究し、新しい染料の開発に着手して細かく研究。

 持ち前の探求心と母の知識が合わさり、これまでになかった鮮やかな色彩の布製品が生まれていく。布はアランが作る木工品と組み合わせることで、独自の世界観を持つ商品となり、多くの人を魅了した。


 娘ルミナの才能はお店の枠を超え、やがて国の発展にも貢献するようになる。デザインした感情の花のオブジェは美しさだけでなく、心を癒やす力があるとして精神的な悩みを抱える人たちから絶大な支持を得るように。


 原理を応用し、子供たちの情緒教育にも役立つと判断され国の教育機関からも協力を求められるようになった。たくさん教えた甲斐があったというのだ。

 少しだけ囁いておく。ルミナは子供たちに色彩と形の持つ意味を教えたりして感性を育む新しい、教育プログラムを開発していった。足りない国の農業にも目を向ける。


「国の土壌は豊かだけど、効率的な栽培方法があるはず」


  図書館で古い書物を読み漁り、さらには現地の農家の人たちと交流し土壌改良や品種改良のアイデアを次々と提案。最初こそ半信半疑で受け止められた。


 実際に収穫量が飛躍的に伸びたことで誰もがルミナの才能を認めざるを得なくなる。嬉しい。ルミナの活躍は国王の耳にも届くようになり、若くして国の発展を担う人材として、目を向けられていく。

 多くの期待を背負うようになった。無実の罪で断罪された娘が今や異国で、国の未来を築くキーパーソンとなっているなんて。


 事実は何よりも誇らしいこと。ルミナの周りにはいつも笑顔と活気が満ち溢れていた。誰からも恋人を引き裂く令嬢と、呼ばれることはなく。ルミナとして皆から尊敬され慕われている。


 アラン達はルミナを温かく見守りながら、国で穏やかな日々を送っていた。肩を寄せ合う。

 ルミナが提案したアイデアをアランが形にし、母親がそれを広める。三人は家族として仕事のパートナーとして、最高のチームだ。


 ルミナが国の発展に貢献し、名声が高まるにつれて、周りには自然と人たちが集まるようになった。才能ある若者、熱心な職人、未来を夢見る人。その中でも、ひときわルミナを見つめる真剣な眼差しがある。


 彼の名はカイン。若き侯爵であり、次期国王の座にも近い、有力貴族の嫡男。ルミナの才覚と彼女の真っ直ぐな心に深く惹かれているらしい。


 カインはルミナが開発した新しい染料の鮮やかさに感銘を受け、教育プログラムが子供たちにもたらす笑顔を、目の当たりに。

 農民たちと膝を突き合わせて土壌改良について語る姿を見て心を奪われた、と。人の感性は人それぞれ。


「ルミナ様。情熱と知識は国を真に豊かにする力だと、信じています」


 カインは言葉を選びながら、真摯にルミナに語りかけた。貴族にしては珍しく身分や家柄にとらわれず。


 人たちのために尽くすことを心から願っている青年。この間なんて花の束をプレゼントしていた。

 ルミナもまた彼の誠実さと国を思う気持ちに、次第に惹かれているようだ。ここは親として見守るべきか。


 カインはルミナへの想いを募らせ、ついに彼女にプロポーズをした。


「もしよろしければ、このカインに、あなたの隣を歩くことをお許しいただけませんか?共に未来を築きたいと、心から願っております」


 カインの言葉にルミナは顔を赤らめながらも深く頷く。その瞬間、ルミナが本当に幸せを見つけたのだとわかった。


 親としてこれ以上ないほどの感動が胸を突く。不当な断罪を受けた娘が異国で真実の愛を見つけ、国の未来を担う存在になろうとしている。

 胸は安堵と喜びでいっぱいになった。同時に令嬢として娘を断罪から守った母として、ある懸念が過ぎる。


「ルミナ……カインさんは素晴らしい方。でも、貴族の国の中心に近い方の妻になるということは、様々な責任と時に理不尽な状況に直面する可能性があってね」


 ルミナに自分が経験したゲームのシナリオや、悪役令嬢としての断罪、王子たちの愚行について全てを打ち明けるべきかどうか迷う。再び、理不尽な運命に巻き込まれるようなことがあってはならないから。


