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39ドラゴンがきゅうりに驚いてこちらも驚いた話

 伝説の存在であるドラゴンについてその日の夜、再び家族会議を開く。竜の山での花火打ち上げという前代未聞のプロジェクトについて。


「竜を鎮める、絆を築く花火……これまでの花火とは全く異なる意味を持つことになるけど。無茶ぶりよ」


 セレスティーナの怒りにルミナが目を閉じ、何かを深く考えているようで。


「お母様、私試してみたいことがあるの。以前、花火の実験中に一時的に周囲の魔力を安定させる効果を持つ魔力凝縮結晶ができたことがあったわ。もし、それを応用できれば竜の山の不安定な魔力の流れの中でも、安全に花火を打ち上げることができるかもしれないの」


 ルミナの言葉に希望の光が差す。


「 竜を鎮める花火となると美しいだけでなく、何か竜が好むような安心するような特別な光の演出が必要になるだろうな」


「竜との間に絆を築く花火となると……昔、故郷で読んだ絵本に光の玉を追って遊ぶ竜の絵があったわ。竜も光に興味を持つのかもしれない」


 故郷の記憶を辿りながらアイデアを出し合う。こうして、竜の山での花火打ち上げプロジェクトが本格的に始まりました。

 アランとルミナは不安定な魔力の流れに対応できる新たな魔力凝縮結晶の開発と、竜の気を引くような光の演出を追求。


「アランお父様、魔力凝縮結晶、もう少しだけ出力が安定すれば竜の山でも問題なく使える」


「結晶の素材配合を微調整してみるか」


 実験中に予期せぬ魔力の暴走が起こり、工房が一時的に停電することも。皇帝の寝所に花火を打ち込もうかと思ったが、二人の頑張りを見ると我慢した。


 歳を取るとちょっとだけ怒りっぽくなるかもしれない。ついに竜の山での花火打ち上げの日がやってきて、特別な魔導車に乗り込む。厳重な警備の中、竜の山へと向かう。


 山は霧に包まれ、奥からは時折、巨大な生物の咆哮のような音が響いてくる。


「お、お母様、ほ、本当に、竜は現れるのでしょうか?」


 少し緊張した面持ちになる。


「分からないわ。でも、私たちができることは最高の花火を打ち上げること。それだけ」


 伝説のドラゴンとの出会いへの緊張感。


「あ、この山、やっぱり魔力の流れが不安定! 打ち上げ装置の微調整が、これほど難しいなんて」


 ルミナの声は緊張で少し上ずっていく。今、竜の山の頂上付近にいて、周囲は濃い霧に包まれ、足元からは冷たい魔力の流れを感じる。


 アランは打ち上げ装置の最終調整に汗を流していて、こちらへ意識を割けない。


「大丈夫よ、あなたたちがいてくれるならどんな困難も乗り越えられる」


 娘の肩にそっと手を置いた時、ごう、という低い唸り声のような音が霧の奥から響く。


「来た!」


 アランが低い声で呟いた。霧が晴れ始めると目の前に現れたのは巨大な翼を持つ、伝説のドラゴン。鱗は深緑色に輝いていた。瞳は金色に鋭く光る威容に思わず息をのむ。


「陛下から聞いた通り。本当にこんな近くで出会えるなんてっ」


 ルミナが恐怖と興奮の入り混じった表情になる。ドラゴンはこちらをじっと見つめ、威嚇するように低い唸り声を上げた。


「ルミナ。落ち着いて」


 自分自身に言い聞かせるように深呼吸。ドラゴンが再び咆哮すると、風圧で足元に置いてあった夜食用のバスケットからキュウリが一本、転がり落ちていく。


 あ、おやつのきゅうりが。コロコロコロコロ。転がり落ちたキュウリは、ドラゴンの前足の近くで止まる。


 それまで威嚇していたドラゴンが一瞬、動きを止めたかと思えば、金色に輝く瞳が転がったキュウリにじっと向けられているではないか。


「ほへ?ドラゴンが、キュウリを?」


 ルミナが呆然とした声で呟き、アランも目を丸くして光景を見る。ドラゴンはゆっくりと顔を下げ、鼻先でキュウリをツン、と突く。

 くんくんと匂いを嗅ぐとおもむろにキュウリを口に運び、ポリポリと音を立てて食べ始めた。


 音は小動物が草を食べるような、意外なほど可愛らしい音。巨大なドラゴンが一本のキュウリを大切そうに食べる姿は奇妙でどこか気が抜ける。


「ふ、ふふ!ドラゴンがキュウリを食べるなんて、ね!」


 ルミナが思わず笑いをこぼす。威嚇的な雰囲気は一変し、好奇心旺盛な生き物のように見える。


「アラン、ルミナ今よ。この隙に花火を打ち上げて」


 予期せぬ出来事をチャンスと捉え、すぐに指示を出した。ドラゴンがキュウリに夢中になっている隙に急いで打ち上げ装置を起動させる。

 ヒュルヒュルという音を立てて、花火が夜空へと上昇していく。パーンと弾け、美しい光の花が夜空に咲き誇る。


 ドラゴンはキュウリを食べるのをやめ、夜空に咲く花火を見上げて金色に輝く瞳は恐怖の色ではなく、好奇心とどこか満ち足りたように見えた。


 様々な色の花火を打ち上げていき、水色や黄色の光が夜空に広がる間にもアランが特別に用意したキュウリの匂いを微かに含んだ、魔力凝縮結晶を打ち上げた。


 光が弾けた時、ドラゴンは満足そうに喉を鳴らし、こちらへ優しく目を向ける。花火が終わる頃にはドラゴンの威嚇的な雰囲気は完全に消え去り、光の魔法を楽しんでいるかのよう。


 打ち上げが終わるとドラゴンは、ゆっくりと近づいてきて巨大な頭を前にそっと差し出す。アランとルミナは恐る恐る、瞳に好奇心を溢れさせながらドラゴンの鼻先に触れる。


 セレスティーナもドラゴンの鱗に触れれば、想像していたよりもずっと温かく滑らか。ドラゴンは満足そうに喉を鳴らし、見つめてくる。


「私たち本当にドラゴンと友達になれたみたい」


 ルミナが感動で目に涙を浮かべる。


「光の魔法だったわ。キュウリがきっかけを作ってくれた」


 きゅうりをもっと作ろうと決めた瞬間だった。

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