37なにかあって罰されたらセレスティーナは車に全員乗せて、爆走して全てを捨て他国へ行くことも考えておこう
娘の才能に感嘆しつつ、いよいよ隣国への出発の日がやってきた。家族はアランが運転する特別な大型魔導車に乗り込み、国境を越えていく。車内には花火を詰めた頑丈な箱がいくつも積まれていく。
「おばあちゃま、隣の国ってどんなところなのかな?遊園地はあるかな?」
孫がわくわくした様子で窓の外を眺める瞳は、新しい世界への期待でキラキラと輝くほど。可愛らしい。
「素敵で新しい発見がたくさんあるわ。楽しみよね。お土産たくさん買いましょう」
孫の頭を優しく撫でる。
「おかーさまー!見て〜! これこれ!この青い星の花火と、黄金の陽光花火! 隣国の王女様も喜んでくださるものよ!」
ルミナの興奮した声が隣国の王都の広場に響き渡る。いくつになっても意欲的な娘は可愛い。
孫と娘に囲まれて幸せなサンドイッチ状態なセレスティーナは、朗らかに応える。彼女の手には今回の独立記念祭のために特別に開発した、水色と黄色の光を放つ魔力凝縮結晶。
王都の広場には花火を打ち上げるための特設台が設置され、アランが最終調整を行う。
「水色と黄色の花火は隣国の夜空にぴったり。彼らの国旗の色でもあるもの。サプライズよ」
空を見上げながら微笑むのは、カイン侯爵が隣国の王家との交渉を全て取りまとめてくれたおかげで、滞りなく準備を進めることができるから。
独立記念祭の夜、王都の広場は熱気と興奮で満ち溢れて隣国の王族や貴族たち、一般市民が今か今かと花火が打ち上げられる瞬間を待ちわびている。
「皆様。 我々が開発いたしました、夜空を彩る光の魔法をご覧ください」
ルミナの声が響き渡ると同時に最初の花火が打ち上げられた。ヒュルヒュルという音を立てて上昇した光が夜空でパーンと弾け、鮮やかな水色の光の玉が大きく咲く。
「おおおおお!」
「わーっ!」
国旗を象徴する水色の光が夜空に広がる様子に、大きな感動を覚えているよう。
続いて黄色の光の玉が次々と夜空に咲き誇り、水色と黄色のコントラストが夜空に美しく映えると夢中になってそれを見上げた。
「なんて美しいんだ……空に国旗が描かれているようだ」
「こんなの、今まで見たことがない!」
興奮して跳びはね、感動のあまり夜空を見つめ、クライマックスでは水色と黄色の花火が無数に打ち上げられ、夜空は昼間のように明るく幻想的に彩られる。
ここまではほとんど同じ。フィナーレを飾るのは二つの色が混じり合い、七色の虹のように輝く壮大な花火。
夜空に咲き誇った瞬間、再び大きな歓声を上げて惜しみない拍手が夜空に響き渡って花火が終わった後も、興奮冷めやらぬ様子で感動を語り合う。
隣国の王女が駆け寄ってきたと思えば、深々と頭を下げるではないか。
「セレスティーナ様、ルミナ様、アラン様。本当に感謝いたします。花火はわたくしたち国民に忘れられない独立記念祭の思い出を与えてくれました。貴女方との出会いは奇跡ですっ」
王女の言葉にこちらとて胸がいっぱいになった。
「いいえ王女様。私たちが独立記念祭に貢献できたことこそ、光栄でございます」
微笑んで答えられたのは同じ気持ちだからだろう。後日、紙を持った一人がこちらへ駆け込んでくるのが見えた。それを見てふふ、と笑う。
「お母上様〜!見てください! 王都からの伝令。皇帝陛下がわたくしたちにお会いになりたいって!」
興奮した声が朝のふわふわ亭に響き渡り、そこには豪華な封蝋が施された書簡が握られている。隣国での花火の成功は、さらに先の大国である帝国の皇帝の耳にまで届いていたようだ。
「皇帝陛下に私たちが?」
驚きを隠せない。帝国の皇帝陛下といえば大陸で最も権力のある人物。家族に直接会いたい、と仰せとは。断るなんてことは無理なので……数日後、アランが運転する特別仕様の大型魔導車で、帝都へと向かう。
国の王に一応言ったらついて行くと今にも言いそうだったけれど、流石にスケジュールの調整を今からしたとしても難しいから言えなかった様子。
ハムスターのような潤んだ瞳で頑張るように言われた。あれは哀れみ?それとも感動?
帝都は国とは比べ物にならないほど巨大で壮麗な建物が立ち並び、人が行き交う様子は故郷の大都市のようだ。皇帝に謁見すると、陛下は花火の技術と込められた平和への願いに、深く感銘を受けていると言い出す。
「セレスティーナ殿、アラン殿、ルミナ殿。貴殿らが夜空に咲かせた光の魔法は、我々の想像をはるかに超えるものだった。国民は皆、貴殿らの花火に魅せられているのだよ」
皇帝の言葉は威厳に満ちていながらも温かい響きが。
「実は来月、我々のもう一つの建国記念祭を盛大に催す。それでな、その際貴殿らに特別に黄金の花火を打ち上げてほしいのだ」
皇帝陛下の言葉に心臓が大きく跳ねる。黄金の花火。帝国の象徴の色であり、国が最も大切にしている色。
「黄金の花火でございますか……」
ルミナが少し戸惑ったように言う。これまでの花火は既存の材料や魔導石の色を基に開発してきたが、黄金色の光を作り出すのは並大抵のことではない。
「陛下、黄金の光は非常に繊細な魔力の調整が必要となります。最善を尽くさせていただきます」
アランが一歩前に出て力強く言う。瞳には職人としての新たな挑戦への強い意欲しかない。
「ご安心ください陛下。族の力を合わせれば陛下の期待を超える、黄金の花火を夜空に咲かせてみせます」
陛下に深々と頭を下げ、決意を伝えた。なにかあって罰されたらセレスティーナは車に全員乗せて、爆走して全てを捨て他国へ行くことも考えておこうと頭に描いておく。