 ルミナは真剣な表情を見て母の手を取る。


「お母様。もう大丈夫。お父様とお母様からたくさんの愛情をもらった。私は、この国を愛している。だから、どんな困難が待ち受けていてもきっと乗り越えられると思ってる」


 ルミナの真っ直ぐな眼差しに何も言うことができない。もういちいち守ってやる必要のないくらい、強く、しなやかに成長していた。決心する。

 ルミナには彼女自身の力で彼女自身の物語を紡いでいってほしい。経験したような苦しみはもう必要ない。祝福しましょうと目を伏せた。


 ルミナとカインの結婚は国の人たちから祝福され、盛大に執り行われた。綺麗。夫アランと共に娘の晴れ姿を感無量の面持ちで見つめる。

 理不尽な断罪から逃れ、家族と移住した地で娘は真実の愛を見つけた。国の未来を担う存在となったのだ。自身も夫と共に幸せな日々を送っている。


 ルミナがカインと結ばれ、国の未来を担う存在として活躍するようになって。夫婦の時間は一層穏やかで満たされたものになった。娘の成長を見守る喜びと共に夫婦二人の絆も深まるばかり。


 晴れた午後にアランが優しく提案してきた。


「セレスティーナ、今日は少し早いですが店を閉めて二人で出かけませんか?最近、新しい紅茶専門店ができたと聞きました」


 心が躍る。うちのお店は大繁盛してるが時にはこうして、二人だけの時間を過ごすのが何よりも大切だと思っている。


 もちろんと頷くのは忘れない。手を取り合って街の中を歩く。アランはこちらの歩幅に合わせてゆっくりと歩き、時折、手の甲を優しく撫でてくる。


 温かさにうっとりと満たされていく。新しい紅茶専門店は香しい紅茶の匂いに包まれた、居心地の良い場所だった。窓際の席に座り、それぞれお気に入りの紅茶を選ぶ。


 アランはミルクティー。セレスティーナはハーブティーにした。テーブルに置かれた小さな花瓶には色とりどりの小花が飾られている。可愛い。


「最近のルミナは、本当に生き生きとしているね。カイン殿と出会って、さらに輝きを増したようだ」


 アランが微笑みながら言う。彼の言葉に心から頷いた。


「ええ。あの子は幸せそうで本当に嬉しい。出鱈目な断罪からこんな未来が待っているとは夢にも思わなかったけど」


 ルミナの成長やお店の新しいアイデアについてゆっくりと語り合う。他愛もない会話。アランと一緒ならどんな話も特別な時間になる。


 穏やかな声を聞いていると深く安らぐ。こんなに美味しいのならパンケーキも合いそうだと、考えている間も彼と共に居られる幸福は何物にも変え難い。紅茶を飲み終え、店を出た。


 夕暮れ時。空は柔らかなオレンジ色に染まり、街は穏やかな賑わいを見せている。


「セレスティーナ」


 アランが立ち止まり手を取る。瞳は夕日に照らされて琥珀色に輝いていた。


「君と出会って本当に幸せだ。君が私を選んでくれたこと、ルミナを授けてくれたこと全てに感謝している」


 思わず涙ぐむ。悪役としてゲームのシナリオに縛られ、王子に婚約破棄される運命に怯えていた。


 今、隣にいるのはゲームのキャラクターでも高慢な王子でもない。一人だけの夫。

 どんな過去を背負っていようとどんな秘密を抱えていようと、全てを受け入れてくれた。セレスティーナを心から愛し、守ってくれる。彼こそが真実の王子様なのだと改めて思う。


「アラン……私も、あなたと出会えて本当に幸せ」


 手にそっと自分の手を重ねた。子供を産んでも愛しい女性として扱われるなんて当たりくじに当たっているような気分になる。手をつなぎ家路につく。明日も明後日も穏やかな日々が続いていけばいい。


 穏やかな幸せを享受する物語のささやかな一ページのように。

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