38荒野の爆走が忘れられない旅になったのは言うまでもない
リスクマネージメント管理はとてもとても大切。帝都での滞在中、黄金の花火の開発に没頭する。帝国の工房は今住んでいる国よりもさらに進んだ魔導技術が研究されており、新たな知見を得ることができた。
「お母様、煌めきの砂金を使えば黄金の光をより鮮明に出せるかもしれない。でも、魔力の消費量が大きすぎる」
ルミナが山と積まれた魔導素材を前に、頭を悩ませる。
「消費量を抑えつつ、輝度を上げるには魔力凝縮結晶の構造を根本から見直す必要があるなぁ、うーん」
アランが複雑な数式を書き込みながら言う。
常識を覆すような魔導技術の開発に挑んでいた。セレスティーナも故郷の化学反応の知識を思い出し、魔導技術に応用できないかと様々な文献を読み漁る。
黄金色を出すための発光材料、それを安全に安定して発光させるための方法は、これまでの花火開発とは一線を画す未踏の領域への挑戦。
時には実験中に予想外の反応が起こったり、狙った色が出なかったりすることも。ついでに荒野で車の爆走もやっておこう。
「黄金の花火は技術の集大成となる」
アランが夜遅くまで研究室に残るセレスティーナに温かいコーヒーを差し出す。
「夢の始まりでもあるわねぇ」
ふっと目を伏せた後日。
「母様っ、黄金の煌めき結晶! 帝国の象徴たる黄金色なの!」
ルミナの興奮した声が帝都の工房に響く。光を放つ小さな結晶が。
色は純粋な金のような輝きを放ち、見ているだけで心が奪われるほど。なかなかいいハンドルテクニックになってきたのに、見せ場がなくなったようだ。
「皇帝陛下も喜んでくださるわ」
夫も満足そうに頷く。
「結晶を安定して発光させるための、新たな魔力制御装置も完成した。打ち上げ装置も、帝都の広さに見合うよう大型化させたからこれまで以上の壮大な光景を作り出せる」
自信と大仕事を成し遂げた達成感が滲む。
建国記念祭当日、帝都はかつてないほどの熱気に包まれており、祭りの中心となるのは皇帝陛下が住まう壮麗な帝国城。
城壁は高くそびえ立ち、威厳は国の繁栄と歴史を物語っている。
帝国城を望むことができる広大な広場に設置された打ち上げ台へと向かえば、周辺にはすでに大勢の人が集まっていて期待の眼差しが向けられていた。
「こんなにたくさんの人が、私たちの花火を待っているなんて……」
ルミナが少し緊張した面持ちで興奮した声で囁く。
「大丈夫よ落ち着いてルミナ。これまで通り、最高の花火を打ち上げればいいのだから」
娘の手を握り、励ます。もし、ダメなら母の両腕が唸るだけだ。アランは、打ち上げ装置の最終確認を入念に行って、瞳も真剣そのもので集中力は周囲の喧騒をもかき消してしまう。
祭りの賑わいが最高潮に達した頃、司会者の合図と共に広場の全ての明かりが消され、帝都の夜空は深淵の闇に包まれ、皆は固唾を飲んでその瞬間を待つ。
帝国城の窓には皇帝陛下と家族の姿が見えた。こちらを細部まで見れるわけもないからと、楽な姿勢でいるセレスティーナ。
荒野を走るシミュレーションもばっちりだ。ここからの逃走ルートだって、すでに頭の中にある。
「皆様! 我々が開発いたしました、夜空を彩る光の魔法をご覧ください!」
声が響き渡り、最初の花火が打ち上げられた。音を立てて上昇した光が夜空でパーンと弾け、鮮やかな黄金色の光の玉が大きく広がる。輝きは帝国の象徴たる威厳と繁栄を思わせる。
「きゃー!すごーい!」
「おおおおお!」
「でかい!」
国民からどよめきと皇帝陛下も驚きの声を上げた。続いて無数の黄金の花火が次々と夜空に。
帝国城の荘厳なシルエットを背景に黄金の光が夜空に舞い散る様子は、息をのむような美しさ。
一つ一つの花火が異なる形や輝きで夜空を飾り、人間達は夢中になってそれを見上げては叫ぶ。
「皇帝陛下の御代を祝うにふさわしい光だ!」
「見たことがない!最高だ!」
クライマックスには無数の黄金の花火が一斉に打ち上げられ、帝国城も黄金の光に包まれれば空に浮かぶ黄金の宮殿のように見えた。花火が終わった後も皇帝陛下が直接来て、深々と頭を下げる。
「セレスティーナ殿アラン殿、ルミナ殿。貴殿らが夜空に咲かせた黄金の花火は、我々の建国記念祭を比類なきものとしてくれた。貴殿らの才能と情熱に心から感謝する」
「陛下。花火が皆様の心に、かけがえのない思い出を残すことができればこれ以上の喜びはございません」
ふふ、と笑った。荒野の爆走が忘れられない旅になったのは言うまでもない。
*
「皇帝陛下からの特別なお手紙。今度の建国記念祭で打ち上げた黄金の花火に、大変感動してくださったって」
帝都での滞在を終え、ふわふわ亭に戻ってきたばかりの元に響き渡った。再び豪華な封蝋が施された書簡が握られていて、花火が帝国の建国記念祭を無事に成功させることができたことに安堵する。
「荒野の時の、じゃなかった……ええっと」
書簡を受け取り、中を読み進めましたそこには皇帝陛下からのさらなる、驚くべき依頼が記されている。
「皇帝陛下が仰るには帝国の北部に位置する、竜の山と呼ばれる場所で新たな花火を打ち上げてほしい、と」
ルミナとアランは息をのむ。竜の山とは名の通り、伝説のドラゴンが住むと言われるこの世界でも最も危険で誰も近づけない場所の一つ。
「竜の山ですか?お母様、それはあまりにも危険ではないですか?」
ルミナが不安げな表情で言い、アランも真剣な顔で私を見つめる。
「陛下は山に住まう竜が最近人里に現れることが増え、不安が広がっていると。私たちの花火の光の魔法が竜を鎮め、あるいは竜と人との間に新たな絆を築くきっかけになるのではないかと、期待していらっしゃるのだとか」
アランが口を開く。
「竜の山は魔力の流れが非常に不安定な場所だと聞く。花火を打ち上げるとなると、これまでの技術だけでは難しいかもしれないな。実際に竜が現れるとなると……」
懸念はもっとも。




